第56話
正直、驚いた。スライムの特殊個体が、ここまで強くなるとは。
現在俺は、下水道の薄暗い空間の中、ナイトオーガに擬態したブラックホールスライムと剣戟を繰り広げていた。
『オオオオオオオオオオ!!』
「っと、あぶっ」
現在のジョブは『剣士』だ。
一応、スキルは全てゲットしている。ゲームで言えばステータスはカンストした状態だが……この擬態ナイトオーガ、普通に今の俺と渡り合っている。
「なるほど。捕食した魔獣の技能もコピーしてるのか? まるで漫画だな、っと!!」
剣士の上級スキル、『トリニティストライク』が、擬態ナイトオーガの両腕を切断する……が、もともとスライムなのか落ちた両腕がドロッとした塊となり、足に吸収。そして普通に腕が生えて来た。
しかも、ナイトオーガじゃない。両腕が異常に膨れ上がった『マッドネスコング』というゴリラの魔獣へと変わり、俺に拳を叩きつけてくる。
「チェンジ、『刀聖』……上級スキル『燕返し』」
俺はロングソードを捨て、ジョブを『刀聖』へチェンジ。背負っていた刀を抜き、擬態マッドネスコングの腕を斬り裂き、さらに上半身に深い斬撃を……って。
『にぃぃぃぃ……』
「ノーダメージです。残念でした、みたいな顔しやがって」
傷がすぐにくっついてしまう。どうやら斬撃との相性は最悪だ。
でも、こいつは勘違いをしている。
「ジョブチェンジ……『魔法士』」
魔法士のジョブへ変わる。
『魔法聖』との違いは、全属性魔法スキルを覚えることができるが、上級スキルだけは一つの属性につき三つまでしか覚えられない。
まあ、『闇魔法士』とか『光魔法士』みたいに、一属性に特化したジョブよりも、全属性を使いこなした方がカッコいい……と、個人的には思っている。
俺は手に火球を生み出す。
「スキル『ファイアボール』だ。こう見えて、二十年の経験があるんでな……お前みたいなやつは、大抵が炎に弱い」
『グオオオオオオオオ!!』
俺はファイアボールを発射。擬態マッドネスコングが火球を殴ると、腕が燃えた。
そりゃもう、勢いよく。
擬態マッドネスコングは一気に燃え上がる腕に驚き、腕を肩から切断した。
『!? ッ!?』
「驚いてるな。まあ、わかんないだろうな。でも、俺にはわかったぞ」
『エ……』
俺は、所々に滴り落ちている、ブラックホールスライムの粘液を指で掬い、ニオイを嗅ぐ……うん、これは間違いない。
「お前の粘液、灯油とガソリンが混ざったような、とにかく燃えやすい液体みたいだな。いやはや……本当にすごい。スライムというか、新生物みたいな気もする。お前を研究すれば、この世界の燃料事情は変わるんじゃないか?」
俺は先ほどより巨大な火球を作り、お手玉のように手でポンポンする。
すると、ブラックホールスライムは怯えたように身体をくねらせる。もう擬態することもできないのか、ただの粘液となり震えている。
「悪いけど、俺には関係のない話だ。それに……そろそろ本格的に、バカンスを楽しみたいんだよ。じゃあな」
火球を発射……ブラックホールスライムは一気に燃え、完全に消滅した。
「さて。これでおしまい。今回も俺は裏方で、活躍したのはS級の五人、ってことで」
俺は軽く伸びをして、さっさとギルドに帰ることにした。
◇◇◇◇◇
ギルドに戻ると、エルレインたち五人もいた。
というか……目立ち方が半端じゃない。全員S級だし、有名人だし、半径十メートル以内にヒトが近づいてない。
神々しいというか、畏怖されてるってのは違うけど……。
「っと」
「おい、どけよ!!」
若い冒険者たちに押され、俺は後ろの方へ。
どうやら新人たちにとって、この五人は見なきゃダメなくらい尊敬の対象のようだ。ギルド内にはかなり冒険者集まってる……やばいな、こんな中で注目されたらと思うと。
「よし、出直そう」
そもそも俺、エルレインたちが戦う前に『俺は下水周辺を見回ってくる』って言ったんだよな。まさか、汚染原因の核と戦ってたなんて思わないだろう。
「なーにしてるの?」
「うおっ……れ、レグナフィリアか。ったく、驚かせるな」
俺の背後にレグナフィリアがいた。こいつはこいつで目立つけど、何やらスキルを使ってるようで存在が希薄だ。
「ふふ、今ここであの子たちに話しかけられたら、まあ目立つでしょうねえ」
「わかってんならどけよ。俺、目立ちたくない」
「ふふ、どうしようかな?」
「……あとで奢る」
「お、いいわね。でも……それだけ?」
「……わかったよ。朝まで付き合うよ」
「はいよろしい。じゃあ、あの子たちにはエルレインの別荘に集まるよう言っておくわ。あなたも来てね」
「へいへい。じゃあ、あとは頼む」
俺はこっそりとギルドを出る。そして、レグナフィリアがエルレインたちに何か言うと、ギルド内は歓声に包まれた……なるほどね。スーリヤの危機を、五人のS級冒険者が解決したみたいに言ってるようだ。
「ロートルは退散……さーて、どっかでスイーツでも食って時間を」
「あー!! 師匠!!」
と、私服姿のアルテミウス、シャナ、エリオ、ユウナがいた。
みんな買い物をしたのか、荷物をいっぱい持っている。
「師匠、スーリヤって楽しいですね!! いっぱい泳いで、遊んで、買い物して」
「お、落ち着けって。どうどう」
「……ギルド、騒がしいけど、問題は解決した?」
「ああ。なんとかな」
「お師匠、おれ、カッコイイ弓を買っちゃったぜ!! へへ、早く使いてー!!」
「お前はいつも元気だな……」
「あの、師匠……レグナフィリアさんは? お小遣いのお礼、言いたくて」
「ああ。今忙しから後でな。さて……エルレインの別荘に行くんだろ? 俺も用事あるから一緒に行くか。その前に、どっかで甘いモンでも食うか?」
「「食べる!!」」
「……ふ、付き合ってあげる」
「ご、ごちそうになります」
アルテミウスたちに会い、俺はようやくリラックスできるのだった。
さて、これからいよいよバカンス本番だ!!




