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創作(タイトル未設定)  作者: ゼロ_Rose
序章-プロローグ「ロゼ」
2/22

(2) イリスの花畑

その後、すっかり仲良くなった私たちは、あの大きな桜の樹の下で駄弁っていた。

「そういや、ロゼはどうしてここにいたの? 私、ここら辺はいっぱい探検したはずなんだけど、自分以外の誰かがいたような感じはしなかったし……」

「そうだったの? 俺はずっとここにいたよ」

「ええっ、ほんと……?! どうして見つけられなかったんだろ……」

 私は少ししょぼくれた。

「うーん……まあ、ここは広いからね。たまたま見えない位置にいたのかも」

「そっかぁ……。ねえ、ロゼってよくここに来るの?」

「うん。ほぼ毎日行ってるよ。」

「ほぼ……毎日?! そんなによく来てたんだ……。確かにここ、綺麗だし癒されるよね!」

「でしょ? 結構前に見つけたんだ。」

 結構前から……。私ももっと前からここを見つけられていたら、ロゼに早く出逢えたのだろうか。

「凄いなぁ、私ももっと早く見つけてたらよかった。だって、そうしたらもっと早くロゼに逢えたもん!」

「はは、そうだね。嬉しいなぁ」

 彼は嬉しそうに笑った。

「……そういえば、レイカはどうやってここに来たの?」

「え、えっと……」

 どきりとした。別に隠し事をしたいわけではない。でも、まさか……まさか家のはずれにある小屋の、しかも突如現れた謎の扉を入ったらここに来たなんて、誰も信じないだろう。

 しかし、彼ならどうなのか。この不思議な場所に前からいたという、彼なら。

 迷う時間は長いようで短かった。

「い、家の近くにある小屋の中にね、急に光る扉が現れて……そこに入ったら、ここに出たの……」

 彼は軽く驚いたような顔をした。けれど、怪しんだり、馬鹿にしたりとか、そういうものは全く感じなかった。

「小屋の中に……扉ね……。」

「うん。その小屋も、いつも鍵がかかっててね。家の人には「入るな」って言われてるんだけど……」

 はっとした。しまった。親の言いつけを破ってきたことを自分で白状してしまっている。私が悪い子だってことが、ロゼにバレてしまう。

「いっ……言いつけ守らないできちゃったなんて、悪い子だよね……!」

 彼はどんな顔をするのだろうか。引かれたら、嫌われたらどうしようと不安で仕方がない。

「……でも、レイカが来てくれたから、俺は君に逢えた」

「あっ……。」

 驚いた。まさかそう返してくれるなんて。

「だから、ありがとうね。俺に逢いに来てくれて」

「えっ、えへへ……。どういたしまして! そんな風に言ってくれた人、初めてだから嬉しいな……」

 本当に、ロゼは不思議な子だ。

「それはよかった。……そういえば君、帰り道は大丈夫? 扉がそのまま残ってたらいいんだけど」

「あ……確かに。扉……ええと……」

 すっかり忘れていた。ここに来れたことの驚きや戸惑いよりも、彼に出逢った喜びやらなんやらの方が大きかったから。

「うん! あった……!」

「ほんと? それならいいんだけど……もしなかったら、俺に言ってね」

「うんっ!」

「そうだ、レイカに見せたい場所があるんだけどいいかな? このあたり、少し歩いたら別の花も咲いてるんだ」

「えっ、そうなの?! 見たい!」

「よかった。それじゃあ一緒に行こう!」

 そう言って、彼はこちらに手を差し出した。私は少しドキドキしながらその手をとった。

 彼に手を引かれて歩く。一体どんな素晴らしい景色が待っているのだろうか。

 少し歩くと、視界に青い花が映ってきた。しかし、さっきの花ではない。これは……

「バラだ~っ!!」

「そう! 綺麗でしょ」

 左右の両端に植えられたバラたち。道は石畳になっている。溢れんばかりに咲き誇る青いバラは、息をのむほど綺麗だ……。

 これだけ咲いていると、香りがあたりいっぱいに広がっていい。普段はバラなんて見ることも、香りを嗅ぐこともできないから。

 それにしても……さっきの花もそうだが、青いバラも彼にはすごく、似合う気がする。綺麗で、幻想的で、不思議で、儚いこの雰囲気──。

「すご~い……これどこまで続くんだろう……。あっ! 向こうに何かある?」

 遠くてはっきりとは見えないが、水のようなものが見える。噴水……だろうか?

「うん。あそこに噴水があるんだ。ベンチもあるから座れるよ」

「そうなんだ……!? 庭園みたいで凄いね、ここ!」

 うきうきしながら歩いていくと、本当に噴水とベンチがあった。ベンチは金属製でおしゃれな形をしていて、雰囲気がある。

 手入れが行き届いた花たちに、おしゃれな石だたみの道。おまけに噴水にベンチもあるなんて、観光スポットとして全く問題ない。そんな場所に今のところ自分たち2人しかいないということは、貸し切り状態。まるで貴族にでもなったかのような感覚になる。

「噴水を中心に青バラが広がっている感じかな。そこの分かれ道に行くと、赤とか白のバラもあるんだよ!」

「わぁ、見たい見たい~!」

 こっちこっち、と彼が手を引く。本当だ、青と白バラのエリアに、青と赤のエリアもある。

「きれ~い! ちょっとなら触れるかなぁ」

「あっレイカ、棘には気を付け……」

「い、いったぁ~い!!」

「だ、大丈夫?(遅かったか……)」



・・・


「あんなにいっぱいで綺麗なバラ、見たことなかったな~! ありがとうね、ロゼ!」

「どういたしまして! 喜んでくれてよかったよ。」

 桜の樹の前に戻ってきた私たちは、またのんびりと談笑をしていた。

(えへへ、楽しいな……ロゼと一緒に話すの、凄く楽しい。こんなに楽しいことってあったんだ!)

