第35話 目覚めたあと
戦いが終わってからしばらく経った頃、ユリアンのまぶたが震え、その目がゆっくりと開いていく。
「……リゼット?」
かすれた声で名前を呼ばれ、リゼットの喉が詰まった。
「ユリアン、聞こえる? 私が分かる?」
震える声で問いかけると、ユリアンは戸惑ったように瞬きを繰り返した。
「ここは……礼拝堂か。俺は、いったい……」
言葉を切り、自分の体を見下ろす。それから、ゆっくりと視線を上げた。
「……そうだ、俺はあいつに体を乗っ取られて、リゼットに……」
途切れがちな声だったが、その目には隠しきれない苦しみが滲んでいた。
「あいつに操られてる間、俺は……お前を……傷つけて」
「大丈夫。何もされてないよ」
リゼットは静かに首を振った。
本当は、まだ分からないことがある。
引き剥がした魔王の残滓が、ユリアンの中にまったく残っていないと、誰が言い切れるだろう。
今目の前にいるこの人が、正真正銘のユリアンなのか不安が残る。
――それでも。
リゼットは、そんな不安を今は脇へ押しのけた。
「起き上がれる? ゆっくりでいいから」
差し出した手を、ユリアンはしばらく見つめていた。
「……ありがとう」
小さく礼を言うと、震える手でその手を握り返してきた。
ぬくもりが伝わってくる。それだけで、リゼットの目に涙が滲んだ。
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