第42話
夕食後、スティンギールと別れた。
「では教官。いつかまた」と、礼儀正しく一礼して自宅へ……学者っぽいんだが、ああ見えてやっぱりS級冒険者で、しかも戦うと普通に強いんだよなあ。
スティンギールの『傀儡聖』は、俺には手に入れることはできないな。
「さて……帰るには少し早いな。でも、明日はスーリヤに向けて出発するし、今日は早く帰ってバカンスの予定でも考えようかなーと」
俺は宿へと戻り、部屋に入るなりメモ帳を取り出した。
まず「バカンスでやること」と書き、考える。
「昼寝、読書、釣り、酒も飲みたいな……ボート、いやソロでボートとか地獄すぎる。あ、ボート釣り。湖畔でボート出してそこで釣り……やべえ楽しい。となるとキャンプだな。よーし」
予定を立てるの楽しいぜ。
料理もキャンプっぽくやろう。わくわくするね。
「雰囲気次第では、俺も別荘欲しくなるかも……チート解禁してドラゴンでも狩って素材売却しちゃおうかな……なんて」
グレースの別荘もどんなところか気になる。
豪邸……なのかな。あいつ、金持ちだけど庶民的というか、必要最低限の物さえあれば困らないって感じだし、豪華なモンとか興味ないんだよな……吸ってる煙草も安モンだし。
「まあいい。ふふふ……バカンス、楽しみだ」
アストライアへの挨拶は、バカンス終わってからにしよう……どうせポータムに帰るときに王都を経由するしな。
この日、俺は遅くまでバカンスのプランを考えるのだった。
◇◇◇◇◇
翌日、宿で朝飯を食ってスーリヤに向けて出発することにした。
一度、軽くレグナフィリアに挨拶でもしようとギルドに向かっていると。
「いたああああああああああああ!!」
「え」
ギルドの前に、エルレインがいた。
いや、エルレインだけじゃない。
「あ、師匠だー!! ホントにいましたー!!」
「……王都で会うなんて、ヘンな感じ」
「おおー!! 師匠だぜ!!」
「う、うん……久しぶり」
アルテミウス、シャナ、エリオ、ユウナ……そういや王都を活躍の場にしているんだよな。ギルドに行けば合う可能性はあるだろうな。
すると、エルレインがズンズンと近づき、俺に顔を寄せてやや怒ったように言う。
「ちょっと!! 挨拶もなしに王都に行くなんてどーいうことよ!! 行くなら声かけてよ!!」
「いや、まあ……うん、ごめん」
つい謝ってしまった。
俺はエルレインを押しのけて言う。
「まあその、たまにはのんびり一人旅してみたくてな。それに、王都でキュレネたちに挨拶もしたかったし……」
「は? キュレネたち、って……あいつらに会ったの?」
「ああ。キュレネ、ファルカ、スティンギールには挨拶した。アストライアはいなかった」
「ふーん。で、この後の予定は?」
「……まあ、スーリヤに行くけど」
「へええええ~……」
エルレインはにんまりと嫌な笑みを浮かべた……な、なんかイヤな予感。
すると、エルレインはアルテミウスたちに言う。
「さて、あんたら。これからの予定は?」
「はい!! 私たち、お仕事で『湖の町スーリヤ』に行きます!! 依頼人にお届けモノして、そのあとはバカンスです!!」
「なるほどねー。で、アルノー……あんたの予定は?」
「…………」
こ、こいつら……めっちゃニヤニヤしてるし、わかってやがるな。
俺は言う。
「言っておくが、俺はソロでバカンス楽しむ予定だからな……」
「わかってるわよ。でも、何日か一緒に遊ぶくらいできるでしょ。この子たち、あたしの別荘で過ごす予定だしさ」
「え、お前スーリヤに別荘なんてあったのか?」
「まあね。依頼の報酬でもらったのよ。全然使ってないからどうなってるかわかんないけどね」
「……まあ、それならいいか。じゃあ、一緒に行くか……」
と、言った瞬間……一台のデカい馬車がギルド前に止まった。
冒険者ギルドの紋章が描かれた馬車だ。
すると、ギルドからレグナフィリアが出てきた。
「あら、皆さん……おはようございます」
ギルマスモードのレグナフィリアだった。
アルテミウスたちが一気に緊張する。エルレインも表情が強張った。
俺は言う。
「おう。お前も出かけるのか」
「ええ。湖の町スーリヤの冒険者ギルドへ用事がありまして」
「……は?」
「ふふ。アルノー、目的は一緒かしら? よろしければ馬車に乗る?」
俺はレグナフィリアに顔を近付けボソッと言う。
「おいお前、どういうつもりだよ」
「何よ……べ、別に、あなたのバカンスが羨ましくなったわけじゃないわ。本当にお仕事で行くのよ。まあその……ちょっとはお休みもあるけど」
「……」
「で、乗っていくなら送るけど」
「……頼むわ」
すると、エルレインが言う。
「ちょっとアルノー……顔、近くない?」
「いや、こいつ耳遠くてな」
「……ふふ、そうね」
やべ、少し怒ってる。変なこと言わないようにしよう。
「エルレイン。俺、レグナフィリアの馬車に乗って行くから。お前たちはゆっくり来いよー」
「えー、ずるい。いいなー」
「ふふ。なら、皆さんどうぞ。この馬車、広いから問題なく乗れますので」
アルテミウスたちが「やったー!!」と喜んでいる。
俺はレグナフィリアに言う。
「おいおい、いいのかよ。よく言うだろ? 若者には苦労をさせろって……若い連中はしっかり歩かせてだな」
「あら、それを言うなら、あなただって私からすれば若者よ。歩いて行く?」
「うぐ……ああもう、わかったよ」
こうして、いきなり現れたエルレイン。そしてアルテミウスたち、そしてレグナフィリアと一緒に、湖の町スーリヤへ向かうことになるのだった。




