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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第三章

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第64話

「あとは頼む」と、カムドとショコラは母屋へ。

 夜に飲む約束をした。その前に、俺はティンファと話すことがある。

 すると、トイレからティンファが戻って来た。


「あれ、おじさんだけ? お父さん、お母さんは?」

「家に戻った。さて、改めて自己紹介するぞ。俺はアルノー、お前の父さん、母さんの冒険者同期で、今はマルセリア王国のポータムで冒険者やってる」

「おじさん、D級だっけ。おじさんくらいの年齢だと、BとかAとかS級になってるモンじゃないの~?」

「まあ、俺は昇格するのが嫌だからD級のままなんだよ。知ってるか? C級以上になると、ギルドの招集とかに応じなくちゃいけない。俺は自由にやりたいから、あえて昇格試験とか受けずに今日までいる」

「ふーん。へんなの」


 この野郎め……まあ、若いからわからないだろうな。

 若いうちは、S級を目指してひたすら経験を積んで等級上げたくなるもんだろう。でも俺は若いうちからこんな感じだし……ていうか転生者だからな。


「ティンファ。お前はどんな冒険者になりたい?」

「最強!! えへへ、冒険者……憧れてたの。お父さん、お母さんは若いころ冒険者でさ、いろんな話をしてくれたんだ。あたしにレジェンドジョブが宿ってるのって、きっとお父さん、お母さんの子供だからだよね。だから、強くなりたいんだ」

「ふむ……」

「ねえおじさん。おじさんって、すっごい冒険者の指導者なんでしょ? お父さんたちに言われてあたしの指導に来たんだよね!! あたし、自己流でけっこう頑張ってるんだ。見る見る?」

「……よし。見せてもらうか」


 ティンファは、壁に立てかけてあった棒を手に取り、クルクル回す。

 俺も同じ棒を掴み、クルッと回して突きつける。


「……まあ、なんとかなるか」

「ふふん、おじさん。怪我しても怒らないでね!!」


 合図もなく、ティンファは棒で突いてくる。

 俺は突きを躱し、棒でティンファの手を軽く叩く。するとティンファは棒を取り落とした。


「へ?」

「ふーむ、まあ悪くないな」


 と、いうか。

 うーむ……これは参ったな。


「お、おじさん、何をしたの?」

「いや、躱してお前の手を叩いて棒を落としただけ」

「すっご……!! おじさん、やっぱ強いの!?」

「いや、普通。というわけで、お前の指導を担当するぞ。冒険者としての心構えとか、スキルの使い方とか、いろいろな」

「やったー!! よーし強くなるぞー!!」

「はいそこまで」


 俺はティンファに手を向ける。すると、ティンファがピタッと止まった。


「さて、ティンファ。冒険者にとって大事なのは何だ?」

「ジョブ」

「まあ間違ってない。他には?」

「スキル、あと強さ」

「それも正解。もっと大事なことがある」

「えー? お金とか、装備?」


 こいつ、微妙に間違ってないことを言いまくるな……まあいい。

 俺は少し強い口調で言う。


「大事なのは、礼儀だ」

「れいぎ?」

「ああ。冒険者ってのは、基本的には依頼を受けて動く。依頼人と顔を合わせることもあるし、同業の冒険者と一緒の依頼を受けることもある。そこで大事なのは礼儀だ」

「……?」

「もしお前が冒険者になって、お前より年下の子供にタメ口、『なんかお前弱そう』なんて言われたらどう思う?」

「えー? むかつく」

「だろ? さて、さっきお前、俺になんて言った?」

「…………あ」


 ようやく気付いたのか、ティンファは曖昧に笑って目を反らした。


「元気なのはいい。でも、目上の人には敬語使ったり、挨拶したりするようにな」

「はーい!! 礼儀、礼儀……そっか、敬語大事だよね」


 ティンファはブツブツ言いながら「礼儀、礼儀」と呟き続ける。

 根は素直なんだろう。天真爛漫って言葉もピッタリだ。

 挨拶は基本。まあ、俺も社畜時代、クソムカつく上司とかには必ず挨拶した。クソムカつこうが、最悪な態度だろうが、挨拶するしないには関係ない。

 

「よし。明日から、冒険者のルールとか、槍の基礎とか、身体づくりの指導を開始する。動きやすい恰好で待ってろよ」

「はい、アルノー……さん、で、いいのかな。先生とか、師匠とかの方がいいかな……?」

「はは、好きにしていいぞ」

「じゃあ……師匠!!」


 ふと、アルテミウスが重なって見えた……ふ、師匠か。悪くないな。


 ◇◇◇◇◇

 

 その日の夜、俺、カムド、ショコラの三人で町の居酒屋に来た。

 ティンファは、フィニアと旦那の三人で家にいる。

 酒を頼み、つまみを頼み、再会に乾杯。

 ティンファの指導を正式に受けたことを報告……カムドは言う。


「で、どうよ。うちの娘……」

「……驚いたな」

「なに、どういうこと?」


 カムド、ショコラが不安そうな顔をするが……俺は首を振った。


「お前らの不安してるようなことじゃない。むしろ……才能あふれてる。驚いたよ、ただの棒であの突きの鋭さ。鍛えれば、本当に化けるぞ」

「あなたがそこまで言うなんてね……」

「いいねいいね、うちの娘、将来はS級か!? だっはっは!!」


 喜ぶカムド、ショコラ。

 俺は串焼きを食べて言う。


「それに、若さからくる増長とかもなさそうだし、喋った感じ素直でいい子だ。冒険者のルールや礼儀を教えつつ、槍の基礎や身体作りを叩き込めば、数年でS級までいけるかもしれないぞ」

「「……おお」」


 だからこそ、ちょっと不安もある。


「問題は……その才能なんだよなあ」

「あ? どういうこった」

「いや、これは俺の教え子、ファルカってやつの話なんだが」


 俺は、ファルカにあった『ある話』をすると、二人は顔を見合わせる。


「……そんなことあり得るのか?」

「うちの子がそんな……ねえ?」

「あり得る。さて、俺も慎重に育成プランを立てないとな」


 さて、ティンファの話はここまで。

 あとは大人の話だ。


「つーかお前らさ、田舎に帰ったとか聞いてたけど、実際は違ったんだな……俺、グレースに聞くまで、ショコラが妊娠したとか知らなかったぞ」

「あー、まあちょっと恥ずかしいってのはあったよな」

「そうね……まさか、若気の至りでねぇ。妊娠しちゃうなんて。冒険者になってこれからって時期に引退なんて、理由としては家族のことが一番自然だったのよねぇ」

「だな。まあ、パン屋もメチャクチャ楽しいぜ。オレの作ったオリジナルパンとか、かなり売れてるしな」

「ほほー、パンのアイデアなら俺もあるぞ。焼きそばパンとか、コロッケパンとか」

「なんだそれ? おいおい、アイデアあるならオレにくれよ」

「いいぞ。この町で東方の食材とか集まるかな」

「ちょっと二人とも、商売の話はあとにしたら?」

「そうか。てかショコラ、お前グレースと文通してんのか?」

「ええ。お友達ですもの」


 この日、俺とカムドとショコラは、遅くまで昔の話で盛り上がるのだった。

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