第24話 条件の全貌
王立図書館の三階、奥まった書架の前に、リゼットは陣取っていた。
そこは埃っぽく、あまり人が来ない一角ではある。だが、憑依・精神干渉に関する史料が集まっているのはここだけだった。
「まだ半分も読み終わってないのか」
隣の椅子に腰掛けたユリアンが、積み上げられた本の山を見て呆れ声を上げる。
「監視役なんだから、そこで大人しく座っててよ」
「大人しくしてるだろ。それより、少しは休んだらどうだ」
軽口を返しながら本を閉じたユリアンが、書架の方へ歩いていく。その背を見送った瞬間――ふと視線を感じて振り返ると、一瞬だけ、ひどく冷たい目でこちらを見ていた。
だが、目が合うと、ユリアンはすぐにいつもの調子で笑ってみせる。
「どうした?」
「……ううん、何でもない」
見間違いだったのだろうか。気にはなったが、深く考えている余裕はなかった。今はそれより優先すべきことがある。
リゼットは机に向き直り、目当ての一冊を開いた。
『魔王――肉体を持たぬ精神体についての考察』
古びた表紙には、そう記されていた。
ページをめくると、過去幾度となく現れては国を滅ぼしたという「魔王」についての記述が並んでいた。人の姿を借り、中枢に潜み、時には王を乗っ取ってきたという伝承。そして、それに対抗してきた者たちの記録。
――やっぱり、これだ。
聖女を蝕んでいたもの。教会が隠していたもの。すべてが、この一語に繋がっている。
そこまで読み進めたところで、いつの間にか戻ってきていたユリアンが、横から本を覗き込んできた。
「魔王の本なんて読んで、どうしたんだ?」
問いかける声は、いつもと変わらない気安さだった。
「……ただの興味。教会があんなに騒いでるくらいだから、何なのか知っておきたくて」
「まあ、確かに気になるよな」
ユリアンはそう言うと、興味なさそうに視線を外し、また別の棚へと歩いていった。
リゼットは、その背中をしばらく見つめてから、再びページに視線を戻した。
文献には、乗っ取られた者たちの共通点が記されていた。
一つ、魔力量。乗っ取られなかった者は、決まって魔王本人より魔力が優れていたという。
――なら、私は平気そう。
自分の魔力量には、誰よりも自信があった。世界最強と呼ばれるだけの理由が、こんな場面で少しだけありがたく思えた。
二つ、名前。「魔王は必ず名を訪ねてくる」という記述が、複数の文献に共通して現れる。
三つ、接触。直接触れ合うことが、乗っ取りの引き金になるという。
三つの条件を頭の中で並べた瞬間、リゼットは息を止めた。
――セラフィナに、直接触れられる立場にいた者。
聖女という立場上、気軽に人と接触できる相手は限られている。祝福の儀式、面談、治療――そのどれもが、教会関係者にしか許されていないことだった。
やはり、教会の中にいる。
確信が、また一つ積み重なった。
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それでは、また別の作品でお会いできますように。




