第8話
ある日、俺は自宅の地下室で細工をしていた。
「……こんな、感じかな」
新しく手に入れた『細工師』と『鍛冶師』のジョブを使い、思いついたアイテムを作っていたのだ。
俺が手にしているのは、細長い筒……だが、ただの筒ではない。
俺は、筒を手に中を覗き込む。
「お~……おーおー、見える見える。倍率調整……よし、できる!!」
俺が作ったのは、ライフルとかに付ける『倍率調整スコープ』だ。
この世界には眼鏡もあるし、レンズは存在する。それらを『細工師』のスキルで調整し、『鍛冶師』のスキルでスコープのガワを作り組み合わせた。
俺は完成した『スコープ』を手で弄び、凝り固まった肩をほぐしながら呟く。
「いや~……思いつきとはいえ、できるモンだ。まさか、剣の研ぎを依頼した親方の願いと、奥さんの願いを同時に叶えたら手に入るなんて。タナボタにもほどがある。真面目に新人指導やったのが神様に評価されたのかねー」
そう、いつも剣を研ぎに出している鍛冶屋の親方が、酒の飲み過ぎで奥さんから禁酒命令を受けてゲッソリしていたのに遭遇……たまたまスキットルを持っていたのだが、親方が『頼む!! 一口、一口だけ!!』なんて心からの願いを叶えてやったら、フツーに『鍛冶師』のジョブを手に入れてしまったのだ。
その後、鍛冶屋の隣で細工工房をやってる親方の奥さんに挨拶すると、奥さんもどうやら禁酒しているらしくドンヨリしていた……まあ、俺がスキットルを見せると、『旦那にはナイショにしておくれ』なんて欲しがるから飲ませたら、これまた『細工師』のジョブをゲットしてしまった。
酒豪の鍛冶師、細工師夫婦と昔から知ってるけど……心からの願いレベルで酒を欲しがるとは思わなかったぜ。まあ、おかげでジョブを手に入れたけど。
まあいい、それより。
「このスコープを、弓にくっつけて……できた。スコープアローだ」
そのまんまな名前。まあネーミングセンスは勘弁してくれ。
「試してくるか。と、せっかくだし……」
俺はリュックに、『鍛冶師』と『細工師』のスキルを得るために作った道具……キャンプギアを詰める。
「せっかくだ。久しぶりに、キャンプでもするか。キャンプギアの実験もしたいからな」
さて、町で買い出しをして、俺のとっておきキャンプ地に行きますかね。
◇◇◇◇◇◇
やって来たのは、町から少し離れた小さな森。そこにある綺麗な泉だ。
ここはキャンプ地として最高のロケーション。魔獣もあまり出ないし、道が整備されてるわけじゃないから人が誰も来ない。たまーにキャンプするには最高の場所だ。
わざわざ、泉の近くを草刈りしたり、竈用の石を積んでおいたり、木製のビーチチェアを茂みに隠して置いてあるのだ。
俺は竈用の石を積み、ビーチチェアを引っ張り出し、リュックを置いてまずは休む。
「あぁぁあ~……やっぱ、大自然最高よ。最高……」
スキットルをポケットから出し、ビーチチェアに寝そべって飲む。
大自然最高。青い空、白い雲、緑の匂い……癒される。
太陽の光でキラキラ輝く泉を眺めていると、魚が跳ねた。
ここの泉、川に繋がっているから絶好の釣りスポットでもあるんだよな。
さーて、まずは釣りでも。
「──っぷは」
「え?」
いきなり、目の前で……水の妖精が現れた。
「…………え?」
目が合った。
いきなり立ち上がったせいか、膝から上までの肢体が輝いて見える。
エメラルドグリーンに輝く、腰近くまで伸びたロングヘア。
同じ色の瞳、スレンダーで、濡れた身体がなまめかしい。
子供、だろうか……アルテミウスと同じくらいの年齢の、少女。
まあ、裸だし……『ついてない』から、女の子なんだけど。
いや、待て。この子の耳……長く、尖ってる。
「…………っひ」
「あ、すまん」
次の瞬間、絶叫が響き渡り……近くの木に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたいた。
◇◇◇◇◇◇
さて、現在俺はジト目で睨む少女と焚火を囲んでいた。
この日のために作った、ミスリル製の折り畳み式焚火台。専用の網と組み合わせることで、このまま焼肉だって焼けちゃうのだ!!
