第81話
冒険者ギルドに、大討伐についていろいろ確認を終えた。
俺はカフェに入り、情報整理をする。
「大討伐……はあ、マルセリア王国で最後にあったのは十年くらい前かな」
今回の『エンシェントドラゴン討伐』は、俺の予想した通りだった。
まず……エンシェントドラゴン討伐は、S級冒険者が数名、タクニキ王国騎士団の部隊長が十数名でチームを組んでの討伐になる。
出発は十日後。それまで、タクニキ王国周辺に大量発生している魔獣の討伐が行われる。
騎士団の騎士たちを筆頭に、C級以上の冒険者は討伐に強制参加。それ以下の冒険者は志願制となり、報酬は国庫から支払われる。
討伐した魔獣の部位などは討伐者の物になる……これはまあ当然か。
タクニキ王国は、エンシェントドラゴン討伐まで街道などの移動は制限される。流通など最低限の移動は、騎士や冒険者が同行しての移動となる。
まあ、この情報は予想通り……問題は次だ。
「大討伐で功績を残した冒険者は、エンシェントドラゴン討伐に参加することができる……か」
つまり、この十日で魔獣討伐でいい成績を残した冒険者は、エンシェントドラゴン討伐に参加可能……冒険者として、これ以上ない功績になる。
ドラゴン討伐。冒険者にとって憧れの偉業だ。
「うーん……」
アキト、ティンファには言ってないことがある。
それは、今の二人の実力だ。
「……この十日で、恐らく相当な戦闘経験が手に入る。実戦で伸びるタイプだとは思っていたけど……」
正直に言う。今のアキトとティンファは、C級冒険者レベルの強さだ。もしかしたらこの十日で、B級上位かA級レベルの強さになる。
強くなるのにもっと段階を踏むべきだと思っているが……仕方ないか。
「……さすがに、エンシェントドラゴンはまだ厳しい。いざとなったら……やるしかないか」
俺はカバンの中にある『変装セット』を意識する。
年のため持ってきてよかった……『刀』を。
◇◇◇◇◇
宿に戻ると、トーニャが心配そうな顔で出迎えてくれた。
「あ。アルノーさん……ね、聞いたよね。ドラゴンのこと」
「もちろん。ああ……宿屋も大変か?」
「うん。流通が制限されて、食事とかも満足に出せなくなっちゃうかも。でも、一か月分くらいの備蓄はあるから、アルノーさんが滞在している間は大丈夫だよ」
「はは、そんなこと気にしなくていい。それに、これから大量に魔獣狩りが始まる。肉とかならきっと溢れるくらい手に入るぞ」
「あはは。お肉だけじゃ無理だよー」
トーニャは笑った。
そして、すぐに不安そうな顔になる。
「あのさ、ティンファとアキトくん……戦いに行くの?」
「ああ。覚悟は決まってるようだしな」
「そっか……アルノーさんも?」
「まあ、二人のお守りが必要だしな」
「そっかあ……ね、気を付けてね。まだ滞在日数残ってるし、いきなりいなくなるとかダメだからね!!」
「はは、わかってるよ」
最悪……俺がエンシェントドラゴンを狩る。それくらいの覚悟はあった。
さて、部屋に荷物を置いて、ティンファの家に行くとするか。
◇◇◇◇◇
ティンファの家へ到着。
店番していたのはショコラだった。
「あれ、お前が店番か?」
「ええ。ところで、もう町中の噂になってるけど……エンシェントドラゴンが出たそうね」
ショコラは意外と落ち着いて……意外でもないか、元冒険者だし。
俺は適当に頷き、カウンターへ。
「ああ。ティンファはどうしてる?」
「こっちが聞きたいわよ。あなたと一緒に冒険者ギルドに行ったんじゃないの? 戻って来るなり部屋に籠って……あなたとの別れが寂しくなったのかしら」
「ちゃうちゃう。遺書を書くように言ったんだよ」
「は?」
俺はショコラに「大討伐に参加する」ことを説明。ショコラは厳しい顔をする。
「本気?」
「……まあな。言ってなかったし、言うつもりなかったけど……今のティンファはもうC級レベルの強さだ。魔獣の大量発生で経験を積めば、十日でA級レベルまで強くなる可能性もある。エンシェントドラゴン討伐に参加できるかもしれない」
「……アルノー、本気なの? そもそも……それを私と、カムドが許すと思っているの?」
すると、店の奥のドアが開き、タンクトップ姿のカムドが俺の元へ。
そして、俺の胸倉を掴んで睨みつけた。
「ティンファから聞いた。お前……あの子を大討伐に参加させるだと? 冒険者になって一年どころか、半年も経過していない最下級の冒険者であるあの子を、大討伐に? お前、何考えてやがる!!」
怒るのは当然。俺はその怒りを全て受け止める。
「あの子の実力なら問題ないと確信した。恐らくカムド、ティンファはお前より強いぞ」
「……それでも、まだ経験が足りねえだろうが!!」
「確かにな。だが、ティンファはメキメキ上達している。大討伐で大量の魔獣を倒してレベルを上げれば、A級レベルの強さを手に入れることができるかもしれない」
「そりゃただの強さだ。経験じゃない。まだあの子には早い!!」
俺はカムドの手を掴む。
かなり強い……冒険者を引退して二十年経つ男の力じゃない。こいつ、たぶんずっと鍛え続けているな? 恐らくショコラも。
だが……俺は現役の冒険者。カムドの腕を掴み、手のツボを指で押すと、痛みで顔をしかめたカムドが手を離す。
「あの子が『お前たちの娘』なら俺も参加させるつもりはなかった。でも、話を聞いてあの子が『冒険者』だったから、俺は参加を認めた……わかるだろ、お前たちなら」
「「…………」」
カムド、ショコラは黙りこむ……冒険者だからこそ、わかるのだろう。
「止めたいなら、ティンファを直接止めろ。それと……ティンファは俺が死なせないさ」
「……ったく、D級のくせによ。だが……なんだろうな、お前が言うと、エンシェントドラゴンだろうが敵じゃねぇように聞こえるぜ」
「……アルノー、あなたを信じるわ」
「俺じゃなくて、ティンファを信じろよ」
すると、ティンファがドアを開けて滑り込むように俺たちの前へ。
「遺書できた!! って……師匠? あ、おかーさんこれ遺書!! えへへ、よく書けたかな?」
「あのね……そんな明るい声で『遺書』なんて言わないの。まったく……」
「わわ、なになに?」
ショコラはティンファを優しく抱きしめた。
カムドも、ティンファの頭をなでなでしている。
俺は家族の邪魔をしないよう、そっと家を出るのだった。




