第30話 答え合わせ
「せっかくだ。答え合わせといこうか、リゼット」
拘束されたユリアンがそう言うと、先ほどから充満していた魔力がユリアンに吸い込まれるように集まっていくのがリゼットにはわかった。
「初めまして、私は魔王サクリファイス。いや、リゼットには魔王ユリアンだと伝えた方が状況が理解できるかな? 今までお前から聖剣の所在を聞き出すために演技をしていたのだが、どうやらお前には怪しまれていたようだな。まさかこんな魔法で防がれるとは思わなかった」
淡々と、しかしどこか楽しげに紡がれる言葉が、リゼットの胸に突き刺さる。
「そんな……ユリアンは、本物のユリアンはどこにいるの!?」
ユリアンの顔に浮かぶ笑みが、いっそう深くなる。
「もうわかっているだろう? 記憶ごと体を頂いたんだよ。だから、私は魔王でもあるがユリアンでもある。その意味がわかるか?」
くつくつと喉の奥で笑う声に、リゼットの中で何かが弾けた。
「――黙って」
低く絞り出した声が空間に響いていく。
「いいことを教えてやろうか。ユリアンはお前のことが好きだったようだぞ。この感情は本当に役に立つ。人間はこの感情を持つと途端に弱くなる。少し揺さぶりをかけるだけで、随分と楽に乗っ取ることができたよ。これもリゼットのおかげだな。ありがとう」
「黙れって、言ってるだろ!」
叫ぶと同時に、リゼットは魔力が抑えきれずに膨れ上がる。
周囲の空気が震え、祭壇の蝋燭の火が一斉に強まって、あたりがさらに明るくなった。
震える拳を握りしめながら、リゼットは、ユリアンの姿をした魔王に対し、全力で魔法を打ち込むために覚悟を決めた。
掌に集めた光を、迷いなく解き放つ。
轟音とともに閃光がユリアンの体を包み込む。手のひらに衝撃が跳ね返ってきた。だが、煙が晴れた先に立っていたのは、傷一つない魔王の姿だった。その足元には、ボロボロになったモーリス枢機卿が倒れている。
あの一瞬でモーリスが射線に入り、盾となったようだ。
「モーリス様……」
「今のは私には効かないぞ。まぁ。届いてすらいないがな」
くつくつと笑う声に、リゼットは肩を強張らせた。
「本気を出せよ、リゼット。でないと――」
言葉を切り、魔王はゆっくりと首をかしげた。
「ユリアンもセラフィナと同じ結末になるぞ?」
その名前が出た瞬間、リゼットの手が止まった。
「あの女も最後まで抵抗していたが、お前を守りたい一心で勝手に死んでいった……いや、お前が殺したんだったか。あっはっは!」
「ふざけないで! ……私は約束したんだ。お前を必ず滅ぼすと!」
「知りたくないのか? あいつが本当は何を思って死んだのか」
嘲るような声に、リゼットは奥歯を噛みしめた。今、心を乱されるわけにはいかない。魔王に隙を見せれば、私でも乗っ取られかねない。そうなれば聖剣は奪われて、取り返しのつかないことになってしまう。そう分かっているのに、指先の震えが止まらなかった。
すると、突然ユリアンの様子が変わり、苦しそうに言葉を紡ぐ。
「うぅぐぁ……リゼット。す……まない。俺を……討て!」
「ま、まさか……ユリアン、なの?」
「あ……ああ。そうだ。魔王の支配に抗っているが、時間が……ない。頼む。俺もろとも……やれ!」
先ほどの魔王だったユリアンとは違う、いつものユリアンの面影を、リゼットはそこに感じていた。
覚悟が決まったユリアンの目を見て、リゼットの瞳から涙があふれだした。
「で、できないよ……もう、誰も失いたくない! もう誰も、死なせたくないよ!」
「だめだ……う、うがぁぁぁ!」
精一杯にユリアンに伝えるが、ユリアンは頭を抱えて苦しみだした。
「ユリアン! しっかりして!」
魔王は精神体のため、もし聖剣で滅ぼすとしたらユリアンの体から一度出さなければならない。でなければ、ユリアンの精神まで消滅してしまう。
そのことを考えながら、リゼットはどうにかしてその方法を探さなければならなかった。
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それでは、また別の作品でお会いできますように。




