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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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第56話

 正直、驚いた。スライムの特殊個体が、ここまで強くなるとは。

 現在俺は、下水道の薄暗い空間の中、ナイトオーガに擬態したブラックホールスライムと剣戟を繰り広げていた。


『オオオオオオオオオオ!!』

「っと、あぶっ」


 現在のジョブは『剣士』だ。

 一応、スキルは全てゲットしている。ゲームで言えばステータスはカンストした状態だが……この擬態ナイトオーガ、普通に今の俺と渡り合っている。


「なるほど。捕食した魔獣の技能もコピーしてるのか? まるで漫画だな、っと!!」


 剣士の上級スキル、『トリニティストライク』が、擬態ナイトオーガの両腕を切断する……が、もともとスライムなのか落ちた両腕がドロッとした塊となり、足に吸収。そして普通に腕が生えて来た。

 しかも、ナイトオーガじゃない。両腕が異常に膨れ上がった『マッドネスコング』というゴリラの魔獣へと変わり、俺に拳を叩きつけてくる。


「チェンジ、『刀聖』……上級スキル『燕返し』」


 俺はロングソードを捨て、ジョブを『刀聖』へチェンジ。背負っていた刀を抜き、擬態マッドネスコングの腕を斬り裂き、さらに上半身に深い斬撃を……って。


『にぃぃぃぃ……』

「ノーダメージです。残念でした、みたいな顔しやがって」


 傷がすぐにくっついてしまう。どうやら斬撃との相性は最悪だ。

 でも、こいつは勘違いをしている。


「ジョブチェンジ……『魔法士』」


 魔法士のジョブへ変わる。

 『魔法聖』との違いは、全属性魔法スキルを覚えることができるが、上級スキルだけは一つの属性につき三つまでしか覚えられない。

 まあ、『闇魔法士』とか『光魔法士』みたいに、一属性に特化したジョブよりも、全属性を使いこなした方がカッコいい……と、個人的には思っている。

 俺は手に火球を生み出す。


「スキル『ファイアボール』だ。こう見えて、二十年の経験があるんでな……お前みたいなやつは、大抵が炎に弱い」

『グオオオオオオオオ!!』


 俺はファイアボールを発射。擬態マッドネスコングが火球を殴ると、腕が燃えた。

 そりゃもう、勢いよく。

 擬態マッドネスコングは一気に燃え上がる腕に驚き、腕を肩から切断した。


『!? ッ!?』

「驚いてるな。まあ、わかんないだろうな。でも、俺にはわかったぞ」

『エ……』


 俺は、所々に滴り落ちている、ブラックホールスライムの粘液を指で掬い、ニオイを嗅ぐ……うん、これは間違いない。


「お前の粘液、灯油とガソリンが混ざったような、とにかく燃えやすい液体みたいだな。いやはや……本当にすごい。スライムというか、新生物みたいな気もする。お前を研究すれば、この世界の燃料事情は変わるんじゃないか?」


 俺は先ほどより巨大な火球を作り、お手玉のように手でポンポンする。

 すると、ブラックホールスライムは怯えたように身体をくねらせる。もう擬態することもできないのか、ただの粘液となり震えている。


「悪いけど、俺には関係のない話だ。それに……そろそろ本格的に、バカンスを楽しみたいんだよ。じゃあな」


 火球を発射……ブラックホールスライムは一気に燃え、完全に消滅した。

 

「さて。これでおしまい。今回も俺は裏方で、活躍したのはS級の五人、ってことで」


 俺は軽く伸びをして、さっさとギルドに帰ることにした。


 ◇◇◇◇◇


 ギルドに戻ると、エルレインたち五人もいた。

 というか……目立ち方が半端じゃない。全員S級だし、有名人だし、半径十メートル以内にヒトが近づいてない。

 神々しいというか、畏怖されてるってのは違うけど……。


「っと」

「おい、どけよ!!」


 若い冒険者たちに押され、俺は後ろの方へ。

 どうやら新人たちにとって、この五人は見なきゃダメなくらい尊敬の対象のようだ。ギルド内にはかなり冒険者集まってる……やばいな、こんな中で注目されたらと思うと。


「よし、出直そう」


 そもそも俺、エルレインたちが戦う前に『俺は下水周辺を見回ってくる』って言ったんだよな。まさか、汚染原因の核と戦ってたなんて思わないだろう。


「なーにしてるの?」

「うおっ……れ、レグナフィリアか。ったく、驚かせるな」


 俺の背後にレグナフィリアがいた。こいつはこいつで目立つけど、何やらスキルを使ってるようで存在が希薄だ。

 

「ふふ、今ここであの子たちに話しかけられたら、まあ目立つでしょうねえ」

「わかってんならどけよ。俺、目立ちたくない」

「ふふ、どうしようかな?」

「……あとで奢る」

「お、いいわね。でも……それだけ?」

「……わかったよ。朝まで付き合うよ」

「はいよろしい。じゃあ、あの子たちにはエルレインの別荘に集まるよう言っておくわ。あなたも来てね」

「へいへい。じゃあ、あとは頼む」


 俺はこっそりとギルドを出る。そして、レグナフィリアがエルレインたちに何か言うと、ギルド内は歓声に包まれた……なるほどね。スーリヤの危機を、五人のS級冒険者が解決したみたいに言ってるようだ。


「ロートルは退散……さーて、どっかでスイーツでも食って時間を」

「あー!! 師匠!!」


 と、私服姿のアルテミウス、シャナ、エリオ、ユウナがいた。

 みんな買い物をしたのか、荷物をいっぱい持っている。


「師匠、スーリヤって楽しいですね!! いっぱい泳いで、遊んで、買い物して」

「お、落ち着けって。どうどう」

「……ギルド、騒がしいけど、問題は解決した?」

「ああ。なんとかな」

「お師匠、おれ、カッコイイ弓を買っちゃったぜ!! へへ、早く使いてー!!」

「お前はいつも元気だな……」

「あの、師匠……レグナフィリアさんは? お小遣いのお礼、言いたくて」

「ああ。今忙しから後でな。さて……エルレインの別荘に行くんだろ? 俺も用事あるから一緒に行くか。その前に、どっかで甘いモンでも食うか?」

「「食べる!!」」

「……ふ、付き合ってあげる」

「ご、ごちそうになります」


 アルテミウスたちに会い、俺はようやくリラックスできるのだった。

 さて、これからいよいよバカンス本番だ!!


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