(12) 隙間から見えた傷
──夕方。今日も沢山遊んだ。動き回って疲れた時は樹の下や花畑で寝転んだり、その辺を歩きながら雑談をしたりした。気が付いたら、遊び始めてから何時間も経っていて、本当にあっという間だった。
休憩している間にみんなで雑談をした。少しお話ししているだけのつもりでも、軽く30分は経ってしまう。みんなのことをもっと知りたくて、時間を気にしなくなる。最近は楽しすぎて、帰りが少し遅くなってしまう時もあってヒヤヒヤしているが、今のところはなんとか大丈夫だ。
キリのいいところでお開きにして、私は家に帰った。また日記に収まりきらないくらい、書きたいことができた。レイとみんなでアレイドも交換できたことだし。これで会わずとも、みんなで予定を調整できるから本当に便利。こういうのがなかった時代って、どんな感じだったんだろう?ちょっと気になるけど、やはり現代の子供の私には想像ができないのでやめた。
布団に入る。明日もみんなと遊ぶんだ。楽しみ。頭の中がそれでいっぱいになっていて、嬉しい。他の事を何も考えずに済む。だって、必要がないから。
さあ、今日も楽しい夢を見よう。
お や す み ……。
立て続けに新しい友達が増えたが、それからというもの、新たな迷い人は現れなくなった。すっかりメンバーが固定された。まるで4人しかいない空間、4人しか入れない秘密の場所。
毎日のように4人で遊んだ。勿論みんなにも都合があるから、時々誰かが来れなかったりもするけど。途中から来てくれたり、アレイドでちょこちょこ連絡を取ってくれるだけでも嬉しい。当然私にも、遊べない日というのはある。そういう日は凄く悲しいし辛い。悔しい。あーあ、この時間をみんなと会うのに使えたらな、と思って仕方がない。1人だけいないって悲しいことだから。私だけ遊べないと、置いていかれたらどうしようって不安になってしまうこともある。……最も、いつも杞憂に終わるが。
毎日が楽しく過ぎていく一方で、少しだけ気になることもあった。ロゼは時々、急にアレイドの返信が途切れることがあるのだ。数十分のこともあれば、数時間……時には丸一日連絡が取れないことだってあった。急に返信が来なくなると不安で、あまり長いと心配になってしまう。彼の身に何かあったのではないか、と。
それに、たまにだけど、彼は少しぼーっとしている時がある。でも呼びかけるとちゃんと気づいて、「ごめんごめん」って笑ってくれるんだ。
ハルもぼーっとする時はあるけど、それはどちらかというと「ぽけー」に近い。雰囲気がふわふわしているから、ちょうちょを見つめてぽけーとしたりする。だから、彼のはやっぱり違う。
あとは……
(ふわぁぁ……お昼寝気持ちいい……)
遊んで走り回ったので疲れて、天気もいいのでみんなで少しお昼寝している時だった。私が起き、レイもハルも起きだしていたので、ロゼも起こそうと思った。
普段は大人っぽいロゼだけど、寝ている時の体勢はちょっと幼くて……赤ちゃんみたいでかわいかった。
肩を揺らそうか、それとも軽く叩いて起こそうか。どちらにしようか迷いながら、とりあえず彼の肩にそっと手を伸ばしたその時。何かを見つけた。
長袖の隙間からほんの少しだけ見えた、ロゼの白い手首。
そこに刻まれていたものは──赤い十字傷のようなものと、淡い紫色の、痣。
思わず、彼の腕を掴もうとする。
その瞬間、ロゼの目がぱちりと開いた。
私は弾かれたように慌てて手を引っ込めた。
「あっロゼ! 今起こそうとしてたんだよ。」
ロゼは起き上がり、少し目をこすった。
「そうだったの? ありがとね……。」
その後は普通に、いつも通りみんなで話したり遊んだりした。結局あれは何だったんだろう?と考えることはあったが、あまり深入りするのも微妙だと思って何も言わなかった。いや、何も言いたくなかったのかもしれない。
そう、毎日のように4人で遊んだ。ここにいると楽しいこと、幸せなことばかりで、毎日がキラキラして飽きないんだ。何も心配しなくていい。ただ楽しい時間を過ごせばいい。
……1日、2日、3日と、時が進んでいく。段々と、私たちの日常は何かが変わっていったのだ。
3.「揺らいだ瞳の行き先は」
2010年4月22日 午前
桜は見頃後半に入り、気温もだんだんと、さらに暖かくなってきた頃。
「今日は何するー?」
「うーん……いつもみたいに遊んでもいいけど、たまにはどこかに出かけたりもしたいよね。」
「確かに! みんなでお出かけとか絶対楽しいよなー!」
私はハルの言葉に相槌を打つ。
「んでもってどこ行く? 俺はどこでもいーぞ」
4人は悩む。私的に行ってみたいところとかはあるが……こういう時に限って旅行レベルの遠さの場所ばかり思いついてしまう。しかもみんなが住んでいる所はバラバラなので、誰かの家から近いところにしないといけなかったり、うまく考えなければならない。そうなると……。
「それならロレートとかどうかな? 私のところからわりと近いんだけど、そこに美味しいパン屋さんがあるの!」
「えっ行きたい行きたい!」
「俺もパン食いたーい」
「じゃあそこで決まりだね。レイカ、案内してくれる?」
「うんっ!」
