表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/6

第4話

「よし、今日も仕事だ……って、ん? ああそうだった。今日はギルドから呼ばれたんだったな」


 朝の空気を吸い込みながら、軽く伸びをする。

 今日は休みじゃない。冒険者ギルドからの依頼で「新人指導」だ。

 新人指導は何度か経験してるけど、正直、毎回思う……めんどくせぇ。あのキラキラした目、正直プレッシャーになるんだよな。

 ギルドに到着すると、受付嬢がにこやかに書類を渡してくれた。


「アルノーさん、新人指導、よろしくお願いしますね~」

「おう、任せとけ」


 手続きを済ませ、訓練場へ向かう。

 訓練場に入ると、十人以上の新人冒険者が整列していた。

 鎧の輝き、剣や槍を握る手の緊張、背筋の伸び……ふむふむ、気合入ってるねえ、でも俺にはちょっと眩しすぎるわ。

 すると、入口から大きな足音と共にS級冒険者のエルレインが現れた。


「うげ……」

「あら、アルノーじゃない。ふふ、相変わらずくたびれた顔」

「うっせ。なんでお前がここに……」

「当然。新人指導よ」


 髪をかき上げると、新人たちが見惚れていた。

 俺は顔をしかめる……だが新人たちは一斉に目を輝かせる。

 わかるわかる、そのテンション。俺も最初はS級冒険者を見たときあんな感じだったけど、今は「めんどくせぇ」の一言で片付く。


「……ん?」


 新人たちの中に、少し沈んだ顔の少女がいた。

 肩を落とし、周囲を避けるように立っている。俺の目は自然とそこに吸い寄せられた。

 俺はエルレインから離れ、渡された資料をチェックする。


「……お、これか」


 アルテミウス・アトワイト、十五歳。

 アトワイト伯爵家の三女で、ジョブ「連装士」の持ち主。貴族の末っ子などが冒険者になるのは珍しいことじゃないのでそこには驚かない。

 周りから避けられている……なぁるほどね、理由はすぐにわかったわ。

 新人指導の前に、グループ分けされた各担当を確認。俺以外にも指導員は数名。俺の担当は……なんとアルテミウスだけ。

 どこのグループにも所属してないってことは、グループ分けの時点で、一緒のグループから外れるよう言われたんだろうな。そして冒険者ギルドもそれを受諾して、俺が一人で指導するようになったんだろ。

 とりあえず、もう指導は始まったし声をかけるか。


「よう、君一人で来たのか? 友達は?」


 小さな声で問いかけると、少女はびくっとして振り向く。


「え、ええと……一人です」


 声が小さい。ちょっとビビリすぎだろ。

 まあ、不遇ジョブ持ちだしな。しかも周りはキラキラしてて楽しそうに談笑してるし。

 俺も昔、こんな状況だった気がする。

 ――それにしても、不遇ジョブか。


 ◇◇◇◇◇◇


 それぞれの指導が始まり、俺はアルテミウスと向かい合う。

 まだ下を向いているアルテミウスに言う。


「さて、さっそく始めるか。知ってると思うけど、新人に指導する前に、『ジョブ』と『スキル』について説明するぞ」

「は、はい」


 まずは『ジョブ』だ。

 これはそのまま、『職業』だ。剣士、槍士、斧士、弓士など、冒険者を志す者の大半が持つ能力……ほんと、剣と魔法のファンタジーって感じの世界だぜ。

 冒険者をやるうえで、戦闘系のジョブは欠かせない。


「俺のジョブは『剣士』だ。まあ、戦闘系で最もポピュラーなジョブだな」

「……剣士。いいなあ」


 アルテミウスがポツリと呟いた。

 まあ、『剣士を得たなら冒険者』って格言もあるくらい、戦闘系ジョブでは最も多い。この世界にいる冒険者の一割は『剣士』だって言われてるくらいだしな。

 

