第73話
アキトの家へ向かう途中、変装用のマスクとマントを購入して装備した。
地図を手に、アキトの家へ向かう。
道中、手土産に果物をいくつか買い、急ぎ足で家へ。
「お、ここか」
アキトの家は、闘技場からほど近い、赤い屋根の家へ。
木剣が二本、玄関に立てかけある家を見つけた。ふむ……やや寂れた住宅区画にある家だが、お世辞にも綺麗な家とは言えない。
木剣を見ると、柄に血の跡があったり、刀身がボロボロだったりと努力の跡が見えた。
真面目でいい子だとは思っていたが……剣を見ればわかるもんだ。
俺は咳払いし、ドアをノックする。
「……はい」
出てきたのは、三十代前半くらいの女性だ。だが、頬もこけて全体的に痩せている。
顔色が悪い、悪すぎる……これは酷いな。
俺は声を低くして言う。
「こほん。アキトの依頼で来た治療士だ。あなたの病気を治す」
「……え?」
「ああ、これを」
と、フルーツバスケットを渡す。女性はポカンとしていたが、バスケットを受け取り、俺をジロジロ見て小さく頭を下げた。
「アキトの、依頼とは……その、どういうことで? あの子は今日、用事があっていないのですが……」
アキトのやつ、闘技大会に出てること言ってないのか。まあ……こんな病気の母親に闘技大会に出るなんて言ったら心配してさらに体調崩しちまうかもしれん。
俺は少し考えて言う。
「俺はアキトに恩ができてな。その恩を返すためにできることを聞いたら、母親の病気の治療をして欲しいと頼まれた」
「まあ……そうなのですか」
「ああ。悪いが、さっそく始めさせてもらう」
家に入り、母親を椅子へ。
俺は背中側に回り、手をかざす。
ジョブを『魔法士』にチェンジ。スキル発動……『キュア』だ。
「……はぁぁ。温かいですね」
「……くっ」
やっぱしダメか。
スキルレベルをカンストした『キュア』だが、母親の病気を完全に完治……とはいかない。病気の核にダメージを与えてはいるが……これはかなり時間がかかる。
例えるなら、オークに向かって裁縫の針でチクチク刺すようなもんだ。針一本でオークを殺すのにはかなりの時間がかかる。
やっぱ、あれを使うしかないか。
「……よし、これを飲んでくれ」
「これは?」
「薬だ。治療の効果を高める作用がある」
俺は、ベルトの裏に仕込んでいた、小さなカプセルを母親へ。
母親は、疑うことなくカプセルを飲み込んだ。そしてキュアを当てると……うん。
「……なんだか、楽になりました」
「よし、治療完了だ。病気はもう治ったぞ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。それと、しばらくは安静にして、しっかり食事を取るように。これを」
俺はそこそこの金額をテーブルへ置くと、母親は驚いていた。
「そ、そんな……こんな大金、いただけません」
「駄目だ。俺の目的は、あなたの病気を治すこと。アキトのためを思うなら、しっかり食べて、しっかり休んでくれ。どうか頼む」
「……ありがとうございます」
母親はペコっと頭を下げた。
俺は頷き、「では、お大事に」と家を出た。
「よし……これでアキトの憂いは消えるな。まあ……いいか」
俺は、アキトの母親に渡した薬について、少しだけ考える。
「レグナフィリアから貰った『エリクサー』……まあ、人助けに使ったって言えば、レグナフィリアも褒めてくれるだろ」
十年以上前、レグナフィリアから貰ったアイテムだ。霊薬エリクサー……あらゆる病気を治癒する、エルダーエルフ族の至宝。
エリクサー……異世界あるあるな薬。イメージとしては液体だったけど、普通に錠剤だったのは驚いたな。
俺は、レグナフィリアが持っていた七粒のうち、一つをもらった。お守りみたいなものだったけど、まさか使うことになるとはなあ。
でも、実際に『キュア』を当てたとき、エリクサーを飲んだあとだと病気の元がすっかり消えていた。
オークに核ミサイルをぶつけたようなもんだ。たとえがアレで申し訳ない。
「さて、さっさと戻るとしますかね」
俺はエリクサーのことを忘れ、アキトの元へ戻るのだった。
◇◇◇◇◇
闘技場へ戻って来た。
サブリングでは、一回戦が全て終わっていた。ティンファはどうなったかなと思ったが、二回戦も無事に勝利したようだ。
アキトも、二回戦を勝利……なんと、次はティンファとの試合だ。
俺はアキトがいたベンチへ向かう。
「お、いたいた」
「あ……アルノーさん」
俺は軽く手を挙げてアキトの傍へ。
「母親の病気は完治したそうだ」
「ほ、ホントですか!? あの、本当に……」
「嘘じゃない。冒険者ライセンスを賭けてもいいくらいマジだ」
「あ、あの。お知り合いの方は? 直接お礼を」
「ああ、シャイなヤツでな、もう帰るって行っちまった。お前がお礼言ってたってことは伝えておくよ」
「よかった……母さん」
俺が嘘をついているとは微塵も思ってなさそうだ。まあ、嘘じゃないけど。
俺はアキトに言う。
「さて、憂いは消えたか?」
「はい。母さんはもう、大丈夫なんですね?」
「ああ。病気は治ったから、あとは元気になっていくさ。お前も冒険者に集中できるし、お前が望むなら俺が指導してもいい。その代わり……」
「次の対戦相手、ティンファに敗北を、ですね」
「ああ。ティンファのために、叩きのめしてくれ」
「……わかりました」
お、アキトの表情が変わった。いいね……やっぱこいつ逸材だ。
俺はアキトの肩をポンと叩く。あとは集中させておこう。
◇◇◇◇◇
俺はティンファの元へ。
「いやー楽勝です!! あたし最強、優勝、マジ無敵!! あっはっはっは!!」
案の定、調子に乗っていた。
俺はティンファに近づき、頭にポンと手を乗せる。
「こーら、調子に乗るな」
「あ、師匠!! もうどこに行ってたんですか。あたしの無敵っぷりを見てもらいたかったのにぃ。えへへ」
「お前なあ……」
ティンファは胸を張る……子供とは思えないほどデカい、じゃなくて。
「師匠、あたし才能あります? いやー、なんかもう見えちゃって。相手の動きが止まって見えるもんなんですね。ふふん、師匠を超えるのも簡単かも」
メチャクチャ調子乗ってる……このまま強くなったら、負け知らずで、弱者を見下すようになるかもなあ。
まあ、才能あるのは認める。俺を舐めるような言動もまあいい。
「ティンファ。次の相手は強いぞ。気合い入れ直せよ」
「ふふん、あたしは負けないので。では」
ティンファは自信満々だった。
さて、アキト対ティンファ……どうなるか見物ではあるな。




