第64話
「あとは頼む」と、カムドとショコラは母屋へ。
夜に飲む約束をした。その前に、俺はティンファと話すことがある。
すると、トイレからティンファが戻って来た。
「あれ、おじさんだけ? お父さん、お母さんは?」
「家に戻った。さて、改めて自己紹介するぞ。俺はアルノー、お前の父さん、母さんの冒険者同期で、今はマルセリア王国のポータムで冒険者やってる」
「おじさん、D級だっけ。おじさんくらいの年齢だと、BとかAとかS級になってるモンじゃないの~?」
「まあ、俺は昇格するのが嫌だからD級のままなんだよ。知ってるか? C級以上になると、ギルドの招集とかに応じなくちゃいけない。俺は自由にやりたいから、あえて昇格試験とか受けずに今日までいる」
「ふーん。へんなの」
この野郎め……まあ、若いからわからないだろうな。
若いうちは、S級を目指してひたすら経験を積んで等級上げたくなるもんだろう。でも俺は若いうちからこんな感じだし……ていうか転生者だからな。
「ティンファ。お前はどんな冒険者になりたい?」
「最強!! えへへ、冒険者……憧れてたの。お父さん、お母さんは若いころ冒険者でさ、いろんな話をしてくれたんだ。あたしにレジェンドジョブが宿ってるのって、きっとお父さん、お母さんの子供だからだよね。だから、強くなりたいんだ」
「ふむ……」
「ねえおじさん。おじさんって、すっごい冒険者の指導者なんでしょ? お父さんたちに言われてあたしの指導に来たんだよね!! あたし、自己流でけっこう頑張ってるんだ。見る見る?」
「……よし。見せてもらうか」
ティンファは、壁に立てかけてあった棒を手に取り、クルクル回す。
俺も同じ棒を掴み、クルッと回して突きつける。
「……まあ、なんとかなるか」
「ふふん、おじさん。怪我しても怒らないでね!!」
合図もなく、ティンファは棒で突いてくる。
俺は突きを躱し、棒でティンファの手を軽く叩く。するとティンファは棒を取り落とした。
「へ?」
「ふーむ、まあ悪くないな」
と、いうか。
うーむ……これは参ったな。
「お、おじさん、何をしたの?」
「いや、躱してお前の手を叩いて棒を落としただけ」
「すっご……!! おじさん、やっぱ強いの!?」
「いや、普通。というわけで、お前の指導を担当するぞ。冒険者としての心構えとか、スキルの使い方とか、いろいろな」
「やったー!! よーし強くなるぞー!!」
「はいそこまで」
俺はティンファに手を向ける。すると、ティンファがピタッと止まった。
「さて、ティンファ。冒険者にとって大事なのは何だ?」
「ジョブ」
「まあ間違ってない。他には?」
「スキル、あと強さ」
「それも正解。もっと大事なことがある」
「えー? お金とか、装備?」
こいつ、微妙に間違ってないことを言いまくるな……まあいい。
俺は少し強い口調で言う。
「大事なのは、礼儀だ」
「れいぎ?」
「ああ。冒険者ってのは、基本的には依頼を受けて動く。依頼人と顔を合わせることもあるし、同業の冒険者と一緒の依頼を受けることもある。そこで大事なのは礼儀だ」
「……?」
「もしお前が冒険者になって、お前より年下の子供にタメ口、『なんかお前弱そう』なんて言われたらどう思う?」
「えー? むかつく」
「だろ? さて、さっきお前、俺になんて言った?」
「…………あ」
ようやく気付いたのか、ティンファは曖昧に笑って目を反らした。
「元気なのはいい。でも、目上の人には敬語使ったり、挨拶したりするようにな」
「はーい!! 礼儀、礼儀……そっか、敬語大事だよね」
ティンファはブツブツ言いながら「礼儀、礼儀」と呟き続ける。
根は素直なんだろう。天真爛漫って言葉もピッタリだ。
挨拶は基本。まあ、俺も社畜時代、クソムカつく上司とかには必ず挨拶した。クソムカつこうが、最悪な態度だろうが、挨拶するしないには関係ない。
「よし。明日から、冒険者のルールとか、槍の基礎とか、身体づくりの指導を開始する。動きやすい恰好で待ってろよ」
「はい、アルノー……さん、で、いいのかな。先生とか、師匠とかの方がいいかな……?」
「はは、好きにしていいぞ」
「じゃあ……師匠!!」
ふと、アルテミウスが重なって見えた……ふ、師匠か。悪くないな。
◇◇◇◇◇
その日の夜、俺、カムド、ショコラの三人で町の居酒屋に来た。
ティンファは、フィニアと旦那の三人で家にいる。
酒を頼み、つまみを頼み、再会に乾杯。
ティンファの指導を正式に受けたことを報告……カムドは言う。
「で、どうよ。うちの娘……」
「……驚いたな」
「なに、どういうこと?」
カムド、ショコラが不安そうな顔をするが……俺は首を振った。
「お前らの不安してるようなことじゃない。むしろ……才能あふれてる。驚いたよ、ただの棒であの突きの鋭さ。鍛えれば、本当に化けるぞ」
「あなたがそこまで言うなんてね……」
「いいねいいね、うちの娘、将来はS級か!? だっはっは!!」
喜ぶカムド、ショコラ。
俺は串焼きを食べて言う。
「それに、若さからくる増長とかもなさそうだし、喋った感じ素直でいい子だ。冒険者のルールや礼儀を教えつつ、槍の基礎や身体作りを叩き込めば、数年でS級までいけるかもしれないぞ」
「「……おお」」
だからこそ、ちょっと不安もある。
「問題は……その才能なんだよなあ」
「あ? どういうこった」
「いや、これは俺の教え子、ファルカってやつの話なんだが」
俺は、ファルカにあった『ある話』をすると、二人は顔を見合わせる。
「……そんなことあり得るのか?」
「うちの子がそんな……ねえ?」
「あり得る。さて、俺も慎重に育成プランを立てないとな」
さて、ティンファの話はここまで。
あとは大人の話だ。
「つーかお前らさ、田舎に帰ったとか聞いてたけど、実際は違ったんだな……俺、グレースに聞くまで、ショコラが妊娠したとか知らなかったぞ」
「あー、まあちょっと恥ずかしいってのはあったよな」
「そうね……まさか、若気の至りでねぇ。妊娠しちゃうなんて。冒険者になってこれからって時期に引退なんて、理由としては家族のことが一番自然だったのよねぇ」
「だな。まあ、パン屋もメチャクチャ楽しいぜ。オレの作ったオリジナルパンとか、かなり売れてるしな」
「ほほー、パンのアイデアなら俺もあるぞ。焼きそばパンとか、コロッケパンとか」
「なんだそれ? おいおい、アイデアあるならオレにくれよ」
「いいぞ。この町で東方の食材とか集まるかな」
「ちょっと二人とも、商売の話はあとにしたら?」
「そうか。てかショコラ、お前グレースと文通してんのか?」
「ええ。お友達ですもの」
この日、俺とカムドとショコラは、遅くまで昔の話で盛り上がるのだった。