「そして、『スキル』とは何か? わかるか?」

「ジョブが持つ、技です」

「正解」


 『スキル』とは、そのジョブが持つ『技』のことだ。

  初級、中級、上級、特級とランク付けされておりさらには『神級』なんていう奥義みたいなのもある……まあ、そんな奥義を使える人なんて見たことないし聞いたこともないけどな。

 たとえば『剣士』ジョブの初級スキルの一つに、『疾風斬』というのがある。発動させると、身体が軽くなり、風の如き斬撃を放てる。


「スキルは、魔獣を倒したり、訓練することで得る『経験値』で習得できる。おっと、習得できたからってそこでおしまいじゃないぞ? スキルにもレベル設定があるから、技を磨けば磨くほど、そのスキルは強くなるぞ~? ちなみに、スキルの最大レベルは10だ」


 疾風斬レベル1と、疾風斬レベル10では天と地ほど差がある。

 レベル1では斬撃の回数も数回、その辺の木を切り倒すことはできない威力だけど、レベル10だと斬撃はもう数えられないくらい多く、大岩を砕けるくらいの威力がある。


「スキルってのは、無限の可能性だ。初級スキルを鍛えに鍛えてS級認定された冒険者もいるし、初級~上級とまんべんなく鍛え、オールラウンダーとして活躍する冒険者もいる。戦い方、鍛え方は自分次第。ワクワクするだろ?」

「は、はい」


 おっと、熱く語ってしまった。

 若い子相手に熱弁を振るうおっさん……なんかサムいかな。


「こほん。とにかく、どんなジョブだろうと、スキルを磨けば強くなれるってことだ」

「……それは、私が『不遇ジョブ』だから、そう言ってるんですか?」


 うげ、しまった。

 アルテミウスは、俺を見て言う。


「『連装士』について……あなたはどう思っていますか?」

「あ~……『連装士』か」


 不遇ジョブ。

 まあ、あるのだ……数えきれないほど多くあるジョブの中にも、『使えない』とか『ハズレ』と言われるジョブが。

 『連装士』は、まさにそれだ。


「三種類のジョブの初級スキルを三つ、習得できるジョブか……」


 『連装士』とは。

異なる三つのジョブの初級スキルを三つ習得することができる。

剣士、斧士、槍士などの初級スキルや、魔法師や治癒師の初級スキルも覚えられる。戦闘系だけじゃなく、法士、会計士、鍛冶師などのスキルも覚えられる。つまり……覚えられるスキルに関して、ジョブを選ばない。

三つのジョブの初級スキルを一つずつ覚えることができる。まあ、俺の『自由人』の超劣化版みたいなジョブだ。

 三つのジョブの初級スキルが三つだけ。そう、三つの初級スキルしか使えないし、覚えないというジョブなのだ。

 アルテミウスは沈んだ声で言う。


「剣士にも、槍士にも、斧士にも、弓士にもなれない……魔法だって初級スキルの三つしか覚えない。三つだけじゃ、なんにもできない……」


 これが、不遇ジョブ『連装士』である。

 たとえ『剣士』の初級スキルを三つ覚えたとしても、本物の『剣士』には敵わない。

 『弓士』と『剣士』と『斧士』を初級スキルを一つずつ覚えたら? だけど……スキルを発動させるには、対応した武器が必要なのだ。

 別々のジョブの初級スキルを三つ覚えたとしても、冒険に三種類の武器を持ち歩くだけで物になる。剣を腰に、斧を背負い、手には弓を持つなんて邪魔でしょうがない。


「……やっぱり、無理、ですよね」

「…………あー」


 きっと、『連装士』ってだけで期待されてないんだろうな。

 俺の知る限り、『連装士』で大成した冒険者はいない。

 だからといって、全てを諦める理由にはならないだろう。

 

