第62話
翌日。
俺はベッドから起き上がり、大きく伸びをする。
部屋のシャワーを浴び、髭を剃り、軽く髪を整えて一階へ。
食堂に入ると、いい香りがした。
「あ、お兄さん。おはよー」
「おーっす。おお、いい香りだな」
「ふふん。お父さんの料理、けっこう評判なんだから」
昨日は夕食を食べてすぐに寝ちまったからな……自覚はなかったけど、移動でけっこう疲れていたのかもしれん。しっかり飯を味わうこともしなかった。
トーニャに案内され席へ。すると、朝食が運ばれて来た。
いろんな種類のサンドイッチ、野菜いっぱいのスープ、デザートに果物だ。すごいな……朝からけっこうな量だが、全然食える。
「うまい……うん、最高だなこりゃ」
「でしょ?」
トーニャは胸を張って喜ぶ。看板娘ってイメージぴったりの元気な子だ。
広い食堂には俺しかいない。ちょっと意外だな。
「他の客、いないのか?」
「ううん。みんなもう食べて出かけちゃったよ。おにーさんが最後」
「なぬ。ていうか、まだ早朝だろ……みんな早くないか?」
時間にして、朝の七時くらいだ。
食堂のキャパは五十人くらいだろうか。まさか、俺が最後とは。
「あはは。お泊りしてる人たち、みんな冒険者だからね。よくわかんないけど、冒険者の依頼って取り合いになるんでしょ? だからみんなすぐ食べて出て行っちゃった」
「あー……なるほどなあ」
「おにーさん、冒険者だけど余裕そうだよね。依頼、受けないの?」
「ああ。まあ、依頼の真っ最中ってのもある」
「へ~」
今日は、古い友人に会い、さらにその娘を指導するつもりだ。
住所はグレースに聞いたからわかる。そうだ、聞いてみるか。
「なあトーニャ。『パンの店ショコラ』ってわかるか?」
「もちろん。ていうか、うちで出してるパン、そこから仕入れてるんだよ。お父さんもパン焼けるけど、どうしてもその店に味で勝てないから仕方なく仕入れてるって」
「し、仕方なくね……じゃあ、評判なのか」
「うん。旦那さんも奥さんも仲良しでさ、今度子供生まれるみたい」
こ、子供って……カムドとショコラの子供かな。あいつら、俺と同い年だから三十五歳のはずだけど……お盛んなことで。
サンドイッチのパンを味わい思う。このサンドイッチのパン、カムドとショコラが作ったやつなのか。
「おにーさん、そこに用事?」
「ああ。知り合いなんだ」
まあ、指導とかは別に言わなくていいか。
俺は朝食を食べ終え、食後の紅茶を飲む……新聞があったので読みながらリラックス。
ちょうどいい時間になったので食堂を出て、受付にいたトーニャ……じゃないな。たぶんトーニャのお母さんに言う。
「すんません。お昼はなしで、夕食も……なしでお願いします」
「はあい。お客さん、トーニャが騒がしくてごめんなさいねぇ」
「いやいや、元気いっぱいでいいことっすよ」
俺は部屋に戻り、冒険者装備で宿を出る。
友人との再会もあるが、メインは『指導』なのだ。ラフな格好で行くわけにもいかん。
さて、久しぶりの友人に会いに行きますかね。
◇◇◇◇◇
『パンの店ショコラ』は、宿屋から徒歩十分くらいのところにあった……近っ。
町の真ん中から少し外れたところにあるが、人通りも多く過疎ってはいない。むしろ、周囲には飲食店とか雑貨屋がけっこうあり、かなりにぎわっている。
俺は、グレースからもらった地図を見て確認する。
「パンの店、ショコラ……ここか」
普通より大きめの一軒家だ。一階が店舗になっており、二階はたぶん住居だろう。
ドアは閉まっているが、パンのいい香りがする……朝飯食ったばかりなのに、これは食欲を刺激するな。
「よし、行くか」
髪を撫でつけ、装備を確認……変なところはないな。
ドアを開け、店内へ。
「いらっしゃいませ」
若い女性がカウンターにいた。
栗色の長い髪をお団子にして、三角巾をつけている。
エプロンをしており、どう見ても『パン屋で働くお姉さん』って感じだ。
「あー、えと」
ちょっと緊張する。
店内には様々なパンが並んでいる。
「何かお探しですか? うちのパン、どれも美味しいですよ」
「あ、はい。えーと、じゃあ……これは?」
「これは生地にマッシュを練り込んだマッシュパンです。ふんわり甘くておいしい、おやつにピッタリのパンです」
「な、なるほど。じゃあそれと……これは?」
「これはカカチの実を混ぜたカカチパン。固いので保存食にピッタリ。お兄さん、冒険者ですよね。おすすめです」
「じゃ、じゃあお願いします」
定員さんはパンを包む。
俺は支払いをし、そのまま店を出た。
「って、なんで俺はパンを買って店を出てるんだ」
ガラにもなく緊張している。
なんというか、同窓会の一か月前くらいはワクワクしてるけど、当日になると面倒くさくなったり、行きたくなくなったり、やけに緊張するアレだ……いや俺は何を考えてんだ。
俺は首をブンブン振り、もう一度店に入った。
「いらっしゃいませ……あら、何か忘れ物ですか?」
「えーと……カムドと、ショコラ、いますか?」
「はい? お父さんと、お母さんですか? いますけど……」
「アルノーが来た、って伝えてくれますか? それでわかると思います」
「は、はあ……」
定員さんは奥へ。
定員さん……ん? 待てよ、今……お父さん、お母さんって?
この女性、二十歳くらいだよな。まさか……この人が『槍聖』のジョブ持ち?
俺は、パンの袋を持ったまま首を傾げる。すると、ドタドタと奥から人が走って来る気配があった。
そして、ドアが開き。
「……アルノー、か?」
「おう。そういうお前は……カムド?」
大柄な筋肉質、栗色のツンツンヘア、クマの刺繍がされたエプロンを付けた、俺の同期にして元冒険者のカムドが、驚いたような顔をして俺を上から下まで見て、満面の笑みを浮かべた。
「ひっさしぶりだなあ!! おま、老けたなあ!!」
「そういうお前もな」
「てかお前、なんでウチのパン買って店出て、また入って呼んだ?」
「う、うるせ……いろいろあるんだよ」
カムドは手を差し出してきたのでパシッと叩く。
二十年前。こいつとこうやって手合わせしたっけな。
すると、奥から灰色の髪をした女性……ショコラが出て来た。
「アルノー、まあ……本当に、アルノーじゃない!!」
「おうショコラ。久しぶりだな」
「ええ……二十年ぶりね」
軽く手を上げると、ショコラは嬉しそうに頷いた。
こうして俺は、二十年ぶりに冒険者の同期と再会するのだった。




