第80話
今日は解散。
俺はアキトとティンファを家に送るためギルドを出た。
「あの、師匠……『大討伐』について、詳しく聞いていいですか?」
「聞いてどうするんだ?」
「えと……その、いつかまたこういうことあったら、参加するかもだし」
やれやれ……まあ、情報は大事だしな。
「国が冒険者ギルドに依頼して冒険者を招集する場合、大抵は国の騎士団だけじゃ手が追えない時だ。今回の場合は、エンシェントドラゴンが現れたことで、ガガムド山脈から追い出された魔獣がタクニキ王国領内に集まってるからだろうな」
「つまり、縄張りを追い出された魔獣、ってことですか?」
アキトが言うと、俺は頷く。
「そう。そういやカムドも言ってたな……最近、タクニキ王国内に魔獣が増えてるって。恐らく、エンシェントドラゴンのせいだな」
「ううー、そんなあ」
「まあ、エンシェントドラゴンを討伐すれば終わるだろう」
「あのあの、師匠……エンシェントドラゴンって強いんですか?」
「ああ。ゴブリンが千体いても勝てないだろうな」
「……えーと、よくわかんないです」
ピンとこないのか、ティンファは首を傾げる。
「ゴブリンの討伐レートがFで、エンシェントドラゴンはSSSだ。つまり、冒険者ギルドが定めるランクの最上級ってこと」
「……や、やばいですか?」
「俺の知る限り、過去にSSS認定された魔獣は五体しかいない。しかも、そのうち四体はまだ討伐されてない」
「「え」」
まあ、言うつもりないが……その五体のうちの一体をこっそり討伐したのは俺である。ちなみにエンシェントドラゴンではない。
「エンシェントドラゴンの討伐レートはSだが、今回SSS認定されたってことは、普通のエンシェントドラゴンじゃないんだろうな」
「じゃ、じゃあ……まずいんじゃ」
「まあ、王国騎士がいるから大丈夫だろ。騎士団の部隊長は全員、冒険者で言うならS級の強さだ。タクニキ王国の騎士団形態はよくわからんけど……まあ、少なくともS級冒険者が十人以上いて、部下にA級冒険者が五十人くらいいると思えばいいだろ」
「「…………」」
つまり……アキト、ティンファの出番はないってことだ。
「冒険者の役目は、タクニキ王国周辺に増えた魔獣の討伐だろ。ガガムド山脈に向かうのはS級冒険者だけだろうよ」
希望を持たせるようなことを言う俺。
なんとなくわかってしまう……この二人、ガガムド山脈のエンシェントドラゴン討伐に参加するかもしれない。
まあ、もうすぐE級冒険者に昇格する新人のことなんて連れて行くとは思えないが。
「と……アキトの家に到着だ」
「……先生。やっぱりボク」
「……はあ。どうしてそこまで討伐に参加したいんだ?」
アキトは諦めきれないようだ。質問すると、ティンファもアキトの側へ。
「師匠、あたし……この国の冒険者だから、この国のために戦いたいです!!」
「ボクも同じです。この国を、大事な人を守るために……!!」
「……」
俺は首を振り、もう一度聞く。
「いいか、もう一度聞くぞ。どうして参加したいんだ?」
「ですから、国の」
「そうじゃない。国のため? 違うね……本当の理由がある。お前たちも自覚していない、心の奥底にある真実だ」
「「…………」」
お国のために戦う。そんな高尚な理由が、十六歳の子供にあるはずがない。あるかもしれないが……少なくとも、俺がずっと見て来た二人は、このタクニキ王国のために命を賭けるような子供じゃない。
すると、ティンファが言う。
「……戦いたい」
「なに?」
「あたし、戦いたいです。もっともっともっと、いろんな魔獣と戦いたい。あたしの槍で、ゴブリンやコボルトじゃない、もっと強いやつと戦いたい……それが理由です」
本音を聞けた。少なくとも、ティンファは……うん、この子は『戦闘狂』だ。
まだ若く経験も浅い。でも、戦いたいという本能が強い。
「……ボクは違う。ボクは……ああ、そうか。もっともっと、稼ぎたい」
「稼ぐ?」
「はい。お金を稼いで……母さんに、楽をさせてあげたい」
アキトは、振り返って自分の家を見る。
「もっといい家に住ませたい。ふかふかなベッドが欲しい、高級な食材の料理を食べたい、母さんと旅行に行きたい、もっと綺麗な服を買ってあげたい……ああ、お金が欲しい」
アキトの本音だった。
決して俗なことじゃない。生きるには金がかかる。それに、ずっと母親に苦労をさせてきたアキトにとって、母親が笑顔になるなら何だってしたいのだろう。
戦うこと、金を稼ぐこと。
それは、決して間違いではない。
「……本音を聞けたな。よし、改めて聞く。討伐に参加するか?」
「「はい!!」」
「よし、いいだろう。恐らくだが……ガガムド山脈に向かう前に、魔獣の数を減らすために掃討戦があるはずだ。それに参加するぞ」
「「はい!!」」
「俺は冒険者ギルドに行く。詳しいことを聞いて来るから、お前たちは家にいろ」
「え、なんで? 師匠、あたしも」
俺はティンファを手で制する。
「遺書を書いておけ。死ぬかもしれないからな」
「「っ」」
俺は、冗談でもない、対等な冒険者として二人を扱うことにした。
遺書。冗談でもなんでもない。本気の意味だ。
俺はそれだけ言い、冒険者ギルドに向かうのだった。




