第32話 剥き出しの姿
閃光が収まると同時に、ユリアンの体ががくりと崩れ落ちた。
「ユリアン!」
咄嗟に呼びかけたが、返事はない。ただ、荒い呼吸だけが聞こえた。息はある。
そのすぐ傍らの宙で、黒い靄が渦を巻いていた。人の形を保とうとするように蠢いていたが、支える器を失った今、輪郭はどんどん崩れていく。
赤く光る二つの点だけが、その中で瞬いていた。
「……これは、予想外だ」
低く歪んだ声が靄の奥から漏れる。もうユリアンの声色は残っておらず、ただの耳障りな響きになっていた。
「まさか聖女の奴め、腕輪を渡していたとはな。まったく……死んでも迷惑な存在だ」
苛立ちを隠さない声に、リゼットは手のひらに視線を落とした。
光の粒子が形を保ち、細い一振りの剣が手に握られていた。
聖剣バリス。
重さも感じない、すべてを切り裂く最強の一振り。その刃を握りしめる。
「――これで、終わりにする」
低くつぶやくと、リゼットは黒い靄へと切っ先を向けた。
靄が一瞬、大きく波打つ。
「……くっ。早く別の器に乗り移らなければ!」
そう叫ぶと、魔王は身を翻し、部屋の外へ逃れようとした。
だが、肉体を失った今の姿では、意のままに動くことすらできないらしい。もがくように宙をよろめきながら、思うように進めずにいた。
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