(10) 友達の作り方なんて、もう忘れちゃったけれど
──そして、二人で協力して(ほとんど彼だが)夕飯が完成した。
「わぁ〜っ! 美味しそ〜!!」
「上手くできたね。さ、食べよう!」
「いただきます!」「いただきます。」
学校の給食を除いて、家族以外と食事をするのは初めてではないだろうか。なんだか新鮮。
さて、まずはコーンスープからいただく。コーンスープの素が無かったため焦ったのだが、彼は無くてもできるらしく、スープも彼に作ってもらった。
「おいし~い!」
「それはよかった。」
次に本日のメインディッシュ、デミグラスハンバーグをいただく。ふんわりジューシー……美味しい……美味しいしか言葉が出てこない。外食する時によく連れて行かれる町のレストランよりも美味しい。
「う~ん……っ! すっごく美味しい! 今まで食べたハンバーグの中で一番美味しいっ!!」
「ええっ、そんなに?」
「うんっ、ホント!! お母さんが作るハンバーグとか、たまに焦げるし崩れたりしてるんだもん!」
「はは、ありがとうね。」
普段家族と摂る食事の時とはまるで違って、ここにはあたたかい空間が流れていた。笑い合いながら話をして、ゆっくりと食事ができる。こんな風に心から満たされる夕食なんて、いつぶりだろう。
向かいの席でスプーンを運ぶロゼの姿が、自然と視界に入ってくる。細かな動作まで、なんとなく見つめてしまう。
熱々のスープをスプーンでくるくると優しくかき混ぜて冷ます。ナイフとフォークで丁寧にハンバーグを切り分ける。そして切ったハンバーグを口に運び──
──って、何見てるんだ私。
慌てて視線をそらす。……それにしても、手の動きや所作が全て美しい。貴族みたい。育ちがいいのだろうか。もしかして、お金持ちの家?どこかの貴族だったり?
「ロゼ凄い……食べ方めっちゃ綺麗……貴族みたい……」
「ああ、……習ってるから、かな。」
「へぇ~っ……! ロゼって色んな習い事してるんだね! 凄いなぁ」
「そこまでじゃないけど……ありがとう。」
そうして、彼との食事が終わった。こんなに楽しい夕食は久しぶりだった……本当に。毎日こんな時間が流れてくれたらいいのに、と切に思う。
「ごちそうさま~! またロゼの料理食べたいな!」
「ご馳走さまでした。喜んでくれてよかったよ。」
「よしっ、お皿洗いするぞ〜! 今度は私に任せてねっ!」
ふふん、と張り切って腕をまくる。
「ありがとう。それじゃあお願いするよ。」
さてと、シンクの中をやっつけ始める。中にあるのは食器だけだった。料理中、時間がある時にロゼが使った料理器具を効率よく洗ってくれたからだ。量が少なくてたいへん助かる。
家では時々、食器洗いを頼まれることがある。親はいつも、使った料理器具の半分以上をそのままにして食事後にまとめて洗うタイプなので、洗い物する時は量が多くて大変だ。ちなみに、私がたまに料理するときも、器具は最後にまとめて洗う。マルチタスクに慣れていないから。料理を1つ作るだけで精一杯になるし、なんとなく、ちゃんとできているか不安でじっとしてしまう。それに、ちんたら作業をしている間に料理を焦がさないか……なども不安になって、できない。
(いつか私も、ロゼみたいに料理上手くなりたいなぁ……)
後片付けも全て終わり、暇になった。親が帰ってくるまではもう少しだけ時間がある。私とロゼは、最後にお絵描きをしてお別れしようという話になった。
お互いの似顔絵を描き合ったり、一緒にスケッチの練習もしたり。ロゼが描いてくれた私は、私が思う自分よりうんと可愛くて綺麗で、嬉しいと同時に恥ずかしかった。私が「美化しすぎだってぇ〜」と言うと、彼は「そんなことないよ。俺から見えてる君は、こんな感じだから」と返してくれた。なんだか照れくさかった。
私が描いたロゼを見せると、「こんなにかっこよくないよ」と言ってきた。なので、さっきのお返しに「私からしたらロゼはこんな感じだもん!」と言って、ふふっ、と笑い合った。
「今日は遅くまでありがとう……!! またこういう日あったら、今度は私が料理作るよ!」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう! 楽しみにしてるよ。また家で遊べるといいね!」
「そうだねっ! あっ、明日はいつも通り遊べるの?」
「うん、遊べるよ。またあの樹の下で逢おう。」
「やったぁ~~!! じゃあまた明日ね、ロゼ!」
「またね、レイカ!」
ロゼと話すこと、ロゼと過ごす時間、その全てが輝かしいものだった。真っ白、あるいは灰色……いや、正確に言うと何色でもなかった私の世界は、彼という色でどんどん染まっていったのだ。
彼と出逢ってから少しの時──私にとっては長い時間──が過ぎた頃。
それまで私たちしかいなかったあの場所に、新しい友達がやってきた。
2.「友達の作り方なんて、もう忘れちゃったけれど」
2010年4月9日 午前
ある朝、イリスの花畑に向かう途中。いつものようにロゼと話していると、近くの茂みがやけにガサガサと音を立て始めた。
「ね、ねえロゼ、あそこの茂み……」
「……何かいるね。あれは」
茂みに注意しながら、少し後ずさった。お互いに今まで、この辺りで凶暴な動物を見たことはなかったが、だからといって安心しきれるわけではない。犬や猫ならいそうだが、それにしては音が大きすぎる。というか逆に、「何か音がするから見てみよう!」と茂みの中へ自ら入る人なんているのだろうか?
