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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第三章

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第62話

 翌日。

 俺はベッドから起き上がり、大きく伸びをする。

 部屋のシャワーを浴び、髭を剃り、軽く髪を整えて一階へ。

 食堂に入ると、いい香りがした。


「あ、お兄さん。おはよー」

「おーっす。おお、いい香りだな」

「ふふん。お父さんの料理、けっこう評判なんだから」


 昨日は夕食を食べてすぐに寝ちまったからな……自覚はなかったけど、移動でけっこう疲れていたのかもしれん。しっかり飯を味わうこともしなかった。

 トーニャに案内され席へ。すると、朝食が運ばれて来た。

 いろんな種類のサンドイッチ、野菜いっぱいのスープ、デザートに果物だ。すごいな……朝からけっこうな量だが、全然食える。


「うまい……うん、最高だなこりゃ」

「でしょ?」


 トーニャは胸を張って喜ぶ。看板娘ってイメージぴったりの元気な子だ。

 広い食堂には俺しかいない。ちょっと意外だな。


「他の客、いないのか?」

「ううん。みんなもう食べて出かけちゃったよ。おにーさんが最後」

「なぬ。ていうか、まだ早朝だろ……みんな早くないか?」


 時間にして、朝の七時くらいだ。

 食堂のキャパは五十人くらいだろうか。まさか、俺が最後とは。


「あはは。お泊りしてる人たち、みんな冒険者だからね。よくわかんないけど、冒険者の依頼って取り合いになるんでしょ? だからみんなすぐ食べて出て行っちゃった」

「あー……なるほどなあ」

「おにーさん、冒険者だけど余裕そうだよね。依頼、受けないの?」

「ああ。まあ、依頼の真っ最中ってのもある」

「へ~」


 今日は、古い友人に会い、さらにその娘を指導するつもりだ。

 住所はグレースに聞いたからわかる。そうだ、聞いてみるか。


「なあトーニャ。『パンの店ショコラ』ってわかるか?」

「もちろん。ていうか、うちで出してるパン、そこから仕入れてるんだよ。お父さんもパン焼けるけど、どうしてもその店に味で勝てないから仕方なく仕入れてるって」

「し、仕方なくね……じゃあ、評判なのか」

「うん。旦那さんも奥さんも仲良しでさ、今度子供生まれるみたい」


 こ、子供って……カムドとショコラの子供かな。あいつら、俺と同い年だから三十五歳のはずだけど……お盛んなことで。

 サンドイッチのパンを味わい思う。このサンドイッチのパン、カムドとショコラが作ったやつなのか。


「おにーさん、そこに用事?」

「ああ。知り合いなんだ」


 まあ、指導とかは別に言わなくていいか。

 俺は朝食を食べ終え、食後の紅茶を飲む……新聞があったので読みながらリラックス。

 ちょうどいい時間になったので食堂を出て、受付にいたトーニャ……じゃないな。たぶんトーニャのお母さんに言う。


「すんません。お昼はなしで、夕食も……なしでお願いします」

「はあい。お客さん、トーニャが騒がしくてごめんなさいねぇ」

「いやいや、元気いっぱいでいいことっすよ」


 俺は部屋に戻り、冒険者装備で宿を出る。

 友人との再会もあるが、メインは『指導』なのだ。ラフな格好で行くわけにもいかん。

 さて、久しぶりの友人に会いに行きますかね。


 ◇◇◇◇◇


 『パンの店ショコラ』は、宿屋から徒歩十分くらいのところにあった……近っ。

  町の真ん中から少し外れたところにあるが、人通りも多く過疎ってはいない。むしろ、周囲には飲食店とか雑貨屋がけっこうあり、かなりにぎわっている。

 俺は、グレースからもらった地図を見て確認する。


「パンの店、ショコラ……ここか」


 普通より大きめの一軒家だ。一階が店舗になっており、二階はたぶん住居だろう。

 ドアは閉まっているが、パンのいい香りがする……朝飯食ったばかりなのに、これは食欲を刺激するな。

 

「よし、行くか」


 髪を撫でつけ、装備を確認……変なところはないな。

 ドアを開け、店内へ。


「いらっしゃいませ」


 若い女性がカウンターにいた。

 栗色の長い髪をお団子にして、三角巾をつけている。

 エプロンをしており、どう見ても『パン屋で働くお姉さん』って感じだ。

 

「あー、えと」

 

 ちょっと緊張する。

 店内には様々なパンが並んでいる。


「何かお探しですか? うちのパン、どれも美味しいですよ」

「あ、はい。えーと、じゃあ……これは?」

「これは生地にマッシュを練り込んだマッシュパンです。ふんわり甘くておいしい、おやつにピッタリのパンです」

「な、なるほど。じゃあそれと……これは?」

「これはカカチの実を混ぜたカカチパン。固いので保存食にピッタリ。お兄さん、冒険者ですよね。おすすめです」

「じゃ、じゃあお願いします」


 定員さんはパンを包む。

 俺は支払いをし、そのまま店を出た。


「って、なんで俺はパンを買って店を出てるんだ」


 ガラにもなく緊張している。

 なんというか、同窓会の一か月前くらいはワクワクしてるけど、当日になると面倒くさくなったり、行きたくなくなったり、やけに緊張するアレだ……いや俺は何を考えてんだ。

 俺は首をブンブン振り、もう一度店に入った。


「いらっしゃいませ……あら、何か忘れ物ですか?」

「えーと……カムドと、ショコラ、いますか?」

「はい? お父さんと、お母さんですか? いますけど……」

「アルノーが来た、って伝えてくれますか? それでわかると思います」

「は、はあ……」


 定員さんは奥へ。

 定員さん……ん? 待てよ、今……お父さん、お母さんって?

 この女性、二十歳くらいだよな。まさか……この人が『槍聖』のジョブ持ち?

 俺は、パンの袋を持ったまま首を傾げる。すると、ドタドタと奥から人が走って来る気配があった。

 そして、ドアが開き。


「……アルノー、か?」

「おう。そういうお前は……カムド?」


 大柄な筋肉質、栗色のツンツンヘア、クマの刺繍がされたエプロンを付けた、俺の同期にして元冒険者のカムドが、驚いたような顔をして俺を上から下まで見て、満面の笑みを浮かべた。


「ひっさしぶりだなあ!! おま、老けたなあ!!」

「そういうお前もな」

「てかお前、なんでウチのパン買って店出て、また入って呼んだ?」

「う、うるせ……いろいろあるんだよ」


 カムドは手を差し出してきたのでパシッと叩く。

 二十年前。こいつとこうやって手合わせしたっけな。

 すると、奥から灰色の髪をした女性……ショコラが出て来た。


「アルノー、まあ……本当に、アルノーじゃない!!」

「おうショコラ。久しぶりだな」

「ええ……二十年ぶりね」


 軽く手を上げると、ショコラは嬉しそうに頷いた。

 こうして俺は、二十年ぶりに冒険者の同期と再会するのだった。

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