「よし……じゃあ、俺と組んでみるか。実は、少し思うことがあってな……もしかしたら、可能性はあるかもしれん」


 口に出すと、少女の目が輝く。

 ああ、やっぱ希望って目に出るんだな。


「は、はい……お願いします!!」


 声は小さいが、明らかにワクワクしている。

 うん、こっちもやる気出てきた。


「あの、可能性、って……?」

「ん~……もうちょい考えさせてくれ。『連装士』か……初級スキルを三つ覚えるだけで、そのスキルは何でもいいんだよな」

「え、あ……はい」


 ようは、組み合わせ。

 もしかするとだけど、こいつは化けるかもしれないぞ。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 さて、考えをまとめるのはあとにして、一般的な『冒険者』としての作法を教えることにした。

 まずは基本の挨拶、安全確認、武器の扱い方をチェック。アルテミウスは知らないことばかりなのか、俺の言葉にウンウン頷き、几帳面にメモまでしていた。


「いいか、挨拶は基本中の基本だ。先輩にはしっかり挨拶だ。同期とかには『おっす』と『よう、調子どうだ?』とかでもいい。行きつけの飲み屋の主人とかには『今夜行くから美味いメシと酒頼むぜ』とかもいいな」

「え、えーっと……はい」

「挨拶ができるやつは出世する。これは俺がブラック企業で学んだ数少ない事実だ」

「……えっと」


 しまった、ヘンなこと言ってしまったかも。

 誤魔化そうとすると、エルレインと目が合った。


「……ふふん」

「なんだあいつ……ニヤニヤして気持ち悪いな」

「あのお方、S級冒険者で、『剣聖』のエルレイン様ですよね……カッコいいですね」

「まあ、強さは間違いないな」


エルレインはS級なので目立ちまくり。

どうもあいつは俺を意識しているのかチラチラ見てくる。

 俺は内心「うわ、めんどくせぇ」と思いながらも、表情は平静を装う。

 エルレインは無視。まずは確認する。


「えーと、改めて……アルテミウスでいいか?」

「はい」

「とりあえず、基本的な冒険者の礼儀作法はここまで。これからはお前について聞かせてもらうぞ。まず『連装士』の初級スキルを三つ……もう覚えたか?」

「いえ、まだ……冒険者の指導があるって聞いたので、先輩の話を聞いてから、アドバイスをもらおうと思いまして」


 そりゃ朗報だ。下手に『剣士の初級スキルを三つ覚えました』とか言われたらどうしようかと思ったぜ。


「じゃあ、そのままスキルは覚えないでくれ。俺の考えがまとまったらお前に提案する。その提案を受け入れてくれるなら、スキルを覚えよう」

「はい!!」

「それと……」


 アルテミウスを見る。

 十五歳の女の子。一般的な体格であり、特に鍛えたような感じはしない。


「あ、あの……」

「ああスマン、ジロジロ見て悪かった。なあ……力に自信あるか?」

「い、いえ……あまり」

「だよなあ」


 仮に、三つの武器、三つの初級スキルが使えても、武器を三種持ち歩くのはけっこうな重労働だ。

しかもアルテミウスは十五歳……腰に剣を下げ、槍を背負い、矢筒と弓を手にして歩くだけでも大変だ。

 それに、戦闘中に、武器を切り替えて戦うなんて器用な真似、新人ができるわけがない。


「三つの基本を完璧に使うより、一つを極限まで極めた方が強いもんなあ……」

「……その通りだと思います。三つの武器を使い分けても……」

「初級スキルしか覚えない」

「……うう」


 だから、連装士は不遇なのだ。

 でも俺は、一つ考えが浮かんでいた。


「……ふむ」

「あの、先生……?」

「待った。先生はちょっと……アルノーでいいよ」

「い、いえ。さすがに呼び捨ては……じゃあ、師匠」


 い、意外と『師匠』って悪くないかも。

 こほん。さて……俺は一つ、面白い考えが浮かんでいた。

