第67話
翌日。
宿屋から出た俺は、玄関でティンファが待っているのに驚いた。
「おはよーございます!! 師匠、今日もいい天気!!」
「声デカい声デカい。お前、ほんとファルカとそっくりだな……」
「ファルカ?」
「ああもういいや。さて、今日から訓練開始だ。まずは外へ行くぞ」
「外……王都郊外ですね!!」
「ああ。カムドに、いい感じの野営場所も聞いた。食材買って、今日はキャンプだ」
「はい!!」
町で食材を買い、さっそく王都の外へ出た。
ティンファは、デカいリュックを背負い、重さを感じさせないようなステップでスキップする……マジで元気な子供だ。
「おとーさんに野営場所聞いたんですよね」
「ああ。あいつ、けっこうこの辺に詳しいからな」
到着したのは、綺麗な川の傍にある小さな林。
周囲は開けており、見晴らしもいいから魔獣が接近してもすぐわかる。
「よし、荷物を置け。さっそくお前の『槍』を見せてもらおう」
「よっしゃ!!」
よっしゃ、って……女の子なのに。まあいいか。
ティンファは、俺が渡した練習用の長槍を手に、器用にクルクル回転させる。
そして、回転させた槍が近くの木に触れた瞬間、木の幹が大きく抉れた。
「おっしゃああああああ!! てやあああああ!!」
豪快な突き。これは……槍士の初期スキル『紫電突き』だ。
木が吹き飛び、さらに雷が落ちて燃え尽きた……うーん。
「ほいせえええええええええ!!」
なんつう掛け声……地面に槍を差すと、大地が陥没する。これは初期スキル『グランブレイク』だな。うーん……やっぱ間違いないな。
「っしゃああ!! あたし、絶好調!!」
「はいそこまで」
「あ」
俺は槍を取り上げる。
「師匠。どうでした? あたし最強ですよね!!」
「うん、ダメだな」
「え」
俺は槍を構え、軽く突く。
槍を回転させて連続で突き、棒術のように柄尻で突く。そして回転させて周囲の葉っぱを巻き上げ、浮かんだ葉っぱを全て突いた。
槍の切っ先には、刺した葉っぱが全て刺さってる。
「と、こんな感じ。どうだ?」
「えーと、師匠って槍スキル使えるんですか?」
「そうじゃない。これは、槍の基礎。ジョブがなくてもこれくらいはできる。いいか……ティンファ。お前は動きが雑で、力が大きすぎる」
「え、いいことじゃ」
「ダメ。お前、周りを全然見ていない。さてここで質問……もし、魔獣が複数出てピンチになったらお前はどうする?」
「……大技で吹っ飛ばす」
「正解でもあり、不正解でもある」
俺は槍を地面に突き刺し、ティンファをまっすぐ見た。
「さて、以前もした質問だが……冒険者にとって必要なものって何だ?」
「え……礼儀」
「そう。その礼儀は誰に向けるものだ?」
「依頼人?」
「ここまでは以前やったな。さて、その礼儀を向けるのは依頼人だけか?」
「……えと」
ティンファは考える。
この先は、冒険者にとってもっと大事な……今後、冒険者をやるなら避けて通れないものだ。ティンファはそれに気付けるか。
ティンファはしばらく考え、ハッとなる。
「冒険者の礼儀、冒険者にも……あ、もしかして、仲間」
「正解。ティンファ、お前は一人で冒険者になるつもりか? お前の思う冒険者の像に、仲間は映っているか?」
「…………」
自分が強くなることばかりで、仲間の存在を忘れていたようだ。
「カムド、ショコラも……ついでに俺も、かつては仲間だった。もちろん、強くなりたいって願いはあった。でも、その強さは『仲間と共に』発揮する強さだった」
「仲間……」
「そうだ。チームでの連携や、それぞれの役割を決めて、それに必要なスキルを磨く。ティンファ……お前の目指す冒険者に、仲間の存在はいるか? いないならそれでいい。一人で生き抜く強さを手に入れるだけだ。でも、もし一人じゃなく、仲間と共に強くなりたいなら、ただがむしゃらに力を振り回すだけじゃダメだ」
槍は、攻撃範囲が広い。
仲間が近くにいるなら大技を繰り出すのは厳しい。『剣士』や『拳士』と組んだら、その位置も考えて技を出さなきゃいけない。
ティンファは考え、俺を見る。
「一人じゃないです。あたし……仲間、欲しいです」
「よし。だったら、お前に必要なのは基礎と、視野、それと力の制御だ」
「……力の制御?」
「ああ」
というか、驚きしかない。
そもそも、初期スキルでこんな、地面にクレーターを作ったり、木を吹き飛ばすなんて無理。スキルのレベルだってまだ1のはず……この威力、スキルレベル6以上はある。
中堅冒険者の上位レベルの威力を、訓練開始したばかりの子供が放っている。
「かつて、ファルカっていう教え子がいたんだが……お前と同じだった。ジョブと身体の相性が良すぎて、スキルの威力がレベルを超えた威力になってる」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。覚えておけ、お前やファルカみたいにジョブと身体の相性が良すぎる人間のことを『職業適応者』って言うんだ。これは、数万人に一人いるかいないかの特殊なケース。世界で見ても、たぶん五十人といない」
「おおお!! あたし、すごいんだ!!」
「ああすごい。鍛えれば鍛えるほど、お前は強くなる。通常のスキルレベルの限界地は10だけど、ジョブエクステンダーの場合はその数値を遥かに超える。初期スキルだけで上級スキルを超える威力を持つ」
「わあああああ……」
「だからこそ、力の使い方を間違えれば……大事故になる」
俺は、少しだけ昔を思い出した。
◇◇◇◇◇
『なあ、アルノー……オレは間違えてないよな?』
『バッカ野郎が……!!』
『オマエが殺してくれて、よかった』
◇◇◇◇◇
「師匠?」
「ん、ああ……すまん」
かつて、力に溺れた『職業適応者』がいた。
俺はそいつを殺した。もう、十年も前の話であり……思い出したくない苦い記憶。
ったく、ヘンなこと思い出しちまった。
「というわけで、お前は大技の前に、基礎、基礎、基礎だ。とにかく基礎を覚える。槍の使い方、身体の動かし方とか、槍を使うのに必要な技能を叩きこむぞ」
「はい!!」
こうして、ティンファの修行を本格的に始めるのだった。




