(11) 茶髪のあの子と黒髪の彼
予想外の出来事だったが、私たちはあっという間にハルと打ち解けることができた。私とロゼしかいないと思っていたこの場所に、友達がもう1人増えて純粋に嬉しかった。
鬼ごっこをしている時にロゼの顔をちらりと見ると、彼もまた、嬉しそうな表情を浮かべていた。
鬼ごっこやかくれんぼは、人数が多い方が遊びとしては楽しくなるだろうし。足の速い二人に負けないよう、私ももっとすばしっこく逃げ回れるようにならなきゃ。
……そして、たくさん遊んで、そろそろ帰る時間になった。そうだ、ハルと連絡先を交換しないと。アレイド、持ってるといいな。
「あっ、ねえハル! 折角だし連絡先交換しない?」
「アレイドだよな? しようしよう! ロゼもしようぜ~!」
「うん!」
みんなで交換することになり、私は急いで自分のコードを書いたメモを確認した。もう何も見なくてもコードは言えそうだったが、念のために。
「準備できた? コード言うね!」
順番にハルにアレイドコードを伝え、登録してもらった。あとは彼のを私たちが登録するのみ。
「……よし、あとは俺のだな! 俺のコードは、え~っと……」
ハルが慌てて端末を取り出し、コードを読み上げた。私たちは1つずつ数字を確かめ、ハルのコードを入力していった。
「できた! これでいつでも連絡取れるね!」
「俺もできたよ。ありがとう」
「うんっ! また遊びに誘ってくれよな~!」
「もちろん!」
さて、無事に交換も終わった。それぞれの家に帰らないと。
「それじゃあまたね、ハル……!」
「気をつけて!」
「じゃーね! 二人ともばいば~い!」
ハルは手を振りながら、笑顔で扉の中へ入っていった。私たちもまた、同じように手を振り返した。
2010年4月10日 午前
翌日。今日も3人で遊ぶ予定だが、ハルは少し遅れて来るらしい。なので、私とロゼは先に行ってお喋りでもしながら待っていることになった。
「ハル、どれくらいで来るんだろうね?」
「そんなに遅くはならないって言ってたけどね。先に何で遊ぶか考えておこうか」
「そうだね!」
2人で色々と駄弁りながら歩いていると、少し先に1人の男の子が立っているのが見えた。
「あの子、誰だろう? ハルじゃない。また迷い人かな」
「かな……て、あ~っ!?」
なんと、その子が道脇に咲いている野花を踏みつけようとしているではないか。
いくら野花とはいえ、花を踏もうとするなんてひどい。
私とロゼは軽くアイコンタクトをし、慌ててその子に駆け寄った。
「ちょっ、ちょっと君……!」
呼びかけると、その子は少し驚いたように足を止めて振り返った。
「うわっ、誰だよ」
「私はレイカ」
「知らん」
「って、そうじゃなくて!」
ぶっきらぼうなこの子と私の噛み合わないやり取りに、隣でロゼがふっと小さく笑い出した。彼の笑い声を聞いていたら、私もなんだかおかしくて緊張がほぐれていく。
「おい、何笑ってるんだよ」
「ごめん、ちょっと面白くて。それより君、そこに咲いてる花を踏もうとしたでしょ?」
「……そーだけど。別にいいだろ、踏んだって」
それを聞いて少し悲しくなった。別に踏んでもいいなんて、私からしたら理解ができない。きっとロゼも同じようなことを思っているはずだ。彼もまた、花を大切にしているから。花も一つの命なのだ。
「ふ、踏んじゃダメだよ……!」
「はあ? 踏んだって何も起こらないだろ」
若干睨むような目つきで、訳がわからないというような顔をしてきた。
(こ、この人なんか怖いかも……?)
「そ、そうかもしれないけど、花だって頑張って生きてるんだよ……!」
「……」
「……その辺に咲いてる、名前も知らないような花だって、みんな命があるんだから。なるべく大切にしてほしいな」
その子は少しの沈黙の後、口を開いた。
「……わかったよ。ごめんな」
つーん、という表現がぴったりな顔をしている。
(やっぱりこの人って、ちょっと怖い……?)
