第50話
さて、釣り対決はスティンギールの圧倒的勝利で終わった。
「教官とのデート、ですか……では、近いうちに、古書店に付き合ってください」
「お、そりゃいいな。行く行く」
「「ぐぬぬ……」」
「あーあ、負けちまったぜ!!」
「ううー……」
他の四人は悔しがっていた。
俺は苦笑し、落ちていた平べったい石を拾い、アンダースローで湖に投げる。
すると、石は五回ほど跳ねて沈む。
「さーて、釣った魚でも……って、どうした?」
「「「「…………」」」」
「お、お師匠様……今の、何ですか?」
「は? 何が?」
「いや、石を」
水切りのことか? ていうか……別に説明することもないし、子供ころは誰もが……って、そうか。この世界の子供、平べったい石を拾って池とか投げるなんてことしないのか。
俺は平べったい石を拾い、回転させるように投げた。
石は水を跳ね、六回ほど跳ねると沈んでいく。
「水切りっていう遊びでな。平べったい石を回転させるように投げると、水の上を跳ねるんだ。子供の頃、近所の友達と跳ねる回数を競って遊んだっけなあ」
「面白そう!! お師匠様、オレもやります!!」
「あ、あたしも!!」
「ねえ、これを真の勝負にしない? 一番多く跳ねた人が、コーチとデート!!」
「い、いいですね。わ、わたしも参加します」
「……ボクはもう勝者ですので。やるなら四人でどうぞ」
四人は石を拾う。
ファルカが振りかぶって投げたが、跳ねることなく沈んでいった。
「あ、あれー? くっそ、オレが一番パワーあるのに!!」
「ふふん。あたしは理解したわ。これはパワーじゃなくテクニック!!」
エルレインが横回転をかけながら投げると、二回ほど跳ねた。
「なるほど、ね」
キュレネが美しいモーションでサイドスローで投げる……すると、四回跳ねた。
勝ち誇ったようにエルレインを見てニヤリと笑う。エルレインが歯をギリギリ食いしばって女にあるまじき表情をする。
「え、えいっ」
ボチャン……と、アストライアの投げた石は跳ねることなく落ちた。
それから、俺とスティンギールを無視して、四人は水切りに夢中になる。
「……教官。どこか、カフェでも行きませんか? 少し喉が渇きました」
「だな。あっちは燃えてるし……まあ、勝者とデートくらいはしてやるか」
俺とスティンギールは、ボート乗り場併設のカフェに入る。
三十分ほど、お茶を飲みながら最近読んだ本について喋っていると。
「ああああああああああああああああ!! なんで十回の壁を越えられないのよ!!」
「くっそ……エルレインと同じ回数なんて!!」
「ううう、ゼロ回……」
「オレ、五回だぜ!!」
回数を聞くと、エルレインとキュレネが九回、ファルカが五回、アストライアがゼロ回だ。
「あたしの方が勢いよく跳ねたし!!」
「はああ? そんなの関係ないわ。むしろ、美しい跳ね方をしたのは私の方よ!!」
顔を見合わせて睨み合う二人……ほんと犬猿の仲だな。
すると、スティンギールがため息を吐き、平べったい石を拾う。
「まったく、実に醜い……フッ」
スティンギールが石をサイドスローで投げると、なんと二十回以上跳ねた。
「「……え」」
「このような児戯。原理を理解すれば簡単でしょう」
「「「「…………」」」」
スティンギールは何の興味もなさそうに、スタスタとボート乗り場から去るのだった。
いや……スティンギール、お前ほんと煽りの天才だよ。
◇◇◇◇◇
さて、勝負は終わり。
アルテミウスたちの様子を見に行くと、ちょうどレグナフィリアと一緒にいた。
「これからみんなで、私のおススメ料理店に行くの。ふふ……アルノー、あなたは久しぶりに会った教え子たちと、交流を深めるといいわ」
「……まあ、それもいいか。じゃあレグナフィリア、アルテミウスたちのこと頼むぞ」
レグナフィリアは、子供たちを引率する先生のような感じでアルテミウスたちを連れて行った……まあ、あいつなら大丈夫だろう。
というわけで、六人でメシを食うことにした。
「さて、俺のおごりでメシを食うか。もちろん、酒もありだ」
こういう時、食うのは決まってる。
「てわけで……焼肉に行くぞ!!」
「よっしゃ!! 肉!!」
「やったあ!!」
ファルカ、エルレインは大喜び。
キュレネ、スティンギール、アストライアも了承。
そして、スーリヤの郊外の牧場で育てた牛を使った焼肉店に来た。
個室に入り、肉を大量に注文。鉄板の上でいっぱい焼く。こういう時、俺は焼く係だ。
「ほれファルカ。でっかい肉焼けたぞ。エルレインも。スティンギール、野菜もいいけど肉食え肉。キュレネはこっちの脂身少ないやつ。ほらアストライア、遠慮なく食え」
仕切り屋と呼ばれても甘んじて受け入れよう!!
みんなはむしゃむしゃ食べてる。俺はひたすら焼く……全然食えてないけど、正直こういうの嫌いじゃない。
「ね、アルノー。明日は何するの?」
「そうだな。キャンプとかもしたいけど……その前に、アストライアの問題を片付けるか」
「あ、ああ……はい。その~……ほんとにいいんですか、先生」
「俺は手伝うぞ。お前の問題を早く片付ければ、そのぶんお前も早く休めるしな」
「先生……」
すると、エールを一気飲みし、エルレインが言う。
「しゃーない。あたしも手伝うわ。アストライア、感謝しなさいよー?」
「あら、仕方ないのなら手伝わなくてもいいわよ。私がコーチとお手伝いするから」
「当然、オレはやるぜ!! へへ、なんか面白そうだしな」
「……はあ。頭脳担当がいないと、教官の負担が酷いことになりそうだ」
どうやら、全員手伝ってくれるようだ。
アストライアは俯き、耳を赤く染めて小さく言う。
「あ、あ……ありがとう、みんな」
同期の絆、か……俺も同期のグレースに感謝しないとな。
アストライアはフォークを置いて言う。
「改めて……わたし、水質調査を依頼されたの。依頼主は、この町の町長さん。湖全体が、少しずつ汚染されてるみたいで、その原因を探ってほしいって」
話によると、湖の色がおかしくなったり、ニオイが酷いところがあるらしい。
で、おかしいのは『ニオイ』が移動すること。
「た、たぶん……ニオイの原因、魔獣だと思う。何らかの原因で、汚染の原因となった魔獣が、湖のどこかにいるのかも。あの、さっき……エルレインが針でひっかけた魚とか、怪しいかも」
「え、マジで?」
「た、たぶん……だから、ニオイのあるところや、汚染個所を調査する。えっと」
アストライアはメモ帳を取りだす。
「北区、西区、南区、東区……ニオイの場所、全部チェックする。明日から始めます……先生、みんな、分担してお願いしていい?」
「もちろん。よーし、久しぶりにみんなで仕事だな」
こうして、アストライアのお手伝いをみんなですることになるのだった。