 今まで私は、誰とも、家族とも遊ぶこともなく……ただただ独りで遊ぶことばかりだった。他人と遊ぶ楽しさを知らなかった。

 ……いや、数年前に何度かはあった気がする。あまり覚えてはいないが、どれも楽しかったとはとても思えなかった。だから、彼と話したりすることはとても貴重だった。そして、この楽しさ。嬉しさ。

 もっと彼と話したい。やりたい事も沢山出てくる。まず何をしようか。

(……ロゼと一緒にお花摘みたいな……)

 少し怖いけど、誘ってみたい。言わなきゃ……。

 よし、と勇気を出して私は口を開く。

「あ、あのねロゼ……! い、一緒にお花摘まない?」

 もし断られたらどうしよう。そうしたら私の心は一瞬で潰れてしまいそうだ。

 しかし、そんな不安も彼は消してくれた。

「いいよ。花冠とか作ろうか」

「花冠……! やったぁ、作ろ作ろ!」

(あ……そういや私、花冠作ったことないな。うまくできるかなぁ……)

「あっロゼ、花冠ってどうやって作るの……?私、作ったことなくって……」

「大丈夫、ポイントをおさえればいけるよ。まずは俺のお手本を見て。」

「うんっ」

 私は彼の隣に座って、手本を見た。

 ロゼは慣れた手つきでどんどん花冠を作っていく。凄いけど、難しそうだった。昔から、こういう細かい作業があまり得意ではなかったから。そもそも経験が少ないのはある。

「で、最後に……こう。これで完成だよ」

 あっという間に上手な花冠ができて、私は驚いた。

「わぁ~~っ……凄いね!! 私にもできるかなぁ」

「できるよ。数をこなせばいける!とりあえずやってみよ!」

「うん……っ!!」

(なんとなくやり方がわかったくらいだけど、できるといいな……。でもロゼが教えてくれたんだから、やらなきゃ)

 私は集中して制作に取り掛かった。

 茎を交差させて……いや、こっちだろうか。器用なロゼの手元を思い出しながら試行錯誤してみるものの、なかなか綺麗な形にならない。細かい作業が得意ではない私にとって、それは想像以上に難しい作業だった。 ようやくちゃんと巻けたと思ったら、今度は形が崩れてしまっていた。

 手本を見たとはいえ、やはりわからないところが多くて悔しいし、恥ずかしい。

「レイカ、どう?」

 覗き込むような声にはっとして振り向くと、花を摘み終えたロゼが隣に立っていた。

「うーん……やっぱりうまくいかないかなぁ……」

「ちょっと見てもいい?」

「う、うんっ。」

 私はロゼに作り途中の花冠を見せた。正直、見せるのが恥ずかしかった。なんとなく彼なら笑わないでくれる、とは思うのだが、それでもやはり「下手なのがバレる、笑われるんじゃないか」という気持ちがぐるぐるしてしまう。

「お、ちゃんとできてるよ! ちょっと形が崩れちゃってたりするところもあるけど、まだ始めたてだから気にしなくて大丈夫だよ。」

「ええっ、ほんと……!?」

「うん! 最初の出来としては十分なくらいじゃないかな?」

「そうなの……!? やった~~!!」

 自分の中では凄く下手だと思っていたから、嬉しかった。こんな出来でも認めてくれたことが、とても。

「そうだ、ちょっと待ってて」

「? うん」

 彼は少し後ろを向いて、何かガサガサとし始めた。

(なんだろう?)

 少しして、ロゼが「よし、できた!」と言うと、彼はこちらの方へ振り返った。

「はい、レイカ。これあげる!」

 ロゼの手にはあの青い花をメインにした花冠があった。

 受け取っていいのかわからなかったが、彼の笑顔と嬉しさに負けて私は素直に受け取った。

「い…いいの……!?」

「うん!折角ならプレゼントしたくてさ。」

「で、でもロゼが作ったんだしっ」

「いいんだよ。今日の思い出にして!」

「思い出……」

 思い出、というのが、私にはとても嬉しくて。

「うん……っ! ありがとう、ロゼ……!! ……あ、そういやこのお花、なんていうの?」

「ああ、その花はね……イリスの花、っていうんだ。」

「イリスの…花……。名前も見た目も素敵だね!」

「でしょ! 俺もそう思う!」

「こんなに綺麗なお花があったなんて知らなかったなぁ……。これもロゼのおかげだね!」

「えへ、そうかな? ありがとう。……俺、この花大好きなんだけどさ。ここでしか見たことがないし、図鑑にも載ってないんだ。……なんでだろうね」

 そう言った彼は、悲しく微笑んでいた。

「そうなの!? 不思議だなぁ……。それじゃあ、私たちしか知らない秘密の花ってことだね!」

「秘密の花……確かにそうだね。秘密を共有する人ができて嬉しいな」

「えへへ……」


 イリス……それがこの花の名前だった。私たちしか知らない、秘密の花。私はその花をしっかり記憶に刻んだ。


 そして……彼にとてもよく似合うと思った。

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