第53話
再び全員で集まった。
場所は冒険者ギルドの会議室。レグナフィリアの計らい……というか、高名な五人のS級冒険たちが「部屋貸して」と言って貸さない冒険者ギルドはこの世界に存在しないかも。
そして、『極星五傑』に俺、レグナフィリアと七人で話し合いを。
「って……おいレグナフィリア。なんでお前が? アルテミウスたちは?」
「ふふ。大人抜きで、子供たちだけで遊ぶのも必要でしょ? お小遣いあげたから、今頃みんなでお買い物とか、おいしいもの食べてるんじゃない?」
「まるでおばあちゃん……いや何でもない」
変なこと言うと殺される可能性あるし黙っておくか……うん、口は禍の元だ。
スティンギールが軽く咳払い。ちなみに司会進行を俺が任せた。
「それでは、湖の汚染について、集めた情報をまとめましょう」
それぞれが、調査した結果を報告する。
スティンギールは「やはり……」と、メモを見ながら言う。
俺に視線を向けたので、とりあえず頷く。
「教官もすでに確信しているようですね。アストライア……湖の汚染はずばり、飲食店のゴミ投棄です」
「……先生の言った通りなんだね」
「やっぱそうなのね。あたしとキュレネも思ったけど、飲食店街の裏通り、かなり臭かったわよ」
「ええ……華やかなな表通りとは違って、裏通りは飲食店関連の人しか通らないから、ニオイが当たり前になって気にならないのかも」
「確かに、下水道メチャクチャ臭かったぜ!!」
ちなみにファルカ、下水道を通って来たらしく合流時メチャクチャ臭かった……公衆浴場に叩きこんで綺麗にしてから来させたけどな。
ファルカは言う。
「間違いなく、何かいるぜ。倒すのはできると思うけどよ、下水道は狭いから、できれば地上に引きずり出したいところだぜ」
「つまり、やるべきことは二つ。一つは、飲食店にゴミの不法投棄を今すぐやめるよう周知すること。もう一つは、下水道に住み着いた汚染原因でもある魔獣の討伐ですね」
スティンギールが言う。
そう、問題は二つ。下水道のゴミ、そして謎の魔獣だ。
ファルカが挙手。
「そういや、下水道をけっこう回ったけど、ゴミとかそんなになかったぜ?」
「恐らく、謎の魔獣が餌にしているんでしょう。生ゴミの不法投棄をやめれば、餌の供給を絶つことはできるでしょうけど……」
「でもそれじゃ、餌を求めて魔獣が湖内に現れるのではなくて?」
「そうでしょうね。そこを叩く、という手もありますが」
「まあ、しばらくビーチは閉鎖しなきゃね。今はまだ町中の川だけで、湖内は魔獣がいた場所だけ汚染されてるみたいだけど、餌を求めるようになったら、あの広い湖内を泳ぎまくって、湖全体が汚染されるかも」
「ふむ……」
すると、レグナフィリアが俺に耳打ちする。
「子供たちの成長って、見てて胸が躍るわね」
「だな……」
俺の目には、まだ十五歳だった五人が、喧嘩しながら喋る光景が映っている……が、目の前にいるのはS級冒険者の五人。
子供たちの成長……俺は不思議と笑ってしまった。
「せ、先生……何かいいアイデア、ありますか?」
「ん? ああ、そうだな」
五人が俺を見た。
俺はこいつらの先生であり、コーチであり、教官であり、お師匠様であり、アルノーなのだ。頼られたら肩書関係なく助けたやるぜ。
「とりあえず、まずは汚染水だな。そうだなあ……当たり前だけど、まずは生ゴミだな。下水道には捨てないよう徹底すべきだ。レグナフィリア、なんとかできないか?」
「いきなり人頼み? まあ、私からすればあなたも子供だけど。そうねえ……スーリヤはマルセリア王国の管轄だし、王家に言っておくわ。『ゴミを下水道に捨てたら罰金、処罰の対象となる』って言えば、捨てることはなくなるでしょう」
「脅しっぽいけど、それくらいやればまあ……」
「あとはそうね……引退した冒険者たちに見回りとかしてもらって、不法投棄しないようチェックとかしてもらいましょうか」
そりゃいい。引退してヒマしてる冒険者とかけっこういるみたいだしな。
「あと、生ゴミとか堆肥にできるんじゃないか? この町、農業も盛んみたいだしな」
「……さすが教官ですね。あとは、現状の水汚染を何とかする問題ですが」
「そうだな。ろ過装置でも作るか」
「……ロカ? アルノー、なにそれ」
ろ過装置。
まあ、この世界じゃ馴染みはないだろうな。
「水が濁るのは、きったない物質が溶け込んでるせいだ。だったら、その不純物を取り除けばいい」
「……あ、あの先生。魔法、ですか? 確かに水魔法ならできますけど」
アストライアが恐る恐る挙手……まあ確かに、水魔法なら汚い水を浄化できる。
でも、それができるのは。
「いくらお前でも、湖全体の汚染を一人で浄化するのはムリだ。だから……大自然の力を借りる」
俺は部屋を出て、冒険者ギルドの受付にお願いをした。
それから十分ほどで、俺が頼んだものが用意された。
「「「「「……これは?」」」」」
お、五人の声が揃った。
テーブルにあるのは、砂、木炭、砂利。そして透明な上下に穴の開いたケースだ。
「このケースに、砂、木炭、砂利を入れて……」
バケツで汚染水を汲んでおいたので、それを上から流し込む。
すると、汚れを砂、木炭、砂利が吸着し、ケースの下部から透明な水が落ちて来た。
「まあ、魔法のいらない浄化道具だな。完全完璧ってわけじゃないけど、当面の汚染はこれでしのげると思う。これを大きくして、排水口にセットしておけばいい」
町の川は、湖から引いている。汚染水は町で浄化され、また湖に戻る。
「あとは……水草を植えたり、二枚貝とかを湖に入れるとかだな。水草や貝類は水を浄化してくれるからな」
「なるほど……即効性はもちろん、長い目で見れば水草も二枚貝も、湖の汚れに対処できる」
スティンギールが言い、俺は頷く。
「ああ。でも、これはあくまで対症療法だ。大本である魔獣を倒さないと、汚染は続く」
「つまり、魔獣をおびき寄せる、ってわけですね。コーチ」
「そうだな。方法は……」
と、俺が案を出そうとするとファルカが挙手。
「そういやお師匠様。下水道歩いてたら、メチャクチャ広い空間ありましたけど……そこに魔獣をおびき寄せたりとかできないですかね」
「メチャクチャ広い……ああそうか、恐らく」
俺はスティンギールの地図を見て、指を差す。
「ここだな。この『中央交差路』だ。ていうかお前、こんな下水道のど真ん中まで歩きで行ったのか……」
下水道の中央にある広大な空間。大雨とかで増水しても、ここに水が流れ込み、下水道を経由して湖に排出される仕組み……この下水道を設計した技術者、たいしたもんだ。
そして、黙っていたレグナフィリアが言う。
「へえ、ここ……冒険者ギルドの真下じゃない。恐らく、ギルドの地下室から下水道に行くことができると思うわ」
「じゃあ、そこに誘いこもうぜ!! へへ、小難しい話ばっかりだけど、あとはもう戦うだけだな!!」
ファルカがパシッと拳を合わせる。
俺は少し考え……頷いた。
「じゃあ、スティンギール。まとめてくれ」
「はい。教官」
こうして、『スーリヤ汚染水問題』を解決するための作戦が完成したのだった。




