第26話 礼拝堂の人影
礼拝堂へ向かう夜、支度をしながら、リゼットは妙な胸騒ぎを覚えていた。
出かける直前、リゼットはユリアンを呼び止めた。
「ちょっと、じっとしてて」
「? ああ」
戸惑うユリアンに構わず、リゼットは彼の体に向けて短く詠唱し、防御用の魔法をかけた。続けて、自分自身にも同じ魔法を重ねがけする。
「用心深いな」
「悪い予感がするの。念のため」
そう答えながら、リゼットはもう一つ、誰にも気づかれないよう準備を進めていた。
攻撃魔法を、発動させる直前の状態のまま、体の奥に留めておく遅延型の魔法だ。
この技術は、膨大な魔力を維持し続けなければならず、並の魔法使いには扱えない。だが、常に魔法を「発動寸前」の状態で待機させておけば、いざという時、詠唱にかかる時間を大幅に短縮できる。
――何かあっても、すぐに動ける。
そう自分に言い聞かせ、リゼットは家を出た。
郊外の礼拝堂は、街の喧騒から離れた場所にひっそりと建っていた。
古びた扉を、ユリアンが押し開ける。
「入るぞ」
二人は、薄暗い礼拝堂の中へと足を踏み入れた。
祭壇の前には人影があった。
「ダレンさん?」
声をかけながら近づいたリゼットだったが、振り返ったその顔は、想像していた人物とはまったく違っていた。
「――モーリス様?」
驚きに固まるリゼットの前で、モーリスは穏やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと一礼した。
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