茂みが音を立てていたのはほんの少しの間だった。何かが出てきたようだ。私たちは身構え、そこをじっと見つめた。
……しかし、出てきたのは凶暴な動物でも猫でもなかった。そう、人間だ。私たちと同じ。
「え……?」
私とロゼの声が重なった。思わず顔を見合わせる。
「いてて……あれ、ここどこぉ~?」
少しふわふわした雰囲気の男の子だった。赤みがかった茶髪に、エメラルドのような瞳。そんな子に、先に声をかけたのはロゼだった。
「君、大丈夫? どこから来たの?」
ロゼは少し驚きを抑え、落ち着いてそう言った。
「えっと~、遊んでたら道に迷っちゃって……それで、気づいたらここに来てたんだ!」
「気づいたら……か。なるほどね」
知らない場所に迷い込んでしまったというのに、この子はあまり焦っていなさそうだった。私だったら、ちゃんと帰れるかわからないと思うと不安と恐怖、焦りでパニック状態に陥ってしまいそうなのに。
「ねえ、君。名前、なんていうの?」
「ハルト! ハルって呼んで! そっちは?」
「俺はロゼ。」
「レイカだよ!」
「ロゼにレイカか! よろしくな~!」
「よろしくね。」
私もロゼに続いてよろしくをした。
「えっと……とりあえず帰り道を見つけないとね。来た道覚えてたりする?」
「ん〜……」
ハルは腕を組んで、うーんと考えていた。
「……あんまり覚えてないや!」
てへ、と笑ってそう言った。だいぶ能天気な子だ。
「あわ、そっ、そっかぁ。」
大丈夫だろうか。私もこのあたりの道に詳しいわけではないし、というかまだよくわからないことばかりだし……。
「それじゃあ、一緒に探そう。」
「えっいいのか!? サンキュ〜」
「よーしっ、まずはさっきの茂みを抜けてみよー!」
「おー!」
みんなでガサガサゴソゴソと移動する。茂みはそれほど大きくはなかったので、すぐに抜けられた。そのあとは手探り。ハルの記憶にひっかかりそうな道をとにかく進んだ。
「ハル、どう?」
「いや……。なんでだろ、結構進んだはずなのになぁ」
困ったな。私の時みたいにあっさり見つかるかと思ったのだが……いや、私の場合はそもそも扉からここに来たからか……?
「……ハル。ここに迷い込んだ時、さっきとは違う場所に飛ばされた……みたいな感覚、あった?」
「違う場所……うん、そんな感じかも。なんかヘンだったし。」
「じゃあ、なにか光を見たりはした?」
「光……」
ハルはすぐにあっ、と言った。何かを思い出したようだ。
「たしか、茂みに入る時にどっかが光ってたような気がする!!」
それを聞いて、私もあっとした。光に、違う場所に飛ばされたということ。彼の場合、私のように扉が出現したわけではなさそうだが、状況としては似ている。つまり、同じ方法か、もしかしたら扉が現れて帰れるかもしれないのでは、と思ったのだ。恐らくロゼも同じようなことを考えているのだろう。
「よし、それじゃあ調べに行こう。ハル、茂みを通ったのってさっきだけ?」
「ううん、何度か通ったぞ! えーと確か、光ったのは1番最初ので……となると……あっちかこっちかぁ……?」
「よしっ、どっちも行ってみよー!」
「おーっ!」
早速心当たりのある場所に行ってみたが、今のところ特に何も見つかっていない。
「うーん……こっちじゃないのかなぁ」
みんなで辺りをきょろきょろしていると、ハルがあっ、と大きな声を出した。
「み、みんな見てっ!」
彼が指差している方を見ると、私の時のように光の扉ができようとしているではないか。
「扉だ……!」
あっという間に扉が完成し、光が収まった。
「やっぱり……!?」
「えっ、二人ともこれが何なのかわかるのか!?」
ハルが驚いて聞いてきた。
「うん! 細かいことはわからないんだけど……私もロゼもこういう扉で行き帰りできてるんだ!」
「そうなんだ……ってことは、俺もこれで行き帰りできちゃうのかぁ!?」
目を輝かせてハルはそう言った。
「恐らくね。でも、レイカは初めから扉で来たんだけど、ハルは違うから……どこに出るかが不安だな」
そうか、確かに。扉で来たわけではないから、その場合どこに出ることになるんだろう……。繋がっている場所が、ハルの住んでいる所からそう遠くないといいのだが……。
「とりあえず入っちゃえばわかるさ! よーしいってみよーっ!」
そう言って、ハルは迷いなく扉に手をかけて飛び込んでしまった。
「あっ、ちょっとハル……!」
「ど、どーしよっ、行っちゃった……戻ってくるかな……」
残された私とロゼは呆然とし、不安そうに顔を見合わせる。
「……。」
「あっ!!」
途端、扉がゆっくりと開き始めた。隙間から柔らかい光が溢れていく。
「……ぉーーいっ、2人ともーっ!」
声と共にハルが出てきた。ジャンプしたのか、ひょいっと地面に着地して満足そうに胸を張った。
「ハル……! よかった、戻って来れたんだね。」
「うん! なんか扉を出たら家の近くの場所にいて、また扉入ったらこっちに戻って来れた!」
「......ってことは、これからもこっちに来れるってこと……!? やったね!」
「そうだな! ね、よかったら一緒に遊ぼーよ! 今日用事ないし!」
「遊ぶあそぶー!」
「決まりだね。それじゃ、何で遊ぼうか?」
「ん〜、とりあえず鬼ごっことか!」
「いいね、やろ〜! 1回目は私が鬼ね!」