 三つの初級スキルをフルに使う方法。


「……よし。俺にちょっとした考えが浮かんできた。もしそれが実現できたら、お前も立派な冒険者としてデビューできるかもしれないぞ」

「えええ!? ほ、本当ですか!?」

「おう。ふふふ……期待しておけ!! まずは、体力を付けよう。基礎トレーニングを始めるぞ!!」

「は、はい!!」


 アルテミウスは、キラキラした目を俺に向けてきた。

 連装士……たぶん、応用次第で十分化ける可能性を秘めている。


「よし、夕日に向かって走るぞ!!」

「はい、師匠!!」


 ちなみに、まだ日中なので夕日はないが……アルテミウスはノッてくれた。

 俺も、久しぶりに本気を出すか……冒険者として独り立ちするために、アルテミウスの成長を見守る――これが、俺の役目になったのだから。


 ◇◇◇◇◇◇


 アルテミウスの指導を開始し、数日が経過した。

 今日もトレーニングを追え、ラフな運動スタイルの俺、アルテミウスは、冒険者ギルドにある訓練場で今日の反省をしていた。

 基礎的なトレーニングを繰り返し、わかったことがいくつかある。


「アルテミウス。ここ数日、お前の運動能力を見てわかったことがある」

「え……な、なんですか!?」


 グイッと迫ってくる……ここ数日で随分と打ち解けてきたせいか、距離が近い。

 ややのけぞり、俺は指をぴんと立てる。


「まず一つ、お前は根性ある。俺が冒険者になりたてのころ、先輩から教わった体力向上メニューを、根を上げることなくやりきった」

「えと……はい。ありがとうございます」


 これには本当に驚いた。

 基礎的な筋トレ、マラソンと、武器を持たずに繰り返した地味なトレーニングだが、アルテミウスは一切弱音を吐かずにやりきった。

 この訓練場には、俺とアルテミウスしかいない。他の新人たちはみんな、先輩冒険者と一緒に魔獣狩りをしたり、スキルを覚えるために経験を積んでいるっていうのに……普通は嫉妬の一つもあるはずだが、アルテミウスはただひたすら筋トレに向き合った。

 

「そしてもう一つ……お前、目がいい」

「め?」

「あと、器用だ」

「えーと……?」


 これはジョブとは関係ない才能だろう。アルテミウスは目がいい……詳しく言うなら『動体視力』だ。

 俺はバケツに用意していた小石を手で握り、アルテミウスに見せる。

 手を開くと、小石がバラッと地面に落ちた。

 俺は間髪入れずに言う。


「小石は何個だ?」

「二十七個です」


 落ちたのを数えると、ぴったり二十七個……これには驚いた。

 そしてもう一つ。

 落ちた小石を一つ手に取り、アルテミウスに投げる。


「──……っと」


 アルテミウスはそれを引き付け、ギリギリになって躱した。

 鼻先に触れるか触れないかの位置まで小石を見て躱す。完全に見えている。


「よし。じゃあこれだ」


 俺は羽ペンをアルテミウスの右手、左手に持たせる。


「右で『今日の晩飯は焼肉』と、左で『デザートはアプルの砂糖漬け』だ」

「……はい、できました!!」


 なんと、左右で別々の文字を、すらすらと書いた。

 器用すぎる。しかも文字は完璧だし、綺麗に書かれている。

 

「動体視力、器用さ……これらはジョブでもスキルでもない。持って生まれた才能だ。アルテミウス、お前はとんでもない『宝』を持っているぞ」

「えと……そんなにすごいことなんですか?」

「おう。これを活かして、ある戦法を考えた。それに対応した武器、初級スキルを覚えれば……お前は化けるぞ」

「ど、どんな戦法ですか!? どんな!?」

「お、落ち着け。つまりだな……」


 俺はその『戦法』を伝えると、アルテミウスは「え……その初級スキルですか?」と驚いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