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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第三章

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第69話

 翌日、野営の片付けを終え、王都に戻って来た。


「あの師匠……なぜに王都? 槍の特訓は……?」

「王都でやる。さて、お前の家に行くぞ」

「はい? え……家?」


 困惑のティンファ。

 俺はそれ以上言わず、ティンファの家こと『パンの店ショコラ』へ。

 店に入ると、ティンファの姐であるフェニアが「いらっしゃいませー……あら?」と驚きつつも出迎えてくれた。

 そして、カムドとショコラもやって来る。


「おうアルノー、なんだ、用事か?」

「ああ。ちょっと聞きたいんだが……」


 俺は、フェニアがティンファと喋っている間に、カムドとショコラに『これからやる修行』の協力をお願いする。

 内容を聞いて、二人は「なるほどな」と頷き、協力をしてくれた。

 俺はティンファを呼ぶ。


「さて、次の訓練は……まずこれ」


 俺は短槍よりもさらに短い、暗器に近い短槍をティンファへ持たせる。


「みじかっ……」

「ジョブは使えるか?」

「あ、はい。ちゃんとパワーアップしてます!!」

「よし。じゃあこれ」


 と、俺が渡したのは包んだパン。

 バスケットに入っているわけじゃない。ラッピングした柔らかなコッペパンが十個ほど。

 ティンファに一つ渡すと、勢い余って握り潰してしまった。


「あわわ、やっちゃった」

「売り物を潰しちゃダメだぞ。はいこれ、まずは十個」

「え???」


 槍を持ったまま、両手でパンを十個抱えるティンファ。

 そして、カムドが地図を見せる。


「いいか、これから十分以内に、十軒のお宅にそのパンを配れ。全て配ってここに戻って来るまで十分だぞ」

「え……」

「地図の家、お前ならわかるか?」

「えと……はい。全部行ったことある家ですけど、普通に走って戻っても三十分は……」

「でも、今のお前はジョブの力で身体強化されてる。十分で戻ることはたぶんできる……ただし、パンは潰さずだ」

「え、それだけですか?」

「ああ。じゃあ、よーい……行ってらっしゃい」

「はい!!」


 ティンファは、ダッシュで店を出て行った。

 ショコラは言う。


「ねえ、大丈夫なの?」

「まあ、行って戻るくらいはできるだろ。でも……繊細な力加減ができないようだし、パンを潰さずにとなるとわからん。この訓練で体力と、視野の広さと、力加減を学ばせる。ルートの制限や配達先を増やしたりするつもりだ」

