第72話
第一試合、アキトくんと……相手の名前聞いてなかった。
スキンヘッドにデカい大槌を持っるから『槌士』かな。
試合開始……お、速いな。
『おーっと、アキト選手速攻!! ブッタマン選手が大槌を振るう前に……』
一閃。
双剣が交差し、ブッタマンの両腕に打撃……槌が弾き飛ばされ、両腕が使えなくなり、そのまま腕を押さえてしゃがみ込む。
アキトくんは双剣の切っ先をブッタマンへ。
ブッタマンは「参った」と言い、アキトくんの勝利となった。
カムドは言う。
「うまいな」
「ああ。自分の強みを理解してる」
使うまでもなかったのかもしれないけど、スキルを使わなかったな。
双剣スキル、『クロスパーダ』なら、一瞬で双剣を交差して両腕を斬りつけるくらいできると思ったけど。
うーん……もしかしたら、かもだけど。
「お? おおお、ティンファだぞショコラ!!」
「ええ、見えてる見えてる。ティンファ、頑張りなさーい!!」
と、ティンファの番だ。
ティンファは、切っ先にゴムみたいなのを巻いた槍を手に、堂々と来た。
『今大会初出場、ティンファ選手です!! 十六歳、パン屋の看板娘であった彼女ですが、なんと『槍聖』のレジェンドジョブ所持者であることがわかり、冒険者へと転身、鍛錬を初めて日は浅いですが、どこまでやれるのか期待です!!』
なかなかいい紹介だ。解説、わかってるね。
相手は……お、片手剣か。
『それでは、試合開始!!』
「っしゃ!!」
ティンファは槍を構え、様子をうかがう……ちゃんと教えを守ってるな。
「闇雲に攻めるんじゃなく、相手の出方を伺うのも戦術の一つって教えたけど、ちゃんと見てるな」
「あ、見て」
ショコラが言うと、ティンファは切っ先を動かし翻弄する。これも教えの一つである『フェイント』だ。
相手の剣士は、ティンファより少し年上だ。切っ先に思わず反応し、剣が僅かに持ち上がった瞬間だった。
「スキル、『エアスピア』」
高速の突き。
槍の切っ先が、相手の剣士の額当てに命中。額当てが割れ、血が少し出た。
ティンファは槍を突きつけたまま動かない。相手の剣士はティンファの真っすぐな眼を見て剣を落とし、負けを宣言。
「まあ、あの程度なら負けはしないだろ」
「よっしゃああああ!! ショコラ、うちの子が勝った、勝ったぞ!!」
「ええ、ええ!! ティンファー!!」
親バカたちは聞いていなかった。
さて、ティンファは心配しなくても大丈夫かな。
「悪い、ちょいトイレ」
俺は席を立ち、トイレへ向かうのだった。
◇◇◇◇◇
さて、トイレを済ませて向かったのはカムドたちのいる席……ではなく。
「や、こんにちは」
「え? あ、はい。どうも」
選手控室ではなく、控室から少し離れた休憩スポットである広場。
ベンチなどが並び、吹き抜けになっているので日の光も眩しくて心地いい。
試合の真っ最中なので、誰もいない……この子を除いて。
「アキトくん、だったかな」
「……はい」
まあ、警戒するよな。
俺は笑顔を向け、軽い感じでアキトくんのいるベンチに座る。隣ではなく、二人分くらい間を空けて座った。
「いい試合だったけど、少し気になってな。なぜ『クロスパーダ』を使わなかったんだ? 相手の大槌を振らせる前に終わらせる戦法は正しいけど、確実性を狙うならスキルを発動させるべきだった……その理由が気になってな。まさか、師匠の指示か?」
アキトくんは驚いているようだったが、まだ警戒しつつ首を振る。
「師はいません。スキルも……まだ初期スキルが一つしか使えません」
「何? 一つ? ていうかキミ、去年も参加したんだろ? 一年あって、しかもレジェンドジョブ所持者、指導者なんていくらでもいるだろ」
「……最初はいましたけど、もういません」
どういうこっちゃ。
まだ警戒してるし、名乗っておく。
「ああ、俺はアルノー。さっき試合したティンファの指導をしてる」
「……アキトです」
「よろしくな。で……差し支えなければ理由、聞いていいか?」
「…………別に、大したことじゃありません」
アキトは母子家庭で、病気がちな母親を助けるため、子供のころから働いているそうだ。で、母親が動けなくなり、なんとか助けるために一攫千金を夢見て、冒険者となるべくジョブを調べたところ、レジェンドジョブの『双剣聖』だったことが判明した。
「嬉しかったです。レジェンドジョブなら、鍛えれば強くなれる。でも……母の看病をしながら、冒険者で稼ぐのは厳しくて……何日も家を空けられないし、治療士を呼ぶにもお金がかかるし」
「……ふむ」
「それで去年、ろくに訓練もしてなかったけど、大会に出たんです。もちろん初戦敗退……ただ怪我をしただけでした。それで、ぼくがレジェンドジョブ持ちだとわかって、指導してくれる人が何人か来てくれたんですけど……」
