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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第三章

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第68話

 さて、最初に行う訓練は。


「まず、短槍を持て」

「はい!!」


 ジョブに適した武器を持つと、身体能力が底上げされる。

 通常なら力が漲る程度だが……レジェンドジョブ、さらにジョブエクステンダーとなるとその底上げは普通の倍以上だ。これが力を持て余し、武器を振るうだけで周囲に被害を出してしまう原因でもある。

 現に、ティンファは力が漲っていた。


「槍の切っ先を向けろ」

「あ、はい。って……何を?」


 俺は、短槍の切っ先に布を結ぶ。

 そして、槍を立てた状態で持たせ、切っ先にコッペパンを乗せた。


「わわ、なな、なんですかこれ……わっ」


 コッペパンが落ちたので、俺は地面に落ちる前に掴む。


「いいか、このパンを槍の切っ先に載せたまま歩け。距離は……最初だし、五十メートル」

「え……」

「落としたらやり直し。走るのはダメ。とにかく、バランスを大事にな」

「えええええ? そんな」

「いくぞ。じゃあ開始」


 パンを乗せ、ティンファはゆっくり歩き出す。

 だが、五メートルと進まないうちに落としてしまう。ちなみにこのパン、軽石みたいな保存用のパンなので、落としても砂を払えば問題ない。カムドに頼んで作ってもらったパンだ。

 

「師匠、これ何の意味が」

「バランス力を鍛える訓練だな。ただ力を振るうんじゃなくて、無駄な力を抜いて、まっすぐ、力を均一にする訓練だ」


 ティンファから槍を受け取り、俺はパンを乗せて歩き出す。途中でパンを切っ先の上でお手玉したり、クルクルと回転させて遊んだりしながら、五十メートルを往復した。


「と、こんな感じ。俺は槍士のジョブじゃないから簡単だけど、お前の場合はジョブの恩恵で力が漲ってるから、無駄な動きをすると槍が反応してパンが落ちる。その無駄な動きを抑制するための訓練だ」

「……な、なるほど」

「はい、五十メートル。できたら次はお手玉したり、回転させたり、ダッシュしながらとか難易度上げていくぞー」

「くううううう、やります!!」


 ティンファは、十メートルも進むことができなかった。


 ◇◇◇◇◇


 その日の夜。

 野営の準備を教えつつ、夕食にすることにした。


「そうそう。竈はそうやって組むんだ。空気の通り道を作る。んで、薪は乾燥した木がベストだ」

「そうなんですか?」

「ああ。水分を含んだ木は煙がすごい。だから、落ちてる太い枝とかをメインに。どうしても薪が足りない場合は、木を切って火の傍に置いて乾燥させる」

「ふむふむ、なるほど……」


 今日のメニューは、町で買った野菜を使ったスープに、カムドからもらったパンだ。


「町が近い場合は、こうやって生の食材とか使えるけど……基本的には保存食だな。乾燥させた野菜を水で煮込んで、調味料で味付けするだけでも違う。いいか、食材は大事だけど、調味料の小瓶は常に常備しておけ。生の肉を焼くより、塩で味付けしたほうが食欲も増す」

「なるほど。調味料……」


 パンを軽く焼いて切れ込みを入れ、そこに焼いた肉、野菜、チーズなどを挟んで渡す。そう……ハンバーガーである。

 まあ、材料も足りないのでちゃんとしたハンバーガーとは言えないけどね。


「ん、おいしい!!」

「いっぱい食え。で……どうだった、今日の訓練」

「……難しいです。槍って、振り回してスキルを使うだけじゃないんですね」

「そりゃそうさ。チームを組むって決めたなら、連携も大事になる。その前にまず、お前は槍の基本だな。というか……」


 確認したところ、すでに初期スキルを四つも覚えていた。

 普通、スキルの習得は師にスキルの型を教えてもらい、摸倣を繰り返して感覚を掴むと習得できる。それを、自己流で四つも覚えるとは。

 こいつはファルカと同じ、感覚タイプだな……けっこう苦労しそうだ。

 俺はスキットルに入れたウイスキーを一口だけ飲む。


「野営は基本、交代で見張りをする。一人の場合だと、地面に穴を掘って隠れて寝るとか、周囲にトラップを仕掛けて木の上で寝るとかあるが……今日は疲れただろうし、俺が見張る。メシ食って水浴びでもしたら寝ていいぞ」

「はーい……」


 食後、ティンファは川沿いへ。

 俺は焚火の前でチーズをあぶる。


「…………はあ」


 ティンファに話したせいで、少し昔を思い出してしまった。

 かつて、同期の友人で『職業適応者(ジョブエクステンダー)』がいた。

 俺、グレース、カムドとショコラの五人で訓練したり、馬鹿やって怒られたりもした。

 でも……五人目の男、名前はヴィクトール。こいつは冒険者でありながら、犯罪組織に身を置いて、いつしかトップに君臨していた。

 二十代の半ばごろ……その組織の討伐に俺はグレースと参加した。

 そして、力に溺れたヴィクトールを、俺は殺した。


「……人前でジョブチェンジを駆使して戦ったの、あれが最初で最後かな」


 ヴィクトールは、強かった。

 一対一……組織のアジトにいた雑魚はグレースが全て倒し、俺は一人でヴィクトールと戦った。そして……勝利した。

 

『なあ、アルノー……オレは間違えてないよな?』

『バッカ野郎が……!!』

『オマエが殺してくれて、よかった』


 間違えていた。

 力に溺れ、悪に染まったヴィクトール。

 盗賊や夜盗を殺したことはある。でも……友人を殺したのは、それが最初で最後だった。


「力に溺れる、か」


 俺は、この世界では普通じゃない。『自由人(フリーマン)』という唯一無二のジョブを持つ異世界転生者だ。

 力に溺れ、悪に染まらなかったのは……たぶん、たまたまだろう。

 だから、ティンファはしっかり導く。ヴィクトールと同じ『職業適応者(ジョブエクステンダー)』を、正しき道へ。


「タオル―!! 師匠、あたしのタオルっ!!」

「…………」


 いきなり、目の前に全裸のティンファが現れた。

 いや、デカいな……ガキっぽいくせに、身体は立派というか。じゃない。


「いやおま、裸」

「あ、ごめんなさい。タオル忘れちゃって」


 裸を見られても気にしていないのか、俺の前で頭を拭く。そしてパンツを履き、上半身裸のままテントに入った。


「じゃあ寝ます!! 師匠、明日もお願いします!!」

「…………はああ」


 羞恥心が薄いとは思ったが……カムドにショコラ、どういう教育してるんだ。

 とにかく、教えることはまだまだありそう。そんな風に俺は思うのだった。


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