だが……今は視線が痛い。
「悪かったって。ていうか、見たのは謝るけどよ」
「ヘンタイ」
「いや……」
「えっち、スケベ。アタシの身体、ジッと見てた」
「まあ、すみませんでした」
こりゃ謝るしかない。見ちゃったのは事実だしな。
俺は、筒型のウッドストーブに薪を入れて火を着け、そこにヤカンを置く。
あっという間にお湯が沸き、お茶を淹れて少女に渡す。
「ほれ、あったまるぞ」
「……アリガト」
少女はお茶を飲み始めた。まだジト目だったが、お茶を飲むとホッコリしたのか顔が緩む。
「シャナ」
「へ?」
「名前、シャナ。アンタ……アルノーだよね」
「お、知ってんのか? 俺も有名……」
「万年D級の冒険者。でも、指導員として優秀」
「……万年D級は余計な。指導員として優秀ってのは?」
「聞いた。アルノーって指導員は優秀だって。指導した中にS級冒険者もいるって聞いた」
その情報は間違っていない。というか……目立ちたくないけど、仕事が優秀なせいで評判よくなってるのかね。
俺は改めて少女……シャナを見る。
装備は胸当て、スカートにブーツと軽装だ。長い髪はポニーテールにして、長い耳はピコピコ動いてる。
そして、矢筒と大きな弓が近くの木に立てかけてあった。
「エルフ族、か」
「うん。ねえ……あなたってさ、強い?」
「万年D級だぞ? 倒せてもせいぜい、Cレートの魔獣までだ」
まあ、嘘ですはい……その気になればまだまだいける。
目立ちたくないので、この程度の実力としている。
「嘘。アンタ、もっと強い」
「……さーて、メシでも作るか。お前も食うか?」
「いいの?」
「ああ。その代わり、食材調達手伝ってくれ」
「……」
話を逸らした。あんまりツッコまれたくないのだ。
俺は釣りをしようと思った。が……スコープアローを手にし、矢に釣り糸を結ぶ。
シャナは、弓を見て驚いていた。
「あなたも弓? というか……なに、それ?」
「スコープアロー。俺の発明だ。というか、エルフ族ならジョブに関わらず弓矢は得意だろ?」
俺は泉のほとりに立ち、釣り糸付きの矢を番える。
そして、スコープの倍率を調整……泉のほとりから狙いを定める。
「……何を」
「───っ!!」
シャナが何かを言おうとしたが無視、俺は浮上してきた魚に狙いをつけ、矢を放つ。
すると、真っすぐ飛んだ矢が浮上してきた魚に突き刺さった。
「うっし、命中!!」
「……うそ」
ちなみに、ジョブは『剣士』のままだ。
『弓士』ならスコープなくても命中させられるが、あえて試してみた。
「精度も悪くない。もうちょい小型化するか……」
「今の、何!?」
「うおっ!?」
シャナが食いついてきた。
俺の腕を掴み、目を見開いてスコープアローを見ている。
「いや、スコープだよ。あ~……よく見えるような筒というか」
「これ付けると、見えるの?」
「おう。でも、お前には必要ないだろ。エルフ族は弓矢の達人だろ?」
「…………それ、人間が勝手に言ってるだけだから」
シャナはムスッとし、俺を睨んで手を離す。
「お、おい、メシはいいのか?」
「いらない」
シャナは行ってしまった。
俺はわけが分からず、首を傾げるのだった。




