第74話
アキト対ティンファが始まる。
俺はカムドとショコラの元へ戻った。
「お、戻って来たか」
「アルノー、遅かったわね」
「悪い悪い。トイレ混んでたんだ」
適当に言い、カムドの隣に座る。
「おいアルノー、次の試合……お前が言ってたティンファより格上のヤツだな?」
「ああ。なんだ、アキトの試合見てたのか?」
「まあな。粗削り、というかセンスだけで剣を振ってるようなところはあるが、鋭くいい剣だと思ったぜ」
「そうね。格上……その言葉も納得できるわ」
さすが元冒険者、ちゃんと見ているところは見ている。
ショコラはため息を吐く。
「はあ……さっき、あの子が第二試合を勝った時に様子を見たんだけど、調子に乗っていたわね……本気で優勝できると思ってるみたい」
「ああ。自分に敵はないと、格下を見下すような言い方をしていた。怒鳴りつけてやろうとも思ったが……お前、考えてるんだろ?」
「というか、トイレって嘘よね。あなた、何をしに行ってたの?」
鋭いな……まあ、ティンファを甘やかす親バカになって欲しくないから誤魔化したけど、この二人なら心配ないか。
俺はアキトとの取引について説明……母親の治療に関しては伏せて。
二人は納得したのか、それ以上は何も言わなかった。
「てわけで、アキトはティンファの鼻っ柱をへし折る……お」
すると、実況が二人の入場を宣言した。
ティンファ、アキトが注目を浴びながら入場……ティンファは観客に手を振ったりしていたが、アキトは軽く一礼しただけで集中していた。
「ふふん、あんたもレジェンドジョブ持ちみたいだけど、ノリノリなあたしに勝てるかなー?」
「……集中した方がいいよ」
ティンファは槍を構え、アキトは双剣を構える……へえ、いい構えだ。
『それでは、試合開始!!』
「師匠の教え、先手必勝!!」
あれ、俺言ったっけ……まあいいや。
ティンファは槍を構えて一気に踏み込み、アキトの喉を狙った鋭い突きを放つ。あれは初級スキルの『紫電突き』か。
だが、アキトは半歩だけ横に移動して回避……そう、紫電突きは鋭いけど、真っすぐな突きだから半歩ずれるだけで回避できる。
「むっ、だったら……!! 『五月雨突き』!!」
初級スキル、『五月雨突き』……突きのラッシュだ。
だが、アキトはバックステップで回避。
冷静だ。いや……そうか、そういうことか。
「おい、アルノー……あれ」
「ああ。アキトのやつ、ティンファの槍の間合いを完璧に見切ってる。驚いたな……ろくな教えを受けていないはずなのに」
「……ティンファ。あの子も冷静になれば、間合いを見切られていることに気付くはずじゃない?」
「どうかな……」
紫電突き、五月雨突き、二連牙、流星突き……初級スキルを連続で放つティンファ。だが、アキトは全てを見切っていた。
そりゃそうだ。どんなスキルだろうと、攻撃範囲から出れば当たらない。闇雲にスキルを連射するだけじゃ絶対に勝てない。
それに、スキルは無限に放てるわけじゃない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
確かに、ティンファは才能の塊だが……体力は十六歳の女の子に毛が生えた程度。ゴリ押しでどうにかなることは絶対にない。
「くっそおおおおおおお!!」
「スキルはこうやって使うんだよ」
「っ!?」
紫電突きを放った瞬間、アキトは一瞬でティンファの懐へ。
うまい。双剣の初期スキル『ダッシュ』だ。一瞬だけ、自身の限界を超える速度でダッシュできる……ちなみに、『ダッシュ』は双剣だけじゃなく、全ての刀剣系ジョブ共通のスキル……なんだ、アキトのやつスキル一つじゃなくて使えるじゃないか。それか、もしかしたら覚えたばかりなのかもな。
アキトはティンファの両手を木剣で叩き、槍を落とす。
そして、剣をティンファの首に突きつけた。
「……どうする?」
「ま、負けてない。あたし、負けてないし……」
落とした槍を取ろうと木剣を跳ねのけた瞬間、木剣の柄で腹を殴られ、ティンファは崩れ落ちた。
『勝負あり!! 勝者、アキト!!』
歓声が響き渡り、アキトはようやく子供のように笑い、剣を掲げるのだった。
◇◇◇◇◇
俺、カムド、ショコラは控室へ。
ティンファはムスッとしており、俺たちと目を合わせようとしなかった。
俺は遠慮なく言う。
「まあ、こうなることはわかってた。ティンファ、お前に足りないもの、いろいろ見えたな」
「……もう一回やれば勝てるもん」
「無理だ」
即答する。
ティンファは俺をキッと睨むが、俺はその視線を受け止める。
カムドも、ショコラも、俺と同じような眼をしていることにティンファは気付き、再び顔を伏せてしまう。
