第40話
初めて見た時、かなり気難しそうな子だと思った。
十五歳にしては大人びてる。いや……自分を子供だと思っていないのか、背伸びしたい年頃なのか、その辺はよくわからない。
「スティンギールです。新人指導、と言いますが……ボクは冒険者に望んでなったわけではないので、適当にお願いします」
まあ、こんなやつだった。
聞けば、本屋だった実家が借金のカタに取られ、生活のために冒険者になったとか。
「両親がまあ、お人好しで。どこかの大馬鹿に借金をしてまで金を貸して、そのまま逃げられたようで……返済の充てもなく、そのまま店、いえ全て取られました。両親? ああ、今は田舎で畑作で暮らしていますよ。二人で生きていくくらいなら、まあ問題ないでしょう」
十五歳とは思えないほど大人びてやがる……と、思った。
そもそも、冒険者になるつもりがないやつに務まる仕事じゃないんだが……と思ったが。
俺は、スティンギールのジョブを見て驚いた。
「か、『傀儡聖』……って、おま、レジェンドジョブじゃないか!!」
「そうですね。ですが、ボクは冒険者になるつもりはありませんでしたので。ジョブが何であろうと興味ありません」
なんだこいつ……と思った。
基本的に『~聖』と付くジョブはレジェンドジョブ。冒険者を志す者だったら大喜びするようなジョブだ。
俺はスティンギールに質問する。
「で、スティンギール。お前はどういう冒険者になりたいんだ?」
「とりあえず、生活費と……あとは、王都にあるマルシェ古文大学への入学資金を貯めたいですね。一人で自由の身になったのですから、かねてより夢だった大学へ入学したいです」
マルシェ古文大学というのは、歴史文化などを中心に学んだり、研究したりする大学だ。
戦いより勉強か……まあ、気持ちはわかる。
「なるほどな。じゃあ、お前には稼げて、ジョブとスキルを活かせて、なおかつ危険が少ない依頼をいっぱい受けられるような、そんな冒険者になりたいんだな」
「そうですね」
いや、そんなのねぇよ。
そんなのあったら俺がやってるわ。とは言いにくいな……さて。
「とりあえず、まずは基本的な知識と、お前のジョブについて説明するか。ちなみに……俺が担当してる新人、お前で五人目だけど……みんなレジェンドジョブ持ちだ。ふふふ、いい友人になれるかもな」
「まあ、あなたの指導を受ける以上、顔を合わせることもあるでしょう。友人になるかどうかは、ボクが決めることなので」
な、生意気すぎる……まあ子供だしな。
というわけで、俺はスティンギールの指導担当となるのだった。
◇◇◇◇◇
回想、ひとまずここまで。
俺は紅茶のおかわりを注文し、懐かしさに頬を緩める。
「いやー、懐かしいなあ」
「……当時のボクは、本当に生意気でしたよ」
「まあ、子供だしな。はっはっは」
「……教官。当時のこと、あまり思い出さないでくれるとありがたいのですが」
スティンギールは頬を染め、俺と視線を合わせないようにして眼鏡のずれを直す。
俺はおかわりの紅茶で喉を潤す。
「あのあと、一般的な冒険者の知識を教えたけど、お前は何でも気になったことはズバズバ聞いてきたよな。お前みたいなやつは初めてだったから、俺も楽しかったぞ」
「教官は、何でも知っていて本当にすごかったですよ。実家にあった『冒険の手引き』を読んで、一般的な知識は身に着けていたと思っていたのですが……本だけじゃ得られない知識があると、教官から教えていただきました」
スティンギール、今は二十二歳だっけ。今じゃすっかり大人の男って感じだな。
「いろいろあったよな。エルレインとキュレネが大喧嘩してるところを仲裁しに入ったら、なぜか二人がさらにキレてお前に矛先向けたこともあったっけ」
「ああ、あれは『醜い争いは同レベルの愚者の間でしか起こらない。愚者同士仲良くしたらどうですか?』と仲裁したんですよ。なぜか、鬼のような顔でボクに意味不明な言葉をぶつけてきましたが」
「そ、そうか」
そういやこいつ、キレッキレの言葉をよく同期たちに投げつけてたっけ。
「教官は覚えていますか? ボクの『傀儡聖』のスキル運用で悩んでいた時のことを」
「ああ、覚えてるよ。お前は小難しく考えすぎてるせいで、スキルが上手く使えなかったからなあ」
ジョブ『傀儡聖』は、モノを操作したりするジョブの最上系だ。『傀儡士』とか『操舵士』とか『御者』とかのジョブとは比べ物にならないくらい、様々なモノを操作できる。
「スキルってのは、直感で使うモンだけど……お前は『岩を操る』っていうスキルを小難しく考えすぎてたせいで、うまく使えなかったよな」
「お恥ずかしいです……」
『傀儡聖』のスキル、『マリオネット』……これは、魔力を指先から放ち、対象にくっつけることで、自在に操作できるスキルだ。
傀儡聖のスキルはそう多くない。この『マリオネット』は基礎の基礎で、まずはこれを使いこなすことを俺は教えたんだが。
「まさか、初期スキルでつまずくとは思わなかったぜ」
「……そうですね」
人は普通、指先を動かすのに『指よ動け』なんて思考しないし、口にも出さない。動かそうとした時には動いているというか、自由自在に動く。
スキル『マリオネット』も同じだ。魔力を糸をくっつけたら、あとはもう指先と同じように動かせるはずなのだ。
だが、スティンギールは違う。
指先を動かすのに『人差し指の第一関節を曲げて、薬指を伸ばして……』みたいに、思考してしまうのだ。
こればかりは、言って直せるようなもんじゃない。
「ですが、教官の指導のおかげで、その問題も克服しました。このようにね」
スティンギールの指先に、水が纏わりついた。
「まさか、『考えすぎて操作に難が出るなら、逆に全力で考えろ』……なんて言われるとは思いませんでした」
「だけど、その結果お前は弱点を克服して、さらに自分だけの武器を手に入れたよな」
俺は、その時のことを思いだした。




