(14) 迷子と、魔獣と、小さな背中
遺跡に入ってみると、オバケが出そうな古くておんぼろな感じというよりかは、本当にシンプルな「古代遺跡」という感じだった。暗いが、よく見ると不思議な模様が描いてあったりする壁、不気味さもあるが不思議で神秘的な雰囲気、ファンタジーの世界に出てきそうなところだ。写真家が喜びそうである。私もせっかくなので、ところどころで写真を撮った。おっと、もちろん本来の目的も忘れてはいない。
「コリンくーーん! いたら返事してーーっ」
「ママが泣いてるぞーー」
なんか違うけど、気持ち的には泣いてるはず。
ハルとレイが大きな声で呼びかけたが、静かな暗闇に飲まれていくだけだった。
「いなさそうだね……。もう少し、奥に進むしかなさそうだ」
「そうだね! れっつごー!」
通路を進んでいくと、早速魔物と出くわした。ヘビっぽいものや、普段のと色味が少し違うヒツジンらしきものがいる。私たちはそれぞれ反射的に武器を構えた。
「雑魚がちょっと進化したような見た目だな」
「一応気をつけようね。くるよ!」
「うんっ!」
まずロゼがヘビの魔物──パインスネークめがけて突撃する。その足はなかなかに速くて、敵が噛みつく前に剣で素早く切りつけ、あっという間に倒してしまった。
「わぁ、はや~い……!」
つい見とれてしまったが、戦闘中なので、すぐに切り替えて自分が相手する敵に攻撃を仕掛ける。残り二人もそれぞれ攻撃を始めた。
私は強化版(勝手に命名した)ヒツジンに斬りかかった。まだあまり剣に慣れていないので振りは早くないが、それでも当たりはした。想像よりも早く反撃が来て反応が遅れそうになったが、ぎりぎりのところで避けれた。その後何回か斬る、避けるを繰り返しついに倒すことができた。意外とそれほど手こずらなかったことに心の中で驚く。
私が倒し終わった頃には、残りの魔物は片付いていた。元々魔物の数はこちらの人数を考えるとさほど多くはなかったが、それでも早い。みんな子供なのに。
「片付いたね。みんな怪我はない?」
「うん!」
「大丈夫だぜっ」
「おー。思ったよりも強くなくて助かったな。」
「そうだね! この調子ならサクサク進めそう、頑張ろ~!」
また通路を進み、分かれ道になっているところも1つずつ調べていく。その後も何度か魔物に遭遇したが、先ほどと同じく手こずることなく倒せた。
そして探索開始から20分程度。どこかから、自分より少し幼い感じの子供の声が聞こえた。
「うえーん……ここどこぉ……」
全員が顔を見合わせた。
「今の声、コリンくんだよね?!」
「その可能性が高いね。あっちの方で聞こえたから、急ごう。」
「おう!」
一斉に走り出し、声が聞こえた方向に進んでいく。
「わあっ、たすけてえ〜!」
私たちがやや広めな部屋に行き着くのとほぼ同時に、その悲鳴が聞こえた。
「あっ……!」
部屋に入ってすぐ、中央に子供がいるのと、その周りにさっきよりも体が大きな強化版ヒツジンが6匹見えた。あの赤毛の男の子……フィーネさんからもらった写真と一致する。コリンくんだ。しかしこの状況で本人確認をする場合ではない。皆考えることは同じで、すぐに武器を構え、コリンくんと魔物の間に割って入った。
「危ないから下がって!」
「う、うんっ!」
突然やってきた見知らぬ少年少女たちに戸惑いながらも、コリンは彼らに従って物陰に隠れていった。
「ふん、このくらいの数すぐに蹴散らしてやる」
「油断するなよレイ! いくぞー!」
アイコンタクトをとり、2手に分かれて対処する。今回は敵の数が多いのでチームワークが大事になってくる。
私はロゼと、ハルはレイとペアを組み、大きな強化版ヒツジンに攻撃を仕掛ける。
まず彼が鋭い踏み込みで先陣を切った。私はその隙を突いて追撃を入れたり、ロゼの背後を狙う別の敵の注意を引くことに専念する。
一方、ハルとレイのペアはというと──勢い任せにどんどん敵を押し込んでいた。どちらかといえばハルの方がどんどん前に出て攻撃していくタイプではあるが、レイも同じ前線タイプなので、お互いにいい感じにフォローし合えるかもしれない。……が。
「おーいレイ! そっち行ったよ!」
「そこは倒しとけよ!」
「えへっ、ごめ~ん」
ドタバタと声を掛け合いながらも、お互いの背中をしっかりカバーし合っている。なかなか良いコンビかもしれない。
戦いながらちらりと2人のやりとりを見て、少し微笑ましいと思った。もっと練習すればいいペアになりそう。あまり戦闘中によそ見をするわけにはいかないので、見るのはそのくらいにしてロゼのフォローに集中することにした。
「2人って、意外と息合うよね。」
「だよねっ!」
言ってからはっとして驚いた。
ロゼが戦いながらそう言ったからだ。さっきからずっと攻撃の手を止めず、よそ見なんてする暇もなかったはずなのに。
「ロゼ、2人のとこも見えてたの……!?」
ちょうど新たにもう1体を倒し終わったので、私は話を続けた。
「うん。常に周囲の状況を把握しておくことは大切だからね。」