ロレートの町に行くことになった私たちは、まず私の扉に入って、街道を通り町に向かった。もちろん、家の人は夜までいないから安心だ。平原道よりは少ないが、街道にもたまにやや凶暴な生物が現れたりすることがある。しかし、刺激しなければ基本的に襲ってこないし、一応パチンコとかでも倒せはするのでさほど恐れることはない。
そうして無事に街道を通り、ロレートに着いた。
「ここがロレートか。落ち着いたいい感じのところだね。」
「でしょ? 時々ここに行くことがあるんだけど、居心地がよくていいんだ~」
ロレートは都会と田舎に挟まれたような、どちらかといえば田舎寄りの町だ。都会と田舎のいいとこどりのような場所で、このあたりの地域の住人がよく利用する町の一つでもある。周辺には公園や農園、町はずれには確か遺跡とかもあった気がするので、町に飽きたら散歩をすることもできる。しかし私たちの今日のお目当てはパンだ。そう、パン。町で長年愛されてきたというパン屋。焼きたてを狙うんだ——。
「みんな、例のパン屋さんはあれだよ! ちょうどお昼のパンの焼き上がり時間のはずだから今がチャンス!」
私に続いて、駆け出すようにみんなが店に入っていく。店に入った瞬間から焼きたての香ばしいパンの香りがふわっと広がって、たまらない。早速パンを見て回ることにした。この店は子供に優しく、安めの値段設定をしているのでお財布も助かって嬉しい。
チョコクロワッサンかアップルカスタードパイかで迷った末、チョコクロワッサンにした。パイはまた次の機会に買うことを決めて。
ロゼたちもそれぞれのパンを買った。意外とここには甘党が多いらしい。みんな甘系のパンを選んでいた。
焼きたてのパンが入った袋を抱え、店の外のベンチに座る。
「うーん、いい香り……」
「……うまっ。これ、うまいな」
「ほんとだ、美味しいね! それに値段も良心的でいい。」
「もぐもぐ……りょうしんてきってどういうこと? ロゼ。」
「買う人のことを考えて、買いやすいように優しい値段をつけてくれてる、ってことだよ。」
隣で聞いていて、思わず感心してしまう。どうしたらそんな風に、難しい言葉を誰にでもわかるように優しく教えてあげられるのだろう。 私は良心という言葉自体は知っているが、ふわっとしたイメージしかないので説明してくれと言われたら自信がない。
「ほえ~、そういうことか! ロゼってなんでも知ってるんだな! すごいや!」
「流石になんでもってわけじゃないけど……どういたしまして。」
謙虚なところがまた素敵だが、ロゼはもっと自信持ってもいいのになぁ、と私は思った。私なんかより数百倍も凄いのに。
パンを食べ終えた私たちは、適当に街を散策することにした。思えばみんなであの花畑以外の場所にお出かけするのは初めてだ。なんだか新鮮でいいな。
色んなお店を見て回ってみたり、観光スポットに行ったり。何枚か記念写真も撮った。そのうえで、時々みんなに気づかれないように写真を撮ったりもした。不意打ちの写真を撮るのは良くないかもしれないが、こういう写真を撮るのも好きなんだ。思わぬショットが撮れることもあるし。それに、例えば何気ない会話のワンシーンだとか、みんなで歩いてる姿だとか、そういうものも大事な思い出として残るから。
「ん? レイカ、今写真撮った?」
「えへへ、バレちゃった。」
撮った写真は隠すつもりはないので、みんなに見せた。
「あっ、レイが笑ってる。」
「珍しそうに言うなっ! 俺がいつも笑わない奴みたいに聞こえるだろーが」
「どれどれ……おーっ、ほんとだ! レイいつもこ~んな顔しかしてないからな~」
そう言ってハルが指で目を吊り上げてみせた。面白おかしくてみんなで笑った。
「ふふっ、似てる似てる~!」
「痛い目見たいのかお前ら……」
そろそろ街の探索も終わってきたころ。私たちはまた歩きながらお喋りをしていた。すると、近くになんだかあたふたした様子の女の人が見えた。見た感じそこそこ若い。20代後半か、30代前半か。
「あの人、どうしたんだろう? 落とし物でもしたのかな」
「話しかけてみようか。」
一同は頷き、ロゼを先頭にしてその人の方へと近づいた。
「あの、どうしたんですか?」
ロゼの呼びかけに女の人がこちらに気づく。
「え、ああ……実はさっき子供とはぐれてしまって……街中ではぐれちゃったんだけど、どこにもいないのよ。間違えて外に出て遺跡の方にでも行ってないといいんだけど……。」
遺跡。街から少し歩いた場所にある古代遺跡のことだろう。最近では魔物が現れるとかどうとか、物騒な噂を聞く。そんなところに幼い子供が一人で行ったらどうなるか、容易に想像できる。大切な我が子のことを思うと、気が気でないだろう。つられて私も不安になってきた。
「よかったら、探すのをお手伝いましょうか。」
「あら、いいの……?! じゃあお願いしてもいい? でも、あなたたちも子供なんだから危ない場所には行かないでね。」
「ええ。任せてください」
「は~い」
「あとこれうちの子の写真、探す時に使ってね。名前はコリンよ。まだ5歳なの……。」
「うーっす。」
そういうわけで、私たちは迷子の捜索に出ることになった。私はこういうことは初めてだから、ドキドキする。……絶対に見つけなければ。




