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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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第41話

 スティンギールの指導を担当し、二か月が経過した。

 俺はギルドの訓練場で、険しい顔をして足元の岩を操作しようとしているスティンギールをジッと見る。


「くっ……どうして」


 岩は、スティンギールの指先から伸びた『マリオネット』のスキルで、地面をコロコロと転がる……本来なら、浮かべたり、縦横に回転させたりすることができるはずなのだが。

 

「はい、そこまで」

「……はああ」


 魔力の糸が切れ、スティンギールは俯く。

 指導を初めて二か月……スティンギール以外の四人はスキルを習得し、四人で依頼を受けたりするようになっていた。

 だが、スティンギールは俺との個別訓練だ。


「どうして、できないんだ……!! 必死に考えているのに!!」

「考えすぎって何度も言ってるだろ? いいか、理屈じゃないんだ。親指を曲げるのに『親指よ曲れ』なんてお前は考えたことないだろ? それと同じだ。魔力の糸をくっつけたら、あとはもう感覚で操作するんだよ」

「それができれば苦労はしません!!」


 スティンギールはヒステリックに叫ぶ。

 そう、スティンギールは考えすぎてしまうのだ。


「こんな、本の知識では説明のできないチカラ……考えるなという方が無理でしょう!!」


 ようやく、スティンギールはジョブに、自分の力に興味を持ったのだ。

 必要と思ってなかったチカラが、説明のできないチカラが、自分から放たれていることに興味津々、その原理を解明したくて思考している。

 それが、スキル発動の邪魔をしているのだ。

 

「教官。スキルとは何ですか? ジョブのもつ力……魔力で操作とは? 魔力とは? どうして人間はこんなことができるのですか?」

「あー……」


 こりゃ参ったな……これまでこういう悩みを持つ子供を指導したことはない。

 考えすぎるせいで、スキル発動の妨げになるか……ふむ。


「あ、そうか。じゃあこうしよう……スティンギール、見てろ」

「え?」


 俺は水筒の水をコップに注ぎ、そのまま空中に撒いた。

 いきなりの奇行にスティンギールは怪訝な顔をする。


「いいか。俺たちが今いるここ、この空間、世界の全てに水分がある」

「…………え?」

「水分だよ。空気はわかるか?」

「馬鹿にしていますか?」

「わかるんだな? いいか、空気中には僅かだけど水分がある。スティンギール、お前は石とかじゃなくて、その空気中の水分を操作しろ」

「……空中の水分を?」

「ああ。石がどう動くかとかじゃなくて、魔力の糸にくっついた水分を全て操作するんだ。それだけを考えろ」

「空中の水分を操作……? そもそも、空中の水分とは?」

「ほら、締め切った部屋で暖炉とか炊いてると、目が痛くなったり咳とか出るだろ? あれは空気中の水分が少なくて、潤いがないからだ。水ってのは沸騰させるとそのうちなくなるだろ? つまり、空中には水分がある……」

「……」


 ごめん、俺もよくわかっていない。

 するとスティンギール、ブツブツ言いながらスキルを発動させた。


「空気中の水分? つまり、この空中には水がある? 考えたこともなかったが……確かに教官の言う通り……」


 すると、水滴がぽたぽたと魔力の糸にくっついた。


「なるほど。これは面白い……水分を操作する、これは面白い。ふむ」


 作戦成功……スティンギールの興味を『空気中の水分』に逸らすことに成功した。

 考えすぎてダメになるなら、思い切って考えまくってダメのさらに上にいけばいい。

 

「スティンギール。お前に宿題だ。『なぜ空気中に水分があるのか』を考えて答えを出してくれ。スキルを使いまくって、その原因を調査するんだ」

「面白い……わかりました教官。その答え、出して見せます」


 こうして、スティンギールは『どうしてジョブの力でスキルが使えるのか? 魔力ってなんだ? どうして操作できる?』という疑問から『なぜ空気中に水分があるのか』に疑問をすり替えた。

 この日からスティンギールは無意識にスキルを使い、常に水分を操作するようになった。ていうか……空気中の水分を操作なんて、普通に考えたら神業レベル。

 いつの間にかスティンギールは、水分操作に関して、水魔法以上の力を発揮するようになったとさ。


 ◇◇◇◇◇


 回想終わり。

 スティンギールは、水魔法顔負けの水使いとして、S級認定された。


「結局、答えはまだ出ていませんよ。まあ……ボクにも余裕ができて、考えすぎるということはもうなくなりましたが」

「ははは。そりゃよかった。それに……お前の思考がジョブに影響を与えたことで、固有スキルも目覚めたしな」

「ええ……全くその通りですよ」


 固有スキル『虚空演算オペレーションマジック

 スティンギールの『考えすぎた』ことで発現した固有スキル。

 簡単に言えば『一度に三つ、同時にスキルを発動できる』のだ。


「キュレネは、スキルの連続使用を一つのスキルとして発動できるけど、お前は三つのスキルを同時に使用できるもんな。これは強いぞ」

「ははは……本当に、ボクは頭が固い。教官には、迷惑をかけっぱなしでした」

「気にすんな。それより、お前が元気そうで何より……と、いい時間だな」


 結構話し込んでしまった。

 なんか、スティンギールについての説明回っぽい……なんか申し訳ないな。

 会計を済ませ、外に出る。


「あ、ところでスティンギール……何か困りごと、あるか?」

「困りごと? いえ、特には」

「そ、そうか?」

「しいて言うなら……知り合いが古書店を開いたので、一度顔を出したいのですが。忙しいので機会が先伸ばしになっていることぐらいですね。やれやれ、困ったものだ」

「そ、そう言う困りごとはさすがに……」

「冗談ですよ。ふふ」


 こういう冗談も言えるくらい、今のスティンギールは余裕たっぷりだ。


「さて。もう夕方近いし……晩飯でも食うか。アストライアの挨拶は明日にしよう」

「アストライア。ああ……そういえば彼女、今は王都にいないようですよ。何やら、調査に出かけたとか……」

「調査?」

「興味がないので詳細は不明です」

「そ、そうかい」


 なんだ、いないのか……じゃあしょうがない。明日、スーリヤに出発するか。


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