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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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第54話

 それから、レグナフィリアが冒険者ギルドに指示し、いろいろ動き出した。

 マルセリア王国王家からの命令により、下水道への不法投棄を全面禁止。引退した冒険者たちによるパトロール。排水口の前にろ過装置を設置。二枚貝や海藻を植えたりした。

 生ゴミとかは、一時的に冒険者ギルドの真下にある『中央交差路』へと投棄……このためにわざわざ、冒険者ギルドの真下に専用の穴を掘った。

 まあ、これからは町はずれにゴミ処理場を作り、そこにゴミを捨てるようにするらしい。

 レグナフィリアの知り合いの商会が「これはいい仕事になる」と、ゴミ収集の事業を始めるとかなんとか……まあ、好きにやってくれ。

 とりあえず、一時的に水汚染は止まり、冒険者ギルドの真下には町中の生ゴミが集まり出した。

 そして、生ゴミを集めて数日後。


 ◇◇◇◇◇

 冒険者ギルドの真下にて

 ◇◇◇◇◇


 それは、巨大な『黒く蠢くモノ』だった。

 一言で表現するなら、異常に成長した黒いスライム。だが……その大きさは、直径十メートルを超え、横幅もそれ以上に大きい。

 黒い粘液を放出しながら、ズルズルと身体の大きさを変え、這うように下水道を進んでいく。


『エサ、ナイ』


 スライムが思考することはない。

 だが、この黒いスライムは僅かな思考能力を持っていた。

 突然変異なのかは不明。だが、小さな雑魚魔獣であるスライムが下水道に入り込み、そこで生ゴミを喰らい続け巨大化し、異常な進化をしたことに違いない。

 ヴェノムダストスライム。

 推定討伐レートS。このまま喰らい続け、進化を続ければ、更なる思考能力を得て、独自の能力を発現させ、『ネームド』と呼ばれる特殊魔獣へと進化する可能性は非常に高い。

 

