第5話 下された減刑
判事たちが裁定に窮していたその時、重厚な扉が音もなく開いた。
広間にいた誰もが、入ってきた人物を見て居住まいを正す。
枢機卿モーリスだった。教会の中でも指折りの実力者であり、その発言は国王すら無視できない重みを持つ。
「お待ちを。この審問、しばし私に預けていただきたい」
判事の一人が戸惑いながらも席を譲ると、モーリスは静かにリゼットの前に立った。
「被告人は、一切の弁明を拒んでいる。だが我々の教義には、弁明なき者を断罪してはならぬという定めがある。無実の可能性を潰さぬまま裁くことは、女神への冒涜に等しい」
広間がざわめいた。
「枢機卿様、しかし彼女は聖女様を手にかけたのですぞ! これ以上、何を待てと」
聖職者の一人が声を荒げる。モーリスは、その声を手で制した。
「だからこそ、だ。真実が語られるまで、時をかけて向き合う必要がある。死刑ではなく、投獄を継続する。これが私の裁定だ」
判事たちは顔を見合わせたが、枢機卿の言葉に異を唱える者はいなかった。
リゼットは、目の前に立つ男を見上げた。その笑みの奥に、何か得体の知れないものを感じる。だが、それが何なのか、今の彼女には分からなかった。
「連れて行け」
騎士たちに促され、リゼットは再び独房へと戻されていく。
広間には、納得のいかない空気だけが残されていた。
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