第11話 世界最強の噂
「本当にあの子が、世界最強の魔法使いなのか?」
酒場の隅から聞こえてきた声に、ユリアンは思わず足を止めた。
安酒を一杯だけ頼み、目立たないよう俯いたまま耳を傾ける。聖女殺しの捜査で聞き込みに歩くうち、こうして市井の噂に紛れ込むのも仕事のうちになっていた。
「知らないのか? 五年前、東の街道で魔獣の群れを単身で退けたって話だ。騎士団が総出でも敵わなかったのに、あの女ひとりで蹴散らしたらしい」
「大げさだろう。噂ってのは膨らむもんだ」
「俺の従兄弟が現場にいたんだよ。嘘じゃない。睨まれただけで魔獣が動きを止めたって言ってた」
見ず知らずの男たちが、勝手にリゼットの話で盛り上がっている。ユリアンはグラスの縁を指でなぞりながら、小さく苦笑した。
――俺の知っているリゼットは、そんな大それた人間じゃない。
木登りが下手で、何度も落ちては泣いていた。魔法の練習では加減がわからず、庭の木を丸ごと凍らせて母親に叱られていた。あの頃の彼女のことはユリアンしか知らない。だが気づけば、彼女は「世界最強」と呼ばれる存在になっていた。
「そういう規格外の魔力持ちは、洗脳やら精神干渉やらの類が一切効かないって聞くぜ。だから逆に厄介なんだと」
そう、ユリアンは洗脳の可能性を疑っていた。だが、誰が彼女にそれができるというのだろうか。 彼女を洗脳できそうな人物は虱潰しに探したが見つからなかった。もし、それが可能なのだとすると、魔王クラスになってくるだろう。そんなことがあり得ない。そう自分に言い聞かせ、残った酒を一息に飲み干す。
台の上に硬貨を置き、席を立つ。
聖女様の側にいたという教会関係者への聞き込みは、まだ済ませていなかった。リゼットが口にした「教会の内側」という言葉が、ここへ来てようやく得ることができたヒントなんだ。必ず今回の騒動の黒幕を見つけ出す。そうユリアンは意気込んだ。
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