第57話
誰もいないプライベートビーチで、俺はビーチチェアに寝そべり、トロピカルドリンクを飲みながら読書を楽しんでいた。
「……これぞ、バカンス」
風でタープが優しく揺れている。心地い風……ああ、眠くなる。
「アルノー!! ちょっと、一人で寝てないで遊びましょうよ!!」
「コーチ、湖は気持ちいいですよ~」
ごめん、実は一人じゃない。
エルレインとキュレネが、波打ち際で手を振っている……水着姿で。
そして、俺のいるタープにでは、もう一つのビーチチェア。そこにはスティンギールがラフな格好で寝そべり、読書していた。
そして、エルレインとキュレネのすぐそばから。
「ぶわっは!! は~気持ちいいぜ~!! なあアストライア!!」
「う、うん……湖の中、綺麗」
潜水をしていたファルカ、アストライアが浮上した。
アストライアも水着……何というか、三人の中では一番デカい。
すると、お盆にフルーツ盛り合わせを乗せて、レグナフィリアがやってきた……こっちも水着で。
「ふふ、みんな楽しんでるみたいね」
「ああ。それより……なんでお前、別荘持ってること内緒にしてたんだよ」
そう、ここはレグナフィリアが所有する北区にある超高級エリア。貴族の別荘とかある区画で、レグナフィリアも別荘を持っていた……しかもプライベートビーチ付き。
「別に秘密にしてたわけじゃないわ。こっちにはもともと仕事で来たから、使うつもりなかっただけ。今回、みんな頑張ったから招待してあげたのよ」
ちなみに、アルテミウスたちはいない。ずっとバカンスだけだと身体が鈍るというので依頼を受けた。ちなみにその依頼は冒険者ギルド地下の清掃……汚染原因となった巨大スライムの残滓を掃除することだ。
俺はレグナフィリアの持って来たフルーツをつまみながら、スティンギールに聞く。
「もう、汚染の心配はないんだよな?」
「ええ。生ゴミ問題も今後発生することはないでしょう。汚染水問題は完全に解決したと言っていいでしょうね」
「そりゃ安心」
「……教官。一つ、わからないことが」
「ん?」
スティンギールは本を閉じ、俺を見て言う。
「ボクたち五人が地下で倒したスライムには核が存在しなかった。それに、あのスライムには知能があった。つまり……核は、身体の大部分を囮に、逃亡を図ったと考えられます。教官……」
「…………」
「……いえ。なんでもありません。汚染水問題は解決した、それで十分でしょうね」
「……かもなあ」
スティンギールは察してる。きっと、俺が核を倒したということを。でも……それを公にすることを望んでいないから、これ以上は何も言わないと。
スティンギールは小さく微笑む。
「教官。不謹慎かもしれませんが……久しぶりに楽しい休暇となりました。こほん、その、勘違いしないで欲しいのですが、あの騒がしい四人と一緒に過ごす休暇ががぶっ!?」
「うおっ」
いきなり飛んで来たビーチボールが、スティンギールの頭に激突した。
「おー、悪い悪い!! てかスティンギール、お前も遊ぼうぜ!! お師匠様も、レグナフィリア様も!!」
「……いいでしょう。ファルカ……言っておきますが、ボクも頭にきたらキレることがあるということ、教えてあげましょう」
青筋を浮かべたスティンギールが、ビーチボール片手にファルカたちの元へ突っ込んで行った……うーん、なんか懐かしいな。
すると、レグナフィリアが言う。
「ふふ。まだまだ、子供ねえ」
「……だな」
「あら。あなたのことも言ってるんだけど? ふふ、アルノー……五人を見て、かつて指導した自分を懐かしむのもいいけど、あの五人に混ざって楽しむ姿を、私にも見せてくれない? 私にとっては、そっちも懐かしくて見てみたいのよね」
「……ったく。しゃーねぇなあ」
俺は立ち上がり、首をコキコキ鳴らす。
「お、来たわね!! さあ、遊ぶわよアルノー!!」
「コーチ、バカンスは始まったばかりですよ!!」
「よっしゃお師匠様、素潜りしようぜ!!」
「教官、この連中に目にモノ見せますので、手伝ってくれますか?」
「あわわ、せ、先生、わ、わたしも一緒に遊びます~」
エルレイン、キュレネ、ファルカ、スティンギール、アストライア。
俺も昔みたいに、この五人と笑ってはしゃぐことにした。
「よーし、じゃあみんなで泳ぐか!! んで、そのあとはバーベキューやるぞ!! 楽しいバカンスはまだ始まったばかりだ!!」
こうして、俺のバカンスは本当の意味で始まるのだった。