「指導料金か」
「……はい」
やっぱそうか。
いるのだ。世の中には……『教えてやる代わりに金よこせ』という冒険者が。
間違ってはいない。教えに対し対価をもらうのは当然。俺だってカムドやショコラから報酬をもらってティンファを指導している。もちろん適正価格でだ。
でも……世の中にはいるのだ。
「ぼくの指導をするって言った冒険者はみんな、高いお金を払えば指導してくれるって人ばかりでした。なんでそんな人ばかりなのか……理由はわかりません」
「簡単だ。お前に活躍して欲しくないからだよ」
「へ?」
俺が即答すると、アキトはポカンとしていた。
子供だしな……まだこういうことはわからないか。
「世の中にはいるんだよ。ずっと下だと思っていた子供が、いつの間にか駆け足で自分を追い越して、遥か高みに行ってしまう……そういうのが我慢できない大人ってのが。運悪く、お前の指導を願い出た大人は、そんな連中ばかりだったんだろう」
「……そ、そんな」
「覚えておけ。自分の限界を知って、成長が望めなくなった冒険者は大抵、過去の栄光をひけらかして未来への意欲を失ってる。そういう冒険者は、若いやつの足を引っ張るんだよ。最悪のなのは、そういうことでストレス解消とかするクズだな」
「…………」
「この一年、自己鍛錬だけか?」
「え、あ、はい……家の庭で、素振りとか筋トレとか。冒険者活動は日帰りできる、下水道のネズミ退治とかで」
いつしか、アキトがレジェンドジョブだってことも忘れられ、一年間ずっとF級で過ごし、今に至る……ってわけか。
「母親はどうしてる?」
「寝たきりです。元気な日もあるんですけど、咳が止まらなくて……薬も、毎日は買えないので三日に一度だけ」
「ふむ……」
今、俺が所持してるジョブは剣士、刀聖、魔法士、細工師、鍛冶師、連装士、料理人、魔剣士、軽業士……回復が使えるのは魔法士だ。
でも、治療士と違って魔法士の回復魔法は初期スキルだけしか使えない。
怪我を治す『ヒール』と、病気を治す『キュア』は使える。
「初期スキルの『キュア』を使える知り合いならいるけど、紹介するか?」
「えっ」
「完治とまではいかないが……病気の元を叩いて、薬で治療すれば治る可能性はある」
初期スキル『キュア』……実はこれ、『全ての病気にダメージを与える』効果があるのだ。『キュアポイズン』とか『キュアパラライズ』みたいに特化した状態異常に的確な効果を与えるのではなく、全ての病気、状態異常など平等に治療できる。
だが、治療効果は低い。そりゃもうかなり。
でも……俺の『魔法士』はレベルカンストしてるし、ただの『キュア』でもけっこう効果はあるはずだ。
それに、ちょっとした薬もあるし。
「で、でも……お金」
「金の代わりに、お前に頼みがある」
「え……?」
「俺の教え子、ティンファを倒してくれ」
「……はい?」
意味不明だよな。まあ、当然だろう。
「あの子には『敗北』が必要なんだ。そのために、お前が抱えてる事情を解決する」
たぶん、普通に戦ってもアキトが勝つ。でも……精神的な不安は消しておきたい。
「いきなりこんなこと言い出す怪しいオッサンの言葉だ。警戒する気持ちはわかる……信じてくれとしか言えん」
最悪、断られたらそこまでだ。現状でもアキトはティンファにたぶん勝てるだろうし、アキトの母親についても手出しはしない。
だが、信じてくれるなら手を貸す。
「非殺傷部門の試合は今日中に終わる。もし信じてくれるなら、今日中に問題を解決する。知り合いに連絡して、お前の家に治療に向かわせる」
「…………」
「お前の憂いを解決して、お前は迷うことなくティンファと戦える。どうする」
「……わかりました」
アキトは荷物から紙を取り出し、サラサラと地図を描いて渡す。
「ここがぼくの家です。赤い屋根で、玄関前に木剣が二本立てかけてあります」
「なんだ、けっこう近いな……往復でも三十分くらいか。よし、じゃあさっそく連絡して治療してもらう」
俺は立ち上がり、そのまま知り合いに連絡……ではなく、アキトの家へ向かおうとした。
「あの、どうして……そのティンファという教え子をぼくに倒させるために、そこまで」
「まあ、こっちも依頼を受けてティンファの指導をしてるんだ。報酬をもらっている以上、ベストを尽くすのは当然だろ。お前の悩み解決も、依頼のウチってわけだ」
「……あはは」
アキトは笑ったので、俺は軽く手を振る。
そして言う。
「ああ。もし、まだ大人が信じられるなら……俺がこの国に滞在している間なら、ティンファと一緒に指導してもいいぞ」
「……」
答えは聞かず、俺はアキトの家へ向かうのだった。




