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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第三章

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第65話

 翌日、宿屋の一階で朝飯を食いながらトーニャと喋っていた。


「じゃあ、今日は晩飯頼む。昼は……そうだな、二人分用意できるか?」

「へ? いいけど、別料金もらうよ?」

「構わない。ここのメシ美味いし、ティンファも気に入るだろ」


 最後は独り言だったが、トーニャは「え、ティンファ?」と驚く。


「なんだ、知り合いか?」

「そりゃウチと取引してるパン屋さんだし。ていうか友達だよ。ああ~、そういうことか。あの子、すごいジョブに選ばれたとか興奮してたけど、おにーさんそれ関係のお仕事?」


 まあ、別に喋ってもいいか……ティンファも普通に喋ってるみたいだし。


「そういうこった。俺、依頼でティンファを指導するために来たんだよ」

「へー、じゃあおにーさんってやっぱりすごい冒険者なんだ。あの子、昔からパン屋の看板娘より冒険者のが好きみたいに言ってたし、よかったかも」

「看板娘ね……」

「あはは。まあ、フィニアお姉ちゃんのが美人だし看板娘っぽいけどね。新婚さんだし、狙ってる男の人いっぱいいたんだよね。でも、カムドおじさんメチャクチャ怖いし強いから、みんな眺めるだけだったけど」