「アキトとお前の才能は似たようなもんだ。それにお互い『職業適応者』……ジョブの違いはあるけどな。でも、お前と違ってアキトは冷静に、自分のジョブ、スキルの使い方を理解していた」
「…………」
「お前は確かに才能はある。でも、実戦経験がない。闇雲にスキルを使うだけ。そんなんじゃまず勝てないぞ」
「…………次は、勝てるし」
「勝てない」
「む……そんなの、やってみないと……っ」
ティンファは黙った。俺がどういう顔をしているのか、直視したからだ。
「これは非殺傷部門の戦いだ。だからお前は生きてる」
すると、なんともいえないタイミングで血塗れの怪我人が炭化で運ばれていった。どうやらメインリングでも試合が始まったようだ。
ティンファは血だらけの選手を見て「ひっ」と声を漏らす。
「もし、これが本選だったら、アキトの双剣はお前の両手を斬り飛ばしていた。アキトは優しいから降参するように言ったけど、アキトじゃなかったらそのまま斬られて終わっていたな。まあ、死んでいただろ」
「……あ」
「さて、ティンファ。冒険者を目指すのなら、命を賭けた戦いや、命の危機は常にある。お前はそれに向きあう覚悟はあるか?」
「…………」
「それがないなら、もう指導は終わりだ。お前はパン屋の看板娘に戻るべきだ。でも……覚悟があるなら」
「あります!!」
ティンファは立ち上がり、俺を睨みつけるように言う。
「覚悟はあります!! あたし、甘かった……冒険者って、命懸けのお仕事だった!! 命を失う覚悟はまだないけど、命を守るために努力はできます!!」
いい目だった。
俺は頷き、ティンファの頭を撫でる。
「さて問題。お前はこれからどうする?」
「鍛える!!」
「まあそうだけど、もっと詳しく」
「えと……勉強?」
「中身は?」
「…………死なないようにする勉強」
「まあ正解。いいか、死なないようにするためには、自分を理解することだ」
「……自分を、理解」
「そうだ。お前は『槍聖』……つまり、槍が武器だ。槍の突きは確かに強いが、放ったあとの隙は大きい」
「……ですよね」
「そう、そうなんだ。だったら、隙をなくせばいい。そのために『戦術』はある。アキトは、お前の突きが放たれた直後を狙って間合いに飛び込み、槍を叩き落とした。さて……槍は月を放ったあとは隙が大きいってことがわかった。ならどうする?」
「突きをしない。あれ? でもそれじゃダメ……突いても、隙がないようにする?」
「そう。そのための戦術を考える。そうして、お前という槍使いを作っていく。それが勉強だ」
「おおおおおおおお!!」
ティンファは理解したのか、キラキラした目で俺を見た……表情コロコロ変わるなあ。
「いいか、この敗北は決して無駄じゃない。負けたことで知れることもある」
「はい!! あたし、もっと強くなれますよね!! そしてあのアキトを今度こそブッ倒してやる!!」
ショコラは「女の子がブッ倒してやるとか言わないの」とティンファの頭を撫でる。
カムドは俺を見て「いい感じになったな」と拳を突き出してきたので、俺も自分の拳を合わせた。
「あたし、ジョブのスキルに頼りすぎてました。もっともっと勉強して、あたし自身を強くします!! 師匠、これからもよろしくお願いいたします!!」
「おう。任せて……ん?」
と、こっちに向かって来たのはアキト。
ティンファが「あーっ!!」と指を刺すが、ショコラが「ヒトを指差すんじゃありません」と叱っていた。
アキトは俺に頭を下げる。
「アルノーさん。さっきの話の続き、いいですか?」
「……いいけど、お前まだ試合あるんじゃないのか?」
「棄権しました。今のボクじゃ、次の相手は厳しいので」
「むむむ、師匠に何の用事? てか師匠、知り合い?」
「ああ。さっきちょっとな。で……決めたのか?」
「はい」
アキトは俺に頭を下げる……すごく礼儀正しいお辞儀だった。
「改めて、ボクの指導をお願いします」
「わかった。ティンファと合わせて、お前のことも鍛えてやる」
「はああああああああああああ!? ちょ、師匠、え!? なんで!?」
こうして、俺はアキトの指導も一緒にすることにした。
互いにいい刺激になればいいと思うけど。
「ちょっとあんた!! いきなりきてどーいうこよ!!」
「アルノーさん……いや、先生にさっき誘われたんだ。ボクには指導員がいなくてね。先生のもとで学ばないか、って」
「ダメダメダメ!! 師匠はあたしの指導で忙しいの!! 帰って!!」
「それ、決めるのキミじゃないだろ? それに、ボクはキミに勝ってるし、先生もボクの方を指導したいんじゃないかな」
「むっかああああああああああ!! あんた嫌い!! てかブッ倒す!!」
うんうん、喧嘩するほど仲がいい……なんだかエルレインとキュレネを思いだしたぜ。




