第46話
歓楽街の帰り路。
「いやー……観光地ってすごい、うん。子供を連れて歩けないね」
スーリヤは『古都』ってイメージだったけど、歓楽街はまあ……いいところだった。
あくまで、確認しに行っただけ。まだまだバカンスは始まったばかりだし、最初からエンジン全開レッツゴーで行くわけにはいかない。
せっかくだ。ビーチの近くにカフェくらいあるだろ。冷えたエールでも飲みに行くか。
そう思い、歓楽街を抜けた時だった。
「あら」
「へ?」
絶対に、ここにいるわけはがないやつがいた。
「きゅ……キュレネ?」
なぜか、キュレネがいた。
赤いワンピースに帽子を被り、いかにもバカンスですみたいな感じで。
キュレネはにっこり微笑んだ。
「コーチ、また会えるなんて嬉しいです」
「いやいやいやいや、おま、なんでいるんだ?」
「ふふ。私もバカンス……というのは半分本当。実は、スーリヤで公園がありまして。前乗りして、少し観光しようかと」
「……そ、そうなんだ」
「ふふ。実は……コーチがスーリヤに行く、って言うから前乗りしようと思ったんです。まさか、到着してすぐに会えるなんて」
こっちも驚いた。まさか、キュレネがいるなんて。
するとキュレネ。何とも言えない表情になった。
「その、コーチに会えたのは嬉しいんですけど……コーチ、あいつに何か余計なこと、言いました?」
「あいつ?」
「ええ……」
すると、こっちに向かって誰か走って……いや、マジか。
「おおおおおおおおい!! キュレネええええええええええええ!! あ!! お師匠様ああああああああ!!」
デカい声を出しながらダッシュでこっちに向かって来たのは……ファルカだ。
前に別れた時と同じ、冒険者装備。
俺たちの前で急ブレーキをすると、抱拳礼で挨拶する。
「お師匠様、お疲れ様です!!」
「お、おう……いや、なんでお前まで」
「イヤだな、お師匠様が言ったんじゃないですか。『もっといろんな分野に手を出せ』って。だからオレ、お師匠様のマネをして『バカンス』することにしたんです!! そして、女の子……ヒマしていたキュレネを誘ってきました!!」
「……えっと」
何から言えばいいんだ?
キュレネはデカいため息を吐く。
「あのね。私はヒマしていないし、あなたのバカンスに付き合うために来たんじゃないの。たまたま目的地が一緒だっただけ」
「そうなのか? まあ、どうでもいいか。よしキュレネ。泳ごうぜ!!」
「あのね……まずは、宿にチェックインでしょ」
「そっか。じゃあ行こうぜ!!」
「え、お前たち……一緒に泊るのか?」
「ち、違います!! もう、コーチってば!!」
「オレは別にいいんだけど、キュレネが嫌だって言うんで部屋は別っす」
「あんたは黙ってなさい!!」
キュレネ……なんか苦労してそう。ちょっと申し訳ない。
「あのコーチ。この馬鹿はともかく、一緒に泳ぎませんか? その……水着、用意してきたので」
「そうだな……うん、少しくらい泳いだ方が、美味いエール飲めるかもな」
「やった。じゃあファルカ、宿に行くわよ。コーチ、場所取りお願いします!!」
キュレネは、ファルカを連れて宿へ向かって走り出した。
その背中を見送り、俺はビーチへ向かうのだった。
◇◇◇◇◇
ビーチでは、海の家みたいな建物があった。
そこで、シートやタープ、水着なども売っていたので購入。更衣室で着替え、ビーチへ。
「うおっ、暑いな……」
砂浜が熱い。サンダル越しでも砂の熱を感じる。
いい場所があったのでシートを広げ、ポールを立ててタープを展開する。
そして、しばらく待っていると。
「コーチ、お待たせしました」
「ん。おお……キュレネか」
真紅のビキニにパレオを巻いたキュレネがいた。
髪もまとめ、麦わら帽子を被り、荷物は小さなポーチだけ。
こうしてみると、かなりスタイルがいいな……って、俺はセクハラおじさんか。
「お師匠様、どうも!!」
「おう。お前さ、もう少し声のボリューム下げようぜ」
ファルカは、黄色いハーフパンツの水着だ。
上半身は裸だが……身体中に細かい傷があり、さらに細マッチョなのでかなりスタイルがいい。キュレネと二人で並んでいると、美男美女のカップルにしか見えない。
二人とも童顔だし……俺はこの二人の保護者にしか見えないだろうな。
荷物を置くなり、ファルカは言う。
「キュレネ、泳ぎに行こうぜ!!」
「……あなたの口から、そんな言葉が出るなんてね」
「へへ。オレもお師匠様の教えで変わったんだ。もっとお前のこと、知りたくてな。これからいっぱい遊んで、もっとお前のこと教えてくれ!!」
「…………ぇ」
いやいやいやいやファルカ、おま、天然なのかマジか。それ口説いてるじゃん!! キュレネもなんか満更じゃないの!?
ファルカは屈託のない笑みを浮かべ、キュレネに手を差し出してるし。
「……はあ。コーチ、この修行バカに何を言ったのですか?」
「いや、もう少し遊べって言ったんだが……うん、こいつは天然だな」
「……ですね。もう、しょうがないわね」
と、キュレネがファルカの手を取ろうとした時だった。
「ああああああああああああああああ!!」
デカい声が俺たちの耳を貫いた。
驚いて声の方を見ると……なんと、エルレインがいた。アルテミウスたち四人もいる。
エルレインは、俺たちを見るなりダッシュで向かって来た。
「ちょ、アンタら何してんのよ!! しかもアルノー、水着で、こいつらと遊んでんの!?」
「お、エルレインじゃん。久しぶりだな!!」
「うっさい修行バカ!! しかもキュレネ……アンタ、水着」
「……久しぶりも言えないのかしら。ふふん、見ての通り、コーチと遊んでいたの。あなたは……ああ、新人の指導? ふふ、頑張ってね」
「~~~っ!! みんな、あたしたちも遊ぶわよ。水着用意!!」
「やったー!! ねね、シャナ、水着だって!!」
「……ええ~?」
「おっしゃ!! 今日は依頼報告して終わりかと思ったけど、海で遊べるぜ!!」
「み、水着……だよね」
一気に騒がしくなってしまった。
キュレネと睨み合うエルレイン。二人を見て首を傾げるファルカ。エルレインそっちのけで海の家へ向かうアルテミウスたち。
俺はこっそりその場を離れようと、タープから出た……すると。
「おや、教官ではありませんか」
「……なんでお前までいるんだよ」
なぜか、ラフな格好をしたスティンギールが、数冊の本を手にして歩いていた。
ほんともう、バカンス始まったばかりなのに疲れたよマジで!!