『エサ、ニオイ、スル』


 下水道は、餌の天国だった。

 肉や野菜、魔獣の肉や骨、よくわからない薬品や、いらなくなった武器防具がそのまま投棄されることもあった。

 だが、ここ数日……エサが来ない。

 所々にエサは落ちていたが、微量だった。もっともっとエサが欲しい……そう思い、ヴェノムダストスライムは移動を続けた。

 そして、とてもニオイの強い場所……冒険者ギルドの真下へと到着。

 そこには、大量の『エサ』があった。

 生ゴミ、魔獣の死骸がたくさん……そして。


「お、来たわね」

「うっ……酷い匂い」

「そうか? 昔、もっと臭いのあっただろ? あの沼とかさ」

「ふむ、形状から察するにスライムですか。異常成長……興味深いですね」

「あ、あのみんな。本当にもう大丈夫だよ? その、わたしやるよ?」


 新鮮なエサが五匹、いた。

 だが、そのエサは一斉にその場から消えた。

 ヴェノムダストスライムは、その逃げたエサよりも、目の前にある大量の生ゴミに喰らい付く。

 喰らい付く、というよりは覆いかぶさるように。そして、エサはジュワジュワと溶けるように吸収され、消えていく。


「おー、さらにデカくなったな!! なあなあスティンギール、なんで現れた時に倒しちゃダメなんだ?」

「もちろん、冒険者ギルドの真下に、こんな生ゴミを残しておけないからですよ。全て喰らわせてから討伐した方が、掃除の手間も省ける」

「ねえねえキュレネ。あんた、そんな赤いドレスで戦えるの? ここ、下水道よ?」

「馬鹿にしないでくれる? 私は踊り子だけど、冒険者……それに忘れた? 冒険者は、どんな状況だろうといつも通り動けるの」

「ま、そーだったわね。あたしたち、臭いのは嫌だけど、それだけで動き鈍るような鍛え方してないわ」

「ええ。だって、コーチの教え子ですもの」


 エルレインが剣を抜くと、青白い冷気が纏わりつく。

 キュレネが軽くステップを踏むと、ヴェールに炎が絡みつく。

 ファルカが拳を打ち付け、地面を踏みしめると亀裂が入る。

 スティンギールが指をパチンと鳴らすと、十本の指から百以上の水糸が現れる。

 アストライアが杖を握って小さく呟くと、紫電が発生し、小さな紫色の玉がいくつも浮かび上がる。


「五人でやるの、めっちゃ久しぶりねー」

「そうね。ふふ、エルレイン……今だけ、昔みたいに共闘しない?」

「おいおいおい、オレも混ぜろって!!」

「やれやれ。いつも後ろでサポートするのはボクですか」

「み、みんな、仲良くやろうよ、ね?」


 アルノーの教え子にして、今を代表するマルセリア王国最強のS級冒険者。

 『凍刃』、『舞姫』、『鬼王』、『天鎖』、『雷月』の五人は、ヴェノムダストスライムとの戦闘を開始した。


 ◇◇◇◇◇

 一方、アルノーは

 ◇◇◇◇◇


「ああ、いたいた」


 現在、俺は町はずれにある下水道の小空間にいた。

 中央交差路に比べたらかなり小さい。そもそもここは大雨とかで増水した場合、一時的に水のタンクみたいになる場所だ。中央交差路に比べたら広さは半分以下……そもそも、こういうタンク的な場所は他にもある。

 広さは……まあ、学校の体育館くらいかな。

 そこに、漆黒の、二メートルほどの塊が、壁を必死に溶かしていた。


「いると思ったよ。魔獣の本体が」

『…………』


 黒い塊、たぶんエルレインたちが戦っているのは巨大なスライムみたいなやつだ。で、これはその『核』部分。

 

「スライムってのは、アメーバ状の身体に命である核が内臓してる魔獣だ。核を潰せば消滅する……」

『……なぁ、ぜ、ここぉ、にぃ?』

「おお、喋った。異常個体はホントすごい進化するな。放っておけばSS……いや、それ以上の進化をするかも。ああ、どうしてか気になるか?」


 俺はフル装備だ。愛用の剣を腰に差し、冒険者装備でこの場にいる。

 ポーチから地図を出し、広げて見せた。


「違和感があった。見ろよ……スーリヤの下水道ってのは、かなり入り組んでる。で、な~んか移動のルートに違和感があってな……調べたんだよ」

『……』


 俺は、地図に赤いマークを付け、そこを指で差す。


「下水道に生ゴミが残っている個所がいくつかあったが……そこのゴミはしばらく放置して、非常用か、オヤツみたいに取っておいたんだろ?」


 知能がある。それだけで、俺はこいつが『考えて』いることを理解した。


「数日に一度、そこのルートを通って残した生ゴミを回収……そう、お前はこの下水道を全て把握し、独自のルートを考え、日数ごとに決められたルートを通ってエサを食ってる。恐らく、七日分くらいのルートがあるんだろ。湖に出るのは、気分転換なのか、それとも新鮮な魚でも食ってたのか……」


 ここまで言うと、漆黒のスライム……ふむ、ブラックホールスライムとでも名付けるか。ブラックホールスライムは壁を溶かすのをやめ、俺に向き直る。


「で、ここ数日全くエサが降ってこない。もしかしたら……自分を討伐するために、人間たちが動き出したのかと考えた。そして、自分の核の一部を使って、身体の大部分を渡して囮を作り、自分はこの町はずれにある、人間たちですら来ないであろう場所へ来た」

『…………』

「何をしに? 決まってる」


 俺は剣を抜き、肩で担ぐ。


「逃げるため。ここは、町はずれだが川も近い……逃げるにはうってつけだ」

『……くひっ』


 すると、ブラックホールスライムはグネグネ動き出し、漆黒の剣を手にする異形のゴブリンみたいな形状へと変わった。


「なるほどね。お前が食った魔獣の姿か? その姿……ナイトオーガ、オーガの騎士か」


 俺は剣を構え、ブラックホールスライムに言う。


「教え子たちも頑張ってる。俺は俺で、やらせてもらおうか」


 さて、バカンスを楽しむために……邪魔なこいつには消えてもらいますかね。



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