「つ、常に……。」
本当にロゼは……一体どこで身に着けてきたんだろう……。
その後、私もできるかな、と戦闘中に周りの状況を確認してみるよう意識してみたが、なかなかうまくいかなかった。ちょくちょく敵から目を逸らすと危ないし、かといって敵に集中しすぎるとまた自分と周りの狭い範囲ばかりしか見えなくなる。知識だけじゃやっていけないんだな。
そうして、ついに全てのヒツジンを倒すことができ、辺りに静けさが戻った。
「よし、片付いたね!」
改めて周囲の安全を確認して、ロゼが隠れていたコリンくんに呼びかける。
「コリンくん……だよね? もう大丈夫だよ。」
彼の声を聞いて、コリンくんは物陰からひょこひょこと出てきた。
「お兄ちゃんたちが倒したの…?! すごいや! って、どうしてボクの名前知ってるの?」
「君のお母さんから、君を探してほしいって頼まれたんだ。それより、どうしてこんなところに来ちゃったの?」
「うー……遊んでたらおかーさんとはぐれちゃって……道に迷ってたらイセキに着いちゃって…。い、イセキってカッコいいし面白いから探検してみたかったんだ!!」
「ふーん、そしたら魔物に囲まれて危うく帰れなくなるところだったってワケか。」
「うっ……」
「危険だから、もう1人で入るなよ~。ママが泣いちゃうぞ!」
「わ、わかったよぅ……。ごめんなさい。」
流石に命の恩人たちに言われたのもあって、素直に反省してくれた。しかし、興味で遺跡に入るとはわんぱくな子供だなぁ。このくらいの年の男の子はみんな、冒険とか探検が好きなのだろうか?
「わかってくれたみたいでよかった。さ、みんなで帰ろう。お母さんが待ってるよ」
「うんっ!」
ロレートの町に戻ってきた私たちは、真っ先にフィーネさんのところへ向かった。
「おかーさん!」
コリンくんがお母さんの元へ駆け寄る。
「コリン……?!見つかってよかった……もう、どこまで行ってたの?」
声では怒っているように聞こえても、彼女の表情は心配と安堵が混ざったものだった。
「うわわ、ごめんなさい……ちょっとイセキを探検してたんだ……。あのね、ボクいっぱいのヒツジンに襲われそうになっちゃったんだけど、このお兄ちゃんたちが『びゅーん、しゅばっ!』 って倒してくれたんだよ!!」
「えっ……あなたたちが、魔物を……?!」
「はい。」
フィーネさんは信じられないといった様子で目を丸くした。無理もない。いくら4人掛かりとはいえ、たった10歳の子供たちが魔物を退治したなんて、すぐには呑み込めないだろう。
「このおチビ、危なかったんだぞ。俺たちが来るのが遅れてたら、今頃どうなってたか。よーく反省するんだな。」
レイが腰に手を当てて、どこか誇らしげに鼻を鳴らした。
「そうだったの……。あなたたちが遺跡に行ってから、結局すぐに捜索に向かえそうな大人もいなくて困っていたんだけれども……助かったわ。」
「へへっ、オトナなんていなくても俺たちでどうにかできたな!」
「みんな、コリンを助けてくれてありがとうね。それに、まだ子供なのに……凄いわ、自慢できることよ。」
「えへへ…ありがとうございます!」
「コリンも俺らも、無事に帰ってこれてよかったぜ!」
「そうだな。今思うとすげーや。」
「これもみんなのおかげだね。」
胸の奥が、温かい誇らしさでいっぱいになる。それに、この事件を通してみんなとより絆が深められた気がするんだ。遊び仲間ではなく、背中を預け合える本当の『仲間』になれたような……そんな感覚。このみんなとなら、ピンチの時も乗り越えていけそうだ。
「お兄ちゃんたち、ありがとう! めちゃめちゃカッコよかったよ!」
「あなたたちは命の恩人よ。……そういえば、名前を聞いていなかったわね。教えてくれる?」
そういや確かに名前を教えていなかった。みんなもそうだ。事件に集中しすぎて自己紹介自体を忘れてしまった。
「レ、レイカです!」
「ロゼです。」
「レイでーす。」
「ハルト! ハルでいいよ!」
「ありがとう。レイカちゃん、ロゼくん。それにレイくんとハルくん。みんなの勇気は立派よ。今日は時間がなくて申し訳ないけれど……今度会ったときはなにか、おいしいおやつでもご馳走するからね!」
「わぁ、いいんですか!? ありがとうございます!」
おやつ、というフレーズにわかりやすく目を輝かせる私とハル。レイもごくり、と一瞬目を光らせた。
私たちの嬉しそうな顔を見て、フィーネさんもコリンくんもみんなにっこりした。
「それじゃあ、私たちはそろそろ行くわ。また会いましょうね、小さなヒーローさんたち!」
「はい。お気を付けて!」
「またねー! お姉ちゃんお兄ちゃん~~!!」
「またね~!!」
互いに手を振り合った。別れは寂しくない。だって、次に会ったときはおやつをご馳走してくれるんだもの。今からもう楽しみ。約束が1つあるだけで、また絶対会える気がするよね。私たちはいつもこの町に来るわけではないけれど、時々寄るようにしてみれば必ず会える。それにまた、この町の美味しいパンも食べたいし。




