第33話 最後の抵抗
黒い靄はもがくように部屋の隅へと逃げ込もうとしたが、その動きはあまりに遅い。
リゼットは剣を構えたまま、一歩ずつ間合いを詰めていく。
「……仕方ない」
開き直ったような声が漏れたかと思うと、靄の中心から黒い光弾が幾つも飛び出した。
とっさに身をかわす。頬をかすめた一撃が、背後の壁を抉った。
「これで終わりだと思うなよ」
なおも放たれる攻撃を避けながら、リゼットは魔王との距離を詰め続けた。
「私を完全に引き剥がしたと思っているようだが、それでユリアンが助かったと誰が言った?」
揺さぶるような声に、リゼットの足が一瞬止まる。
「ユリアンを今すぐ殺すことだってできるぞ! 聖剣を渡せば命は保証しよう。さぁ、選べ!」
挑発するような声に、リゼットの心臓が跳ねた。動揺してはいけない。
――迷うな。
セラフィナの最期の声が、耳の奥に蘇る。
『これを……あなたに……あなたならきっと、魔王を滅ぼせます……』
あの人は、命を懸けてこの剣を託してくれた。ここで手を止めれば、その想いを無駄にしてしまう。
リゼットは剣を握る手に、さらに力を込めた。
「――その前に、あなたを倒せば済むことです」
低い声で言い切ると、リゼットは最後の一歩を踏み込んだ。
切っ先が、黒い靄の中心――赤く光る二つの点の間へと、まっすぐに伸びていく。
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