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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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第55話

 ヴェノムダストスライムは、自身が消滅の危機に瀕していると察し、行動に出た。


「お? なになにこいつ」


 分裂。いくつもの『黒いスライム』となり、エルレインたちに襲い掛かった。

 ヴェノムダストスライムは、これまで取り込んだ武器や防具を再現する。

 剣、盾、槍、弓の鏃、包丁や鍬など、形状は多岐にわたる。だが、粘液部分を硬化させ、鋼鉄以上の硬度となった武器は、エルレインたち人間の身体には容易く刺さる。

 これまでと同じ。

 肉は柔らかい。簡単に裂け、溶ける。

 ヴェノムダストスライムは、いつものように肉を処理しようとした。


「『凍結剣』」


 エルレインに襲い掛かったスライムが、一瞬で凍り付いた。

 そして、石のようにゴロゴロ転がり、エルレインは踏みつける。


「はあ? 凍るの早すぎ。まあ……スライムだし、こんなものね」


 無数のスライムが襲い掛かるが、エルレインの冷気に触れるだけで凍り付き、地面を転がる。エルレインは言う。

 すると、足元に落ちていた『凍り付いたスライム』に、いくつもの糸がくっついて引き寄せられた。

 引き寄せたのは、スティンギール。

 指先から伸びる無数の糸。それが、くっついたスライムを振り回し、襲い掛かって来るスライムを薙ぎ払っている。


「ふむ、形状を自在に変化、さらに硬度も変えられる。実に興味深い……」

「こら、あたしの獲物取らないでよ」

「人聞きの悪い。落ちていたものを再利用しているだけですので」

 

 水の糸が、凍り付いたスライムを鈍器のように振り回し、向かって来るスライムを全て撃ち落としている。

 全てスティンギールの意思で操作しているのだが、そうは感じさせない気楽さがあった。スティンギールは静かに観察し呟く。


「……妙ですね。異形ではありますが、元はスライムであることは間違いない。スライムなら、粘液状の体内に核があるはず」


 だが、それらしきものが見えない……すると、スティンギールの脇を、深紅の踊り子、キュレネが通り過ぎた。


「『炎蝶蘭のファイア・トゥ・パピヨン・ダンツァ』」


 スキル『スピンドル』、『クラシックターン』、『ノックトゥキック』、『エレガンスクルーズ』……合計四つのスキル連続発動。それらを一つとし、一つの工程で発動させる。

 さらに、キュレネの着ているドレスは特別製。討伐レートSSの魔獣『インフェルノムート』という強大な力を持つ炎属性のヒツジ、その体毛で織ったドレス。

 ドレスの装飾が擦れ合うと火花が散り、ドレスが燃える。

 だが、キュレネ自身は燃えない。踊ることで火を飛ばし、自身は燃えず、周囲を燃やす。

 スライムが燃え、消滅するのを見届け、キュレネは止まる。


「あら、この程度の弱火で燃え尽きてしまうなんて……ふふ、まだまだ披露したい踊りは山のようにあるのよ?」

「どらあああああああああ!!」


 すると、キュレネの耳に大音量の声……ファルカだ。

 ファルカはジャブを連射し、飛び掛かって来るスライムを全て撃ち落としていた。


「いいなこいつ!! 群れでの戦い、修行にピッタリだぜ!!」


 キュレネが「うるさいわね……」と嫌そうな顔をするが、ファルカは無視。

 両拳を掲げ、地面を思い切り叩いた。


「『大地爆振』!!」


 ズドン!! と、中央交差路が揺れた。

 人間離れした怪力が、地属性魔法と変わらない威力を発揮した。

 これには、スティンギールも言う。


「ファルカ!! 大技はダメだと決めたでしょう!! あなたの馬鹿力が発揮されたら、この地下は崩落しますよ!!」

「やべ、そうだった!! みんなワリーワリー!!」


 パン、と手を合わせてみんなに頭を下げる。

 すると、周囲にいくつもの『雷球』が浮かび上がり、パチパチと爆ぜる。

 アストライアが、杖を手にして言う。


「そ、その……いちおう、魔法で周囲の構造を固めたから、崩れはしないと思う。えへ、えへへ……」


 雷球は、一つ一つが眼球ほどの大きさ……それが、千個は浮かんでいた。

 そして、アストライアの背後に、巨大な紫電の球体が浮かんでいる。そこからさらに、眼球ほどの雷球が生み出される。

 スティンギールは「ほう」と眼鏡を上げる。


「久しぶりに見ましたね。アストライアの『雷月』……昔よりも大きく、『イカズチの眼』も増えていますね」

「え、えへへ……あの、一気にやっちゃっていいかな?」

「どうぞ、ボクは構いませんよ」

「あたしもいいよ。こいつら臭いしキモイ」

「私もいいわ。ふう、終わったらお風呂に行かなきゃ」

「えー? オレ、もっとやりたいけど」


 ファルカの反対意見にアストライアはワタワタしたが、スティンギールが「構いませんので」と言うので、ウンウン頷いて杖を振った。

 すると『イカズチの眼』が一気に発射され、全てのスライムたちが撃ち落としされる。

 そして、アストライアの背後に浮かんでいた『雷月』が、ヴェノムダストスライムの本体を包み込み、雷の熱で一気に焼き尽くした。

 ヴェノムダストスライムは消滅……だが、喜ぶこともなくスティンギールが言う。


「……やれやれ。どうやら、ボクの仮説は正しいようで」

「え、なに、どゆこと?」


 エルレインが首を傾げる。スティンギールが言う。


「このスライム……本体ではないようです。理由は核が存在しないから……ですが、肉体の大部分は消滅したことに違いない」

「……つまり、本体は別にいると?」


 キュレネが言うと、スティンギールは「恐らく」と頷く。

 

「スライムの核が存在しない時点で、間違いないでしょう。ふむ……思った以上に知能があるスライムなのかもしれませんね」

「おいおいおい、どーすんだよ」

「さ、探すしかないの、かな……?」


 ファルカ、アストライアも困惑している。

 だが、スティンギールは首を振った。


「……恐らく、このスライムは囮。本体はもう、下水道に乗って外に出たか……それとも」


 なんとなく、スティンギールは確信していた。


「もう、この世に存在していないか。でしょうね」


 ここにいない『教官』が何かをしている。そんな気がしていた。



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