第3話
「さぁ~て、今日は仕事休みだし、のんびりするか」
伸びをしながら、俺は朝の空気を深く吸い込む。
仕事の日の朝とは違い、心も体も軽い。こういう日こそ、俺らしい休日を満喫できるチャンスだ。
ベッドを出て、軽く身支度を整える。
朝飯は昨日の残り物をうまく活用して、軽く卵と野菜の炒め物を作る。味付けはいつも通り、少しの塩と胡椒で十分だ。これで満足できる俺の胃袋は今日も平和だ。
「さて……今日はどこから回ろうかな」
街に出ると、道行く人々は仕事や買い物に忙しそうだ。
でも俺はそんな喧騒を気にしない。自由気ままに、自分のペースで動くのが休日の楽しみ方だ。
◇◇◇◇◇◇
まず向かったのは本屋。
俺は読書が好きで、異世界に来てからも前世の知識で色々なジャンルを楽しむ。
店に入ると、奥から元気な女性の声が聞こえた。
「おはようございます、アルノーさん。今日もごゆっくりどうぞ~」
店員のリアナさんだ。いつも笑顔で迎えてくれる。
彼女とは顔なじみで、休日の買い物ついでに世間話をするのが最近の楽しみになっていた。
「よお、リアナさん。今日もいい天気だな」
「ええ、絶好のお出かけ日和ですね。新刊も入ったのでぜひ見ていってください」
「ありがとな。さーて、俺の琴線に触れるような本でも探すか」
棚を見ながら、俺は手に取った本を軽くぱらぱらとめくる。
昔の知識も役立つけど、ここでしか手に入らない世界観やストーリーは新鮮だ。
「そういえばアルノーさん、最近何か面白い依頼はありました?」
「んー、まあゴブリン討伐くらいかな。今日は休みだから、のんびり本を読んだり、馴染みの道具屋でヒマでも潰そうって思ってた」
「ふふ、いいですね。たまにはゆっくり過ごすのも大事ですよ」
少し世間話をしてから、俺は本を三冊ほど購入。
レジで代金を払うと、リアナさんがにっこり笑った。
「いつもありがとうございます。じゃ、よい休日を~」
「そうだな。じゃあ、またな」
◇◇◇◇◇◇
次は道具屋だ。ここも顔なじみの男性店主がいて、俺の休日の楽しみの一つになっている。
店内に入ると、独特の木の香りが漂っていた。
「おお、アルノー。いらっしゃい」
「よう。前に頼んでおいたルアー、できたか?」
「おう。言われた通りも作ってあるぜ。ていうか……小魚に針くっつけた模型で釣りとか、できんのか?」
店主のシモン。こいつは金を払えば、いろんな道具を作ってくれる。
手先がめちゃくちゃ器用なオッサンで俺の飲み友達でもある。
「ありがとよ、これで今度の釣りが楽しみになった」
「おう。ついでに『けん玉』や『笛』もできてるぜ」
「おお、忘れてた! ちょっと遊びながら試してみるか」
商品を受け取り、店内で試す。
けん玉は手に馴染むよう、何度も玉を跳ねさせる。最初は玉を乗せるのも不安定で、何度も落としてしまうが、それが逆に楽しい。
「おおっと……こっちか、よし!」
玉がひょいと皿の上に乗った瞬間、思わず声が出る。
その様子を見て、いつの間にか来ていた常連であり冒険者後輩のミアがクスクス笑う。
「どもども、アルノーさん。楽しそうですねえ」
「おう、楽しいさ。こういうのは慣れもあるからな……っていうか、いつの間に来てたんだよ」
「ついさっきです。ふふ、あんまりにも集中してるから声掛けれませんでしたよ……それ、見てるとこっちまでワクワクしますね」
「だろ? あとこれこれ、見てくれ。ふふふ」
「なんです、それ?」
俺は笛……正確にはオカリナを咥える。
吹くとポーポーときれいな音が出る。
息の強さで音の高さが変わるのが面白く、いろいろな旋律を試す。
川沿いの風景を思い浮かべながら吹くと、音が軽やかに川面に溶けていく感覚があった。
「お~、すっごい!! 変な形の笛ですね。でも、音綺麗……」
「だろ? ふふふ、どうよシモン、これ売れるかな」
「さぁなあ。お前さんが宣伝のために店の前で吹いてくれたら売れるかもな」
うーん、冒険者じゃなくて笛吹きか……うん、無理だなこれ。
◇◇◇◇◇◇
昼前には街の小道をぶらぶら歩き、食材や小物の買い物も済ませる。
街の人たちはみんな俺を知っていて、軽く声をかけてくれる。
「今日も平和そうだな、アルノー」
「おう、今日は休みなんだ。ふふふ……これから釣りをするぜ」
街外れの川辺で釣りを開始。
日本式のルアーを水面に投げ入れ、少し浮かせて引く。魚が食いつく感触が指先に伝わる。
「……む」
ルアーをゆっくり動かしながら、俺は川の流れを観察する。
光の反射や水面の波紋を見ながら、どこに魚が潜んでいるかを推測する。小さな魚が興味を示すと、思わずにやりと笑う。
「よし、食いついたな……!」
竿先がかすかに跳ね、引きが伝わる。
慎重に合わせ、魚を釣り上げる。小さいけれど、今日の収穫としては上出来だ。
二回目、三回目も釣りに挑戦。
二回目は失敗。糸が切れて水中にルアーを落とし、思わず「あーっ!」と叫んでしまった。
三回目は小さな魚が連続で食いつき、心の中でガッツポーズ。
やっぱ釣りって楽しい。メシの食材にもなるしな!!
釣りの合間には、けん玉や笛の練習も続ける。
すると、近くで遊んでいた子供たちが興味津々で集まってきた。
「ねぇ、それなに?」
「けん玉っていうんだ。やってみるか?」
ちょっとした指導をして、子供たちが上手にできると、みんなで笑い合う。
笛も吹かせてみると、最初は音が出ない子もいるが、コツを教えると「ポーポー」と音が鳴り、歓声が上がる。
「おお、うまくなったな」
「アルノーさん、また教えてください!」
こうした小さな交流が、休日の楽しさをより豊かにしてくれる。
◇◇◇◇◇◇
夕方、道具屋のシモンや市場の常連たちに今日の成果を報告。
ルアーも好評で、子供たちも上手に遊べたと聞いて、思わずにんまりする。
「いやあ、今日は充実したな」
街の喧騒を抜け、宿屋に戻る。
夕飯は軽く買った食材で調理し、のんびり味わう。アルコールは少しだけ。休日の締めくくりとして、心地よい疲れと共にベッドに潜り込む。
「うーん……やっぱ、こういう日も悪くないな」
異世界転生者でありながらも、こうして普通に日常を楽しめる。
それで十分だ。秘密のジョブも、平穏な生活も。自分らしく、のんびり生きる──これが俺、アルノーの休日だ。




