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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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第49話

 さて、ボート乗り場の前で騒ぐと迷惑なので、十五人乗りのデカい幌付き船を借りて湖に出た。観光クルージングとかするための船も借りれるのはありがたい。

 誰が操縦するのか? まあ、答えは簡単。


「大丈夫か、スティンギール?」

「全く問題ありません」


 スティンギールの『傀儡聖』は、あらゆるものを操作する。この世界にないけど、ジェット機とか戦車とかも操縦できたりして……ちょっと興味あるな。

 そして、湖の真ん中あたりで止まる。

 ファルカはさっそく釣竿の用意。エルレイン、キュレネ、スティンギールも慣れた手つきで釣竿を組み立てる。

 餌釣りで、ミミズみたいな虫を針に刺すのだが……さすが冒険者。みんな全く意に介することなくミミズを針に刺している。

 ちなみに、俺特製のルアーとかもあるぞ。

 アストライアには俺の予備釣竿を貸した。ああ、話は少し釣りしてからってことになった。


「なあみんな、勝負しようぜ!! 一番デカい魚釣ったら勝ちな!!」

「イヤよ。ガキじゃあるまいし」

「そうよ。釣りはゆっくり、心穏やかにするものよ」

 エルレイン、キュレネが拒否。でもまあ、この五人がこうやって集まると、つい昔を思い出してしまうな。


「はっはっは。まあいいじゃないか。昔みたいでな……そうだ。じゃあ、この中で一番になったら、俺が一日デートしてやろう。なんでも好きなことに付き合ってやるぞ」


 まあ、こんな冴えないD級冒険者の、元指導員が何言ってんだって話だが。

 するとエルレインたちの目の色が変わった。


「オラァ!! アンタらこのあたしに勝てると思ってんの? は、勝負勝負勝負!!」

「無知で野蛮、下の下。この『舞姫』に勝てるとお思いかしら?」

「……先生、スキルはなし? わたし、本気だす」

「お、みんなやる気じゃねぇか!! へへ、オレだって負けないぜ!!」


 な、なんかみんな燃えてる。

 すると、餌をつけ終わったスティンギールが言う。


「前にも言いましたが教官。あなたは自己評価が低すぎますよ?」

「……えーと、なんかすみません」

 

 こうして、俺の元教え子たち『極星五傑(グラン・ステラ)』の釣り対決が始まるのだった。


 ◇◇◇◇◇


 さて、開始から五分。


「おや、またですか……はあ、読書する暇もない」

「「「「…………」」」」


 スティンギールは早くも四匹目。ゆっくり読書しながら釣りをしようと思っていたのだろう、だが魚の食い付きがよく、全く休むヒマがない。

 一方、エルレインたちの竿には何の反応もない。

 エルレインが言う。


「あんた、スキル使ってないわよね……」

「心外だな。ボクは別に、教官に付き合ってもらってまで余暇を過ごそうなんて考えていない。湖上で釣りをしながら、船上で読書でもと思っていたのですがね。どうやら、欲深き物たちの針は、魚を遠ざける効果があるようだ」

「ぐぎぎ……ムカつく」

「むうう……スティンギール」


 エルレイン、キュレネがスティンギールを睨む。その視線を無視し、スティンギールは釣った魚をバケツに入れ、新しい餌を付けて再び投げる。

 ファルカは、欠伸をしながらアストライアに言う。


「なーアストライア。お前の仕事、そろそろ何か教えてくれよ」

「え、あ……まあ、うん」


 アストライアは、俺と釣竿を交互に見て頷いた。

 そして、釣竿を握りながら、湖上を見つめて言う。


「その……湖の水が汚染されてるみたいで、その調査に来たの」

「汚染? 汚れてるってことか?」


 ファルカが首を傾げる。後ろではスティンギールが「はあ、またですか」と竿を引き、デカい魚を釣り上げていた。

 俺は水筒からお茶を注いで飲みながら言う。


「湖の汚染って……そりゃ、湖水浴とかボートを出したりしてるんだ。多少は汚れる物じゃないのか?」

「え、ええ。でも……どうやら他にも原因があるみたいで。えと、その……たまたま動けるのがわたしだけだったので、一人で調査を」

「お前だけ、って……お前はマルセリア王国の賢者だろ? 部下とかいないのか?」

「む、無理です。わたしみたいな、人見知り……」


 そうだった。アストライアは極度の人見知り。同期の五人ですら、まだしっかり話すことができない場合もある。

 ぶっちゃけ、チームよりソロのが得意……というか、好きなのだろう。

 ファルカは言う。


「んで、原因は?」

「ま、まだわからないの。わたしも、調査を始めたの、さっきだから」


 なるほどね。

 湖の汚染か……バカンスするのに、水が汚染されてるなんて知ったら、気持ちよくバカンスできないな。


「よし。アストライア、俺も手伝おう」

「え」

「聞いちまった以上、手伝わないわけにはいかないだろ。それに、早く終わればお前も遊ぶ時間があるんじゃないか?」

「で、でも。その……先生のお手を煩わせるのは」

「気にすんなって。まあ、俺にできることなんて大したことじゃないかもだが」

「そんなことないです!! えへ、えへへ……先生が一緒にいてくれるだけで、わたし、すっごく嬉」

「きたあああああああああああああ!!」


 と、エルレインのデカい声でアストライアの声がかき消された。

 見ると、エルレインの竿があり得ないくらいしなっている。それに、船の下を見ると……なんと、船よりデカい黒い影が、ヌッと現れた。


「おいおいおいおい、なんだこの影……」

「アルノー!! こいつ釣ればあたしが勝ちよね!!」

「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」


 黒い影は、浮上するにつれてどんどんデカくなる。エルレインの針は間違いないくこいつに引っ掛かっている。

 大型バスよりも遥かにデカい小型ジェット機みたいな大きさの影。すると、エルレインの糸が切れ、黒い影も沈んでいった。


「あああああ!! あたしの獲物おおおおおおおお!!」

「……いやはや、でかい。今の何だったんだ?」

「…………」


 アストライアは、無言で湖をジッと見ていた。


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