第48話
さて、レグナフィリアの奢りでメシを食った翌日。
俺は別荘のソファに座り、のんびりお茶を飲みながら新聞を読んでいた。
「ふぁぁ……ねっむ」
昨日は少し飲み過ぎた……レグナフィリアの奢りだし、高い酒も飲んでいいって言うから遠慮なく飲んでしまったぜ。
解散したあとは、キュレネとエルレイン、スティンギールとファルカの五人でバーで酒を飲んだ。んで、エルレインと約束した。
『ね、明日は何するの?』
『いちおう、釣りする予定だ。西区にボート乗り場があって、湖で釣りできるみたいだしな』
『じゃあ、あたしも行く。いい?』
『別にいいぞ』
『あら、面白そう。私も行くわ』
『オレもオレも!!』
『ボクも興味がありますね』
『ちょっとあんたら、真似しないでよ!!』
という感じで、俺の教え子たち四人と湖で釣りをする。
ちなみに、アルテミウスたちは北区のビーチで、レグナフィリアを保護者に泳ぎまくるそうだ。エリオが一人だけ男という、ちょっと羨ましい組み合わせ。
すると、玄関のドアがノックされる。
「お師匠様!! おはようございます!!」
「声デカい。あんた、もう少し抑えてよ」
「同感ね」
「奇遇ですね。ボクも同じ意見ですよ」
ドアを開けると、ファルカ、エルレイン、キュレネ、スティンギールがいた。
全員、釣竿を持っている。ちなみに俺の釣り道具は玄関に置いてある。
荷物を持ち、俺は全員に言う。
「さて。じゃあみんなで釣りに行くか。言っておくが、釣り場で騒ぎを起こさないように」
「子供じゃあるまいし。そんなことしないわよ」
エルレインが言うと、スティンギールが眼鏡をクイッと上げた。
「大人ですが、子供のような振る舞いをするあなたは気を付けるべきですね。エルレイン」
「あ?」
「はいはいそこまで。スティンギール、エルレインを煽るなって」
「事実を述べているだけですが……まあ、いいでしょう」
「この野郎……」
「エルレインも。スティンギールの言うことにいちいち反応するなって。さ、行くぞ」
「あの、お師匠様。どっかで昼飯を買っていったほうがいいんじゃないっすか?」
「安心しろ。俺の手作り弁当がある」
「コーチの手作り。ふふ、懐かしいですね。コーチって料理上手だから」
ふふん。そう言われると嬉しいね。
ちなみに、昼飯はかなりデカめのバスケットに入っているサンドイッチ。かなり食うと思って相当な数を用意してしまったぜ。
さっそく、俺たちは釣り場に向かって歩き出すのだった。
◇◇◇◇◇
まったくもって想定外だった。
「……あれ、先生?」
ボート乗り場は空いていた。いつもはにぎわっているが、日中は意外と空いてるらしい……みんなビーチで泳ぐからな。
で、ボートをレンタルして釣りを、と思ったら。
「あ、アストライア?」
やや猫背、長い紫がかったウェーブのロングヘア、猫背でわかりにくいがかなりの巨乳、胸がムレるのが嫌で着ている風通しのよさそうな薄手で胸元が開いたロングワンピース、そしてマルセリア王国で最も優れた魔法士が着用を許される『賢者』のローブを纏い、魔女みたいな大きな三角帽子を被った、やや顔色の悪い女性。
マルセリア王国主席魔法士にして『賢者』であり、S級冒険者でもあり、恐らくマルセリア王国で一人だけの『魔法聖』のジョブを持つ、俺の元教え子。
アストライア。確か、賢者としての称号もあるから『アストライア=トリスメギストス』か。が、大きな杖を手にボート乗り場にいた。
アストライアはポカンとして、すぐに笑顔を浮かべ、すぐに沈んだ顔をする。
「……え、えへ。せ、先生。それに、み、皆さんも……ど、同期で遊んでいたんですね。あ、あはは……」
アストライア、こう見えてかなり人見知り。というか……けっこう暗黒面がある。
すると、エルレインが言う。
「久しぶりね。てかあんた、ここで何してんの?」
「え、えと……お、お仕事で」
アストライアはペコペコ頭を下げる。五人の同期の中で一番引っ込み思案。そもそも、この四人のキャラが濃いから、アストライアは自分で何かを提案したり言い出すことは全くないんだよな。
俺は釣竿を肩にポンポン叩きながら言う。
「そういえば、レグナフィリアが言っていたな。マルセリア王国王家の依頼で、お前が来てるって。マルセリア王国最強の魔法使いで『賢者』のお前が直々に出るなんて、何か面倒なことがあったのか?」
「え、えへへ……その、はい」
なんともしまらない笑みを浮かべていた。
ちなみに、エルレインはこういう笑い方が嫌いなのか、ムスッとしてアストライアに近づき、頬を軽くつねる。
「あひゃひゃ、え、えりゅれいんさ」
「あんた。その締まらない笑い変わってないわね。ほら、真っ直ぐ立って、猫背ダメ」
「あうう」
「やれやれ。世話好きなことだ」
スティンギールが呆れる。
そして、ファルカがニカッと微笑み、アストライアの元へ。
「ま、会えて嬉しいぜ!! へへ、同期の五人が揃うのなんて、十年ぶりだよな!!」
「じゅ、十年? あれ、そう、だっけ……? で、でも……うれしいです」
ちなみに、こいつら全員二十二歳で、初めて会ったのは十五歳の時なので、どう考えても七年以上ではない。キュレネは訂正するのが面倒なのか、そのまま流れで言う。
「アストライア。あなた、お仕事はいつまで?」
「えと。問題解決するまで……」
「問題ですか? ふむ、その問題……スーリヤにとってまずい問題ということですか?」
「う、うん」
アストライア。実はけっこうスティンギールが苦手。嫌いというわけではなく、ズバズバ斬り込んでくるタイプの話し方は怖いらしいのだ。
俺はスティンギールの代わりに言う。
「アストライア。何か協力できるか?」
「え……でも、これ、その、わたしのお仕事だし……先生にご迷惑をおかけするのも」
「気にすんな。ていうか、マルセリア王国最高の賢者に、俺みたいな冴えないおっさんD級冒険者が何言ってんだとは思うけどな」
「そんなことない!!」
と、ファルカよりもデカい声でアストライアが叫び、一同びっくりする。そして、アストライアは俺にいきなり抱き着いてきた……え、なんで。
「先生は、先生は、わたしにいろいろ教えてくれた恩人!! 冒険者の等級とか関係ないです!! 先生は、先生は、わたしの恩人ですうううう!!」
「お、おうわかった。わかった。目立つ、目立つって」
「ちょ、は、離れなさいよ!! てかアルノーもデレデレすんな!!」
「し、してないっつの!!」
「あ、アストライア。離れなさい!!」
「だっはっは。なあスティンギール、お師匠様ってやっぱすげえな!!」
「……話しかけないでください。同類と思われたくないので」
エルレインがアストライアを引き剥がそうとし、キュレネが俺の腕を引き、ファルカは馬鹿笑いし、スティンギールは微妙に距離を取っていた。
こうして、俺の元教え子たちが揃うのだった……ていうか、どういう状況だよこれは。