「……まあ確かに。てかあいつ、冒険者時代より強そうなんだよな」


 腕の筋肉の盛り上がりで服が破れるとか、どこの漫画だよ。

 ちなみに、俺のアイデアパンについて飲み会で言ったけど、どこまでやるかな。


「じゃあ、ティンファと二人分のメシ頼むわ」

「はーい。おにーさん、ティンファのことよろしくね」


 トーニャに言われ、俺は軽く手を振って宿を出た。

 ティンファ、いい友達がいるじゃないか。


 ◇◇◇◇◇


 カムドの店に行くと、体格のいい男性が店の掃き掃除をしていた。


「あ、いらっしゃいませ。すみません、すぐ店を開けます」

「あ、いや客じゃなくて。ティンファに用事があって」

「ティンファ? ああ……もしかして、指導の冒険者さんですか?」

「ああ、はい」


 笑顔がステキなイケメン、って感じ。

 たぶんこの人そうだよな。


「あなた、掃除はそこまでに……あら、アルノーさん」

「どうも。えと、フィニアさん」

「おはようございます。ティンファですね。すぐお呼びしますね。と……こちら、私の夫のシキムです」

「はじめまして。シキムと申します。ティンファのご指導、よろしくお願いします」

「は、はい。アルノーです、よろしくお願いします」


 俺よか年下なんだが……この夫婦、メチャクチャ雰囲気いいな。平和な町でパン屋を営む幸せ新婚夫婦って言葉がぴったりだ。

 すると、奥からドタドタと足音……ん、一つじゃないな。


「やばやばやば、師匠来てるのおねーちゃん!!」

「馬鹿、のんきにメシ食ってるからだ。ほら、服ちゃんと着ろ!!」

「ティンファ、だらしない恰好するんじゃありません!! あなた、義妹とはいえ見ちゃダメですよ!!」

「み、見てないよ。義母さん、義父さん、外でアルノーさん待ってるよ」


 うーん、幸せなパン屋の新婚夫婦に、ドタバタ大家族の朝、って感じか。

 店先で待っていると、息を切らしたショコラが出て来た。


「ご、ごめんなさいねアルノー。ちょっと待ってて」

「お前の家、メチャクチャ面白そうだな。もしかしてこの辺の名物一家とか?」

「馬鹿なこと言わないでよ。ティンファ、早く来なさい!!」

「はーい!! おねーちゃん、髪の毛早く!!」

「まったく、自分で結うくらいしなさい」


 それから五分後、ティンファが出て来た。

 シャツにスカート、ロングブーツ、胸当てだ。背中に槍をセットできる店でも売ってる槍専用の防具に、手には滑り止めの付いたグローブ。

 見たところ新品。どうやらカムドが選んで買ったようだ。


「おはようございます師匠!! ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!!」


 うーん、礼儀正しい。ちゃんと頭を下げての挨拶だ。

 俺も「おはよう。今日からよろしくな」と挨拶……挨拶は基本、誰が相手だろうとしっかりやるのが俺流である、なんてね。

 すると、カムドとショコラも出て来た。


「おう、アルノー」

「おっす。昨日の酒は抜けたか?」

「ぬかせ。まだまだ余裕だっての」


 カムドと拳を合わせる。こういう男同士の挨拶も俺は好き。

 ショコラは、手櫛でティンファの髪を梳く。


「いい? 鍛錬も大事だけど、あなたは女の子なんだから。最低限の身だしなみは整えるのよ?」

「はーい」


 母親だなあ……昨日、俺と一気飲み勝負して「だっしゃー!!」と叫んでたやつには見えないな。

 するとショコラが睨んできたので目を反らした。勘のいい奴だ。


「ねえアルノー。お昼はどうするの?」

「ああ、俺の泊ってる宿に二人分頼んできた」

「おいおい、金」

「気にすんな。それよりカムド、俺が提案したオリジナルパンのレシピだけど」

「覚えてるぜ。へへ、今日は試作してみる予定だ。シキムもわくわくしてるぜ」

「できたら俺にも食わせろよ」

「当然、楽しみにしておけ」

「え、なになに。おとーさん、新しいパンって?」

「お前は修行のこと考えてろって」


 カムドはティンファの頭を撫でる。こっちも豪快なパパって感じ。

 するとカムド、ティンファは俺に向き直る。


「改めてアルノー。娘を頼む」

「よろしくお願いします。アルノー」

「ああ、任せておけ」

「おとーさん、おかーさん、行ってくるね!!」


 こうして、ティンファの指導を本格的に始めるのだった。


 ◇◇◇◇◇


 まず、最初にやることは。


「師匠、何するんですか!! 魔獣と戦いますか? スキルの習得ですか?」

「ちゃうちゃう。冷静に考えてみろ」

「???」


 ティンファは首を傾げる……これ、わかってないなマジで。

 

「あのな、俺はお前に何を教えるって言った?」

「えと、槍」

「他には?」

「……礼儀?」

「他には?」

「えと」


 まず一つ目の問題点……ティンファは「考える」ことが苦手。ファルカと同じ猪突猛進タイプ。一つの目標に対し突っ走る情熱はあるんだろうけど、わき目も振らずに走るから視野が狭い。なので、走る速度を緩めつつ、あえて俺が答えを言わず、自分で考えさせるようにする。

 ティンファは腕組みをして考える。


「指導、槍、冒険者……あ、冒険者ですか?」

「そう。冒険者の何を教えるって言った?」

「……ルール。あ、そっか。冒険者のルールを教えてくれるんですね?」

「そのために必要なのは?」

「……勉強道具」

「まあ正解。で、その道具は?」

「筆記用具……?」

「違う」

「……………うぅぅ」


 まあ、これくらいで勘弁してやるか。

 俺は、自分のポケットから一枚のカードを見せる。


「冒険者ライセンス。つまり、これから冒険者ギルドに行って、お前を正式に冒険者登録するぞ」

「あああああ!? そ、そういうことかああああああ!!」

「声デカい」


 やっとわかったのか、ティンファは大袈裟に驚き、そして嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。


「冒険者ライセンス!! ん~うれしい~!! あたしも冒険者~!!」

「落ち着けって。冒険者ライセンスについてわかってることは?」

「えと、冒険者の証ってこと、身分証になること。おとーさん、おかーさんの冒険者ライセンス見たことあります。今も大事にしてますよ」

「まあ、一生モンだしな。一度登録すれば、こっちから申請しない限り永遠に登録される」


 ポケットにライセンスを戻す。

 