「なるほどね……あの子、豪快だから」

「つーか、もうちょい女の子だってこと自覚させろよ……あいつ、全裸で俺の前に出て来て普通に身体を拭きだしたぞ」

「……はあ。あの子、羞恥心が薄くてね」


 すると、いつの間にか店の奥に行ってたカムドが、大きな番重を手に戻って来た。


「おいアルノー、お前の考えた試作のパン、食ってみないか?」

「お? なんだ、もう作ったのか」

「ああ。東方の食材とか、揃えるの面倒だったがな」


 俺が教えたのは焼きそばパン、コロッケパン、揚げパン、そしてハンバーガーだ。

 見た目は完璧。味は……ん、ちょっと薄味だし、焼きそばはソースじゃなくて塩味、コロッケもやや薄味だがいける。


「いいじゃん。これ、今度から昼飯として修行前に持っていきたいぜ」

「いくらでも作ってやるぜ。オレぁ特にこのハンバーガーってのがいいな。これ、パンにはさむ具材はもっと自由にしていいんだろ?」

「ああ。まずはオーソドックスなハンバーガーにして、月に一度とか具材を変えて売り込んだら面白いぞ。焼き魚挟んだり、肉の種類変えたりとか」

「ほほー、そりゃ面白そうだ……そのアイデア、ずっと使っていいか?」

「好きにしろよ。俺もうまいパンが食えるの嬉しいからな」


 そんな話をしていると、しょんぼりしたティンファが戻って来た。

 手には潰れたパン……やっぱそうなったか。


「うう、急ごうとして、気付いたら抱えてたパンを潰しちゃって。それに、いつの間にか何個か落としちゃって、ネコに咥えて持っていかれちゃって……」


 結局、一軒も配達できなかったようだ。

 俺はティンファの頭を撫でながら言う。


「さて、俺はこの特訓で、お前の何を鍛えようとしているかわかるか?」

「……力の使い方とか、体力とか?」

「正解。まず、急ぎつつも力まず、抱えたパンを潰さないチカラのコントロール。そして十分以内に戻るスピードに体力、ヒトにぶつからないように走る注意力、それとひらめきだ」

「……ひらめき?」

「ああ。俺はパンを届けろと言っただけ。道を走るのはいいけど、屋根を伝って危険を回避したり、近道してダメとは言ってないぞ」

「あ」


 ティンファは気付いたのか、口を開けてポカンとしていた。

 カムド、ショコラ、フェニアは何も言わずに見守っている。


「というわけで、まずは確実にパンの配達ができるようにならないとな」

「ううう……」


 しょんぼりするティンファ。

 まあ、訓練は始まったばかり。まだまだ覚えることはいっぱいある。


 ◇◇◇◇◇


 午後。

 俺は近くで遊んでいた子供たち数人に声をかける。

 

「なあ、お駄賃あげるから手を貸してくれないか?」

「なになに、おっちゃん、お駄賃ってまじ?」

「マジマジ。友達を十人くらい連れて、パン屋の前に集まってくれ」

「いいぜー」


 と、男の子が近くで遊んでいた子供たちを集め、パン屋の前へ整列した。

 そして、ティンファが店から出てくる。


「あれ、キールたちじゃん。師匠、この子たちどうしたんですか?」

「ふふん、修行に付き合ってもらうのさ」

「え……?」


 俺は子供たちに、露店で買った小さなガラス球を一個ずつ渡す。


「さあみんな、これから鬼ごっこをしよう。そのガラス玉をティンファお姉ちゃんが奪いに行くから、みんなは逃げるなり、隠れるなりして守ってくれ。場所はこの区画全体。終わったらみんなにお店のパンと、お駄賃を渡すぞー」

「「「「「「「「「「やったー!!」」」」」」」」」」」


 子供たちは一目散に駆け出し、あっという間にいなくなった。

 ポカンとしているティンファ。


「というわけで、鬼ごっこだ。槍は持たず、お前の身体能力だけで子供たちを全員捕まるように」

「これ、槍と関係ないんじゃ……」

「あるぞ。見ろ」


 すると、子供の一人がこっちを長髪するようにニヤニヤし、自分のお尻をぺんぺんする。


「やーいティンファお姉ちゃんのデカパイ!! 捕まえてみろー!!」

「むっかああああ!! デカくないし!!」

「へへーん、フェニア姉ちゃんが『あの子、また胸大きくなったのか下着が……』ってボヤいてるの聞いちゃったもんねー!! 逃げろー!!」

「待てええええええええええええ!!」


 子供は一目散に一逃げ出す。ティンファが追い、襟首を捕まえようとしたが……別な方向から来た男の子がティンファのお尻をペシッと叩く。


「うわひゃっ!?」

「「逃げろー!!」」


 子供たちは分かれ、別の道を行く。

 他にもまだ八人いる。俺はティンファの背中に声をかける。


「子供ってのは、不規則な動きで翻弄する。鬼ごっこで、しかもお駄賃があるとなると本気で逃げるぞ。いいか、動きをよく見て、協力する子供たちの動きに惑わされず、全員を捕まえるんだ」

「くっそー!! 待てー!!」


 聞いてるのかな……まあ、見守るか。

 ていうかあいつ、まだ胸が成長中なのか……将来は巨乳確定かな。


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