「わかってくれたなら嬉しいな。……あっ、あと君、どうやってここに来たの?」
「どうやってって……迷ったつーか……」
迷った、か。ハルに続いてまた誰かがここに来るなんて……。ここは迷いの森か何かなのだろうか?でも、私は迷ってきたわけではないし……たまたまなのか。
「どの辺で迷ったとか、わかる? もしくは、ここに辿り着く前に何か変わったことがあったりとか」
「んー……どこだったっけなぁ。普通にその辺を歩いてて、そしたらなんか……なーんか周りがふわーって光ったような気がして……気づいたらここに出た、みたいな感じだなー」
ハルといいこの人といい、知らない場所に迷って来てしまったというのにあまり危機感がなさそうだ。能天気なのか……いや、まあ焦りすぎるよりは冷静でいる方がいいだろう。ちなみに焦りすぎるのは私だ。自覚はあるが改善がなかなかできない。
「そっかぁ……。実は、昨日も君みたいに迷って気づいたら来てたっていう子がいるんだよね。なんだか不思議だなぁ」
「そうなのか?」
「うん。だって、ここって最初は私とロゼしかいないもんだと思ってたから。いや、まあ私もロゼの後から来たんだけどね。……とにかく、昨日今日と連続で誰かが迷い込んでくるなんて、驚き以外のなんでもないよ~」
ハルの時は登場の仕方もあってかなり驚いていたが、この子にもわりと驚いてはいる。昨日はただの偶然だと思っていたから、今日も人が来るなんて想像していなかったのだ。
しかし、実を言うと、もしかしたら今日も誰かが来るかも……と少し思ってはいた。本当に少しだけれど。
「ふーん……なんか特別な場所というか、秘密基地みたいだな、ここは」
「……特別な場所、か。確かに特別かもね」
「えっ?」
「あ、ううん。この子の言う通り、俺たちしか入れない秘密基地みたいだなって」
「私たちだけの……確かにそうかも! 秘密基地って響きかっこいいな~」
「……あれ、そういや君、名前聞いてなかったよね。なんていうの?」
「レイ。」
その名前を聞いて、思わずえっという声を漏らしてしまった。私の、レイカという名前とたった一文字しか変わらないではないか。これも偶然か……。
「私と一文字しか変わらないんだ……びっくり。」
「そういやさっき、レイカって言ってたな。確かに『カ』を取っただけだな。……えーと、白銀の髪のやつはロゼだっけ?」
レイはロゼのことを『白銀の髪のやつ』と表現した。確かに、彼の透き通るような髪は一度見たら忘れられないほど印象的だ。私もそうだった。それに、銀髪系統の人はあまり見かけないから珍しかった。時々見かけるが、だいたいはグレー感が強くて白銀とは少し遠い。私も白っぽい銀髪だが、やはり彼ほど綺麗ではなかった。
彼がまさに白銀の髪の代表。真っ白でもグレーでもない、神秘さと儚さを持ち合わせた、透き通るような……そしてやや青みがかったところが、とても──
「うん。よろしくね、レイ」
「よろしく。」
「ねえねえレイ、帰り道見つかったら少し私たちと遊んでいかない? この後、友達がもう1人来るから、4人で遊べるよ!」
「別にいーけど。」
少しつーんとしているが、その顔は嬉しそうにも見えた。
「本当は遊びたいんじゃないの? 顔が嬉しそうだよ」
「ちっ、ちげえよ! こいつが遊んでほしそうにしてたから仕方なくオーケーしただけだし!」
図星なのか、レイは慌ててそう言った。
「ふふ、隠さなくてもいいのに~」
私もロゼに便乗して、レイをからかった。
「だから違うって! いいから早く……、まずは探すの手伝ってもらうからな!」
「わかったわかった。」
照れくさそうに歩き出すレイの後ろ姿を見て、ロゼと私は顔を見合わせてくすっと笑った。
(レイってちょっと怖いかなって思ってたけど、面白いかも……?これがツンデレってやつなのかな)
私たちはいつもの樹の下に行き、ハルを待ちながら3人でお喋りをした。彼が来たら、みんなでレイの帰り道を探しに行く予定だ。少しするとハルがやってきたので、早速彼を紹介した。ハルがレイのことを「なんか顔がツンツンしてる!」と言い、レイが「顔がツンツンしてるってどういうことだよ……」とやや呆れ気味に返していた。残る私たちはそのやりとりを微笑ましく見ていた。
今回はレイが来た道を覚えていたため、スムーズに扉の在り処を探し当てることができた。彼もハルと同じように、最初から扉で来たわけではないらしいが、レイもここに出た場所に扉が現れたのだ。扉については謎が残るままだが、とりあえずちゃんと出てきてくれてよかった。
「……本当にこの扉を潜れば戻れるんだよな?」
「多分な! 俺はそれでいけたぞ〜」
「あっ、そうだアレイドとか交換しとく……? 不安だし……」
「そうだなー。んと、俺のコードは……」
レイが自分のコードを読み上げる。私たちはすらすらと数字を自分の端末に打ち込み、登録した。
「できた、ありがとね。」
「おー。それじゃ、入ってみるか!」
「いってらっしゃーい!」
レイが扉の中に入っていった。
全員が扉に注目していると、やがてまた扉が開いた。
「すげぇぞこれ、ちゃんと戻れた! 一体どうなってんだぁ?」
「よかったぁ! うーん、実はよくわかってないんだよね……。」
「俺もぜ~んぜんわかんないけど、なんつーか、俺たちだけの秘密の通路みたいな感じでワクワクしないか?!」
「確かにな。おもしれー!」
「それじゃあ、無事に帰り道もわかったことだし……みんなで遊ぼう!」
「「「おー!」」」
新しい友達を迎えた今日の遊びは、いつもよりワクワクで、いつもより楽しいものだった。鬼ごっこもかくれんぼも4人になってくるとかなり面白味が増す。鬼側の難易度は上がるけれど、それが面白い。特にハルは変なところに隠れたりするから、見つけるのも更に楽しくなるんだ。