「スタートはF級からだ」

「はい!!」


 冒険者ギルドに到着。

 王都タックの冒険者ギルドは初めて来たけど……ポータムより遥かにデカく、マルセリア王国王都マルシェよりやや小さい。

 マルシェと違うのは、こっちの冒険者ギルドは煉瓦積みで長方形。建物というよりは要塞みたいに見える。

 受付カウンターもかなり多い。二十か所くらいあるな。

 いつもは適当なオッサン受付のところに行くが、ティンファに登録をさせるつもりだったので若い女性受付の元へ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。あら? ティンファちゃんじゃない」

「こんにちは!! えへへ、冒険者登録に来ました」

「あらぁ、ついに冒険者ね……そちらの方は?」

「あたしのお師匠様!! すっごい冒険者なんだよ!!」

「おいこらやめろ」


 カウンターに手を付いて跳ねるティンファの頭を軽く押さえる。

 俺は受付嬢に言う。


「聞いての通り、この子の冒険者登録を頼む」

「はい。じゃあティンファちゃん、こっちの書類を書いてね」

「はーい」


 ティンファは、意外にも綺麗な字で書類を書き始める。

 そして、書きながら言う。


「師匠。冒険者カードってその人にしか使えないんですよね。でも、本人だって証明どうするんですか? ただのカードだし、別人になりきるとかできちゃうんじゃ?」


 これまた意外な質問だ。

 受付嬢さんをチラッと見る。その辺の質問は登録するときにするんだが。

 まあ、受付嬢さんも頷いたし、俺が説明するか。


「簡単だ。冒険者カードを作る時に、血を一滴使う。お前の書いてる用紙の下に、丸い囲いがあるだろ?」

「あ、ほんとだ……って、血?」


 受付嬢さんは、小さな針が刺してある台座をティンファの前へ。


「その針に指を刺して、血を一滴用紙に垂らす。そして、専用の『魔道具』に用紙を読み込ませると、専用のカードが出てくるんだ」

「おおおー」


 まあ、指紋や光彩認証みたいなもんだ。一人一人違うからな。

 

「冒険者ライセンスは身分証としてだけじゃなく、銀行カードとしても使えるし便利だぞ。大抵の店にはカードを読み込むための魔道具が置いてあるからな」


 そう、この世界……カード決済ができるのだ。

 あまり細かく脳内描写していないが、『魔道具』という魔法と機械を合わせたような便利道具が普通にある。俺はけっこう現金主義なところあるからあまり使ってないけど。

 ちなみに、この世界の通貨は金銀銅鉄の貨幣、そして紙幣だ。これも魔道具処理されているので偽造は不可能。

 当然、偽造は重罪。どっかの貴族がニセ札作って一族全員処刑とか昔あったみたいだ。

 そんな風に脳内解説していると、カードがカウンターへ。


「はい、これがティンファちゃんの冒険者カードね。そちらのお師匠様が言ったように、銀行カードとしても使えるわ。でも、銀行に口座登録しないと使えないから、使うなら銀行に登録をしてね」

「はい!! やったー!!」

「それと一番大事なこと。冒険者カードは失くしたら再発行できないの。絶対になくさないようにね」

「は、はい……え、師匠、どうすれば」

「服に専用のポケットを付けるとか、道具屋で冒険者カード用のケースとかも売ってるぞ。まあ、ショコラに専用ポケット縫ってもらえ。ちなみに、失くしたら再発行できないけど、破損とかした場合、ギルドで修復もできるぞ」

「なるほど……」

「さて、冒険者カードを手に入れたし、次は銀行に行って口座を作るぞ」

「はい!! 口座作って、入金、って……どういう仕組みなんですか?」

「その辺も詳しく説明する。わからないことは何でも聞けよ」

「はい!!」


 こうして、この日は冒険者に必要な手続きを解説付きでするのだった。

 俺も脳内描写してないけど、けっこう細かい手続きとかあるんだよな……正直、かなり面倒くさいぜ。


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