第45話
さっそく町へ出てみた。
古い街並みだ。でも、観光客が多く、古いながらも新しい物が多くあるような、活気がある……こういうの大好き。
まずは昼飯。キョロキョロしながら歩いていると、おばさんに声をかけられた。
「そこのお兄さん、キョロキョロしちゃって、何をお探しだい?」
こういうとき、美人に声を掛けられるのはラノベや漫画の常識だが……俺に声をかけてきたのは、パーマヘアにエプロンのおばさんだ。うんうん、俺はこっちのがいい……いやおばさん好みってわけじゃないけど。
「しばらくここに滞在する予定なんでね。観光しつつ、美味いメシと酒が楽しめる店を探していたんだ」
「ほほー、それならウチはどうだい? スーリヤの湖畔で旦那が釣った魚に、近隣の牧場で育てたミートカウのステーキが売りさ。お酒も、スーリヤの水で育てた天然のエールポップのお酒が揃ってるよ!!」
商売上手な奥さんだ。うん、悪くない。
「じゃあ案内よろしく」
「はいよ。お前さーん、お客さんだよー!!」
と、おばさんのすぐ後ろにあるレンガ積みの倉庫みたいなところが店のようだ。
大きく口を開けたような入口で、店内には木製ではなく石製の椅子テーブルが並んでいる。カウンターキッチンでは旦那さんらしきスキンヘッドのおじさんが、豪快に中華鍋っぽいのを振っていた。
店内にはけっこう人がいる。席に案内され、おばさんに聞いてみた。
「このお店、長いのかい?」
「ああ。もう四十年さ。いやぁ、あの頃は苦労したねぇ」
「へー……あ、じゃあおススメを頼む」
「あいよ!!」
注文し、届いた料理。
鮎の塩焼き、牛ステーキ、キンキンに冷えたエール、そしてパンだ。
まあ、異世界での名前はちゃんとある。わかりやすく言えばこんな感じだろう。
「おおお、こりゃいい。では……この世全ての食材に感謝し、いただきます」
鮎の塩焼きをフォークでほぐし食べる。
「うっま……なんて濃厚、でも淡泊、矛盾してるけど……うまい!!」
これまで食った魚の中でも、トップレベルにうまい。
ステーキは……これまたジューシー。スジがほとんどなく、牛ステーキというより鶏肉に近いけど、俺は鶏肉のが好きなのでこの肉は最高に美味い!!
エールで流し込むと、もう至りそうなくらい幸福だった。
「……うますぎる」
「そりゃ嬉しいね。お兄さん、おかわりどうだい?」
「頼む!!」
ジョッキをおばさん……いや女将さんに渡す。
並々と注がれたエールを受け取り、俺は一気に飲む。
「っぱああああ!! うっまい!!」
「いい飲みっぷりだねぇ。お兄さん」
「はっはっは。俺、もう三十五よ? お兄さんなんて柄じゃねぇって」
「あっはっは。あたしより年下じゃないかい。お兄さん、いい男だし、まだまだお兄さんで通るよ?」
「だっはっは!! 女将さんの旦那さんには負けるけどな!!」
「あったり前じゃないかい。あっはっは!!」
旦那さんが照れたように苦笑すると、店内が笑いに包まれた。
いやー楽しい。最初の店、ここにしてよかったぜ。
俺はエールを飲みながら女将さんに聞く。
「女将さん。俺、ここにバカンスしに来てるんだけど……見所あるかい?」
「もちろん。北区にある湖畔ビーチで泳ぐのもいいし、東区にある釣り区画では釣りも楽しめる。ここ西区だと飲み屋に時計台のある大聖堂、南区は商業が盛んだから買い物も楽しめる。スーリヤはどこ行っても楽しめるね」
「最高だな……もう住みたくなる」
「そういう人、かなり多いよ?」
ポータムからスーリヤに拠点を移すこと、真剣に考える……いや、やめておくか。
こういうところは、数年に一度来るから楽しいんだ。
すると、女将さんが少し表情を曇らせた。
「あーでも、今は南区でちょっとした問題起きてるらしいのよ」
「問題?」
「ああ。なんでも、水質がどうのこうの……あたしもよくわからないけどねぇ。なんでも、王都から魔法の研究者が来て調査してるとか」
エールを飲む手がピタリと止まった。
「王都の、魔法研究者?」
「ああ。なんだっけ……町長が大金支払って来てもらったとか。あー、ケツなんちゃらとかいう」
「……ケツ?」
ケツ、ケツ……あ、まさか。
「もしかして、五傑?」
「それそれ。まあ、よくわからないけど、王都のお偉い魔法研究者サマなら、どんな問題でもすぐ解決しちゃうだろうね」
王都の、極星五傑で、魔法研究者。
そりゃもう一人しかいない。
「アストライア。ふむ……挨拶する機会、あるかな」
◇◇◇◇◇
昼飯を食い終え、俺は北区にある湖畔ビーチにやってきた。
「おおおおおお……」
ビーチ。ていうか、なんかここだけ妙に暑い……なんで?
目の前に広がるのは綺麗な砂浜だ。そこに、水着の人たちが泳ぎ、寝そべり、酒を飲み、タープの下で昼寝をしている。
すごい光景だ。海じゃなくて湖なのに、まるで真夏のオーシャン……意味わからんよな。
でも、なぜかここだけ暑い。体感温度で三十度は間違いなく超えている。
喉が渇いたので、近くのドリンクショップで果実水を買い、定員のおじさんに聞いてみた。
「あの、聞いていいかな。西区から来た観光客なんだけど……ここ何でこんなに暑いんだ?」
「ははは。やっぱヘンだよなあ? オレら地元民もよくわかんねーんだ。なぜか北区は毎日真夏みたいに暑い。西区と東区はそこそこ暑くて、南区は涼しい。面白いことに、この北区には雨が降らなくて、南区では大雨が降る。だから、農地とかも南区にしかないんだ」
「へー……地形が関係してるのかね」
「さあなあ。でも、ここは年中真夏で、見ての通りバカンスを楽しむ連中にとっては最高の場所。オレらの商売も年中大忙しさ」
確かに、こう暑いと汗が噴き出るし、ドリンクは売れるだろう。
薄手の長袖でも暑い……半袖の私服、持ってきてたかな。
「兄ちゃん。一人かい? それなら……いい店紹介するぜ」
「お、なんだなんだ」
「へへ、金持ってるか? 北区はビーチだけじゃなく、歓楽街も盛んなんだ」
「ははーん? おっさん、あんたが店を紹介すれば仲介手数料もらえるんだろ?」
「まあな。で、どうする?」
「……聞いておいて損はないかな」
俺も男だ。決して枯れてるわけじゃない……お金を支払って楽しむこともある。
ドリンクショップのおっさんは「そうこなくちゃ」と、俺に歓楽街への行き方と、高級な『夜のお店』を教え、チケットみたいなのを俺にくれた。
このチケットを使って店に入ると、このおっさんに紹介手数料が入る仕組みだ。
「へへ、頼むぜ兄ちゃん」
「いい店だったら、あんたにお礼も兼ねて毎日行くかもな」
へへへ……せっかくだし、ちょ~っとだけ歓楽街を見に行ってみようかね。




