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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第三章

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第70話

さて、パンを槍先に載せての移動、配達、子供たちの追いかけっこを初めて数日。

 ぶっちゃけ大した成長はしていなかった。


「ううう……師匠、あの、なんで今日はコレを?」


 俺はティンファに箒を渡す。


「硬いは槍に似てなくもないだろ? さ、今日はこれで練習だ」

「うー……」


 不満があるのか、俺をジト目で見ている。

 そりゃそうか……どの訓練も普通じゃないし、ティンファのイメージする『修行』とは違うのか、最初はあったやる気が今は微妙。

 箒で素振りをするが、どうも気分がノッてない。


「はあ……」

「思った修行と違うからやる気出ない、って感じか」

「…………まあ」


 ティンファは小さく頷く……まあ、気持ちはわかる。

 でも、今大事なことは違うのだ。


「大事なのは、『力に慣れること』だ。ジョブの力を纏ったまま、柔らかいパンを無意識に潰さないくらい、力をコントロールしないといけない。槍先でパンを運ぶのも、配達も力のコントロール。子供たちとの追っかけっこは状況判断を鍛える。まずは、俺の出した課題をこなしてみせろ」

「はぁい」

「……まーだ納得できないか?」

「……」


 まあ、気持ちはわかる。

 子供だしな……魔獣と戦ったり、槍を振り回してスキルを覚えたりと、もっとキラキラした青春映画みたいな訓練を予想していたはずだ。

 でも……これをクリアしたら、あっと驚くような修行が待っている。


「さ、訓練開始」

「はーい」


 箒を振り回した後、今度は訓練用の槍を持って廃屋へ。

 カムドに「この辺で廃屋ないか?」と聞いたら、近くの路地裏にちょうどいい家があった。

 そこに入ると、ティンファは嫌そうな顔をする。


「うえ、ホコリっぽいです」

「まあ仕方ない。さて……ここでいいか」

「???」


 リビングには、古いテーブルや椅子などの家具があり、他にもいろんな家具があった。

 けっこう狭い……うん、これでいい。


「あの、ここで何を?」

「この部屋のモノに触れず、ひたすら槍を振るう訓練だ。いいか、周りの家具に一切槍をぶつけるな」

「え」


 埃の被った花瓶、ボロボロのカーテン、倒れた椅子や机、タンス、色褪せた絵画……部屋にはいろいろなモノがある。

 あえて、長い槍を渡す。振るうとどこかにぶつかりそうだ。


「ゆっくりでいい。周りをよく見て、ひたすら槍を振るうんだ」

「む、難しい……」

「それがいい。さ、はじめ」


 俺は距離を取り、ティンファがキョロキョロしながら槍を振るう。

 柄尻が花瓶に触れそうになったり、切っ先がカーテンを裂きそうになる。


「ほれほれ、周りをよく見て。もっと速く!!」

「ううう……」


 ティンファは、キョロキョロしながらゆっくりと槍を振るうのだった。


 ◇◇◇◇◇


 その日の夜。俺はカムドと二人で飲み屋にいた。


「で。うちの娘どうだ?」

「まあ、普通のやり方なら強くなるな」

「はあ? 普通って?」


 焼き鳥を食いながら、俺は串をカムドに向ける。


「身体鍛えて、スキル覚えて、魔獣と戦えばまあ強くなるだろうさ。でも、それだと真っすぐな、視野の狭い冒険者に成長しちまう。だからあえて、普通じゃない、視野を広くするような訓練をしてる」

「聞いた感じだと、近所の子と鬼ごっことかだっけか? 配達と、槍の切っ先にパン載せて歩かせるとか。今日は廃屋で槍振り回したんだっけか」

「ああ。繊細さを身に付けさせようと思ってな。ファルカの時もそうだった」


 ファルカは豪快で力任せなところがあった。ぶっちゃけ今もそうだが……それでも、俺の訓練のおかげで、視野を広げて自由な戦いをはできるようになった……はず。

 もし、俺の訓練がなかったら、猪突猛進が酷い状態で戦ってただろうな。


「まあ、思ってた訓練と全く違うだろうから不満は出てるな」

「おいおい……大丈夫なのか?」

「ああ。次の策はある」


 と、俺はポケットから折りたたんだチラシを出す。

 カムドはそれを怪訝そうな顔で広げ、目を見開いて俺を見て、またチラシを見た。


「……おい、どういうこった」

「てわけで、お前の許可が欲しい」

「おいおいおいおいおい、おま、何考えて」

「まあ、ここらで不満解消してもらおうと思ってな」

「……マジでどういうつもりなんだよ」


 俺はカムドから『許可』を取り、改めて乾杯するのだった。


 ◇◇◇◇◇


 翌日。

 子供たちとの追いかけっこで、ティンファは子供三人を捕まえた。だが、残り七人は連携してティンファを翻弄し、捕まえることができなかった。

 悔しがるティンファ。そのあとは槍を持たせてパンの出前へ。

 三個は配達できたが、制限時間を気にしすぎて抱えたパンを潰してしまった。

 切っ先にパンを乗せての移動も、多少は進めるようになったが落としてしまった。

 廃屋での槍を振るう練習は、花瓶を一つ倒してしまったが、なかなかの速さで槍を振り回せるようになった。

 そして、訓練を終えた夕方、パン屋の前で。


「お疲れ。今日はここまで」

「はぁい……ふいい、疲れた」

「さてティンファ。ここ十日ほど、お前はこの訓練をしてきたが……何か変わったことはあるか?」

「変わったこと……うーん、ちょっとは慣れてきました」

「まあ、確かにな。一か月も続ければ、ある程度はこなせるようになるだろ」

「うー、もっと新しい訓練したいですー」

「そう言うと思ったよ。てわけで……はいこれ」

「へ?」


 俺は、小さなバッジをティンファに渡す。

 それを受け取り、ティンファは首をかしげていた。


「なんですか、これ」

「ああ。闘技大会の参加バッチだ」

「…………へ?」


 ティンファはポカンとして、口を開けたまま俺を見ていた。


「というわけで、ティンファ。お前は今度開催される、タクニキ王国闘技大会に参加するぞ」

「………」

「参加部門は未成年の部。剣や槍の刀身に専用のカバーを巻いての戦いだ。それと『治療士』のジョブ持ちが待機してるから怪我しても問題ない」

「………」

「大会は三日後。それまでは、これまでの基礎訓練を続けて、最終日だけ軽く実戦形式で俺と戦うぞ」

「………」

「おーい、大丈夫か? 聞いてるか?」

「……えと、冗談、じゃ」

「マジだ。ていうわけで、今日はここまで。さ、ショコラが晩飯作って待ってるぞ。また明日な」


 俺は軽く手を振って、その場から離れた。

 すると、パン屋に飛び込んだティンファが。


「おとーさん、おかーさん!! あたし闘技大会に出ることになった!!」

「ああ、知ってる。てか許可出したのオレだしな」

「ふふ、アルノーの考えはわからないけど……いい経験になるわね」


 まあ、ちゃんと理由はあるんだけどな。

 さて、トーニャが晩飯用意してるし、さっさと帰って晩飯食うか。

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