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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第一章

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第2話

 依頼を終えて飯を食い、酒場の常連とくだらない話をして、そこそこ酔っ払って帰路に着く。

 家に入ると服を脱ぎ捨て、歯をしっかり磨いてベッドにダイブ。すぐに睡魔が襲ってくる。


「ふぁぁぁ……おやすみぃ」


 明日は……休みだ。

 日本生活での名残か、俺は週休二日制を採用している。今日は五日目なので、明日から二連休……ふふ、華金ってやつだ。

 なので、今日はけっこう飲んじゃったな……いやあ、酒って最高だぜ。

 寝る直前、ふと思い出した。


「……家族、元気にしてっかなあ」


 そんなことをつぶやいたせいか、懐かしい夢を見た。


 ◇◇◇◇◇◇

  二十年前

 ◇◇◇◇◇◇


 俺の名前はアルノー。現在は『赤ん坊』である。

 赤ん坊なのに意識ははっきりしている。別に俺が天才児だからなじゃない。

 簡単に言うと、『前世の記憶』がある。というか……俺はついさっきまで『日本人』だった。そう、異世界転生ってやつだ。

 日本人で、会社勤めだったことは覚えてる。でも、その会社がブラック企業で、限界まで働き、めまいがしたと思ったら地面にダイブ……目が覚めたら赤ん坊だった。

 意味不明だろ? ていうか、なぜ異世界転生ってわかったか? 

 まず、両親……俺の両親じゃない。髪や目の色も違うし、母親に抱っこされ外の景色を見たが、日本の田舎とかじゃない、外国の田舎みたいな風景だった。

 頭が混乱し、落ち着くまで時間がかかったが……俺はラノベとかでよく見る『異世界転生』したと結論付けた。

 

 そして、十五年が経過……俺は十五歳の少年になり、この世界にも順応。自分の置かれている状況も、冷静に見て受け入れている。

 俺は、農家の三男として生まれた。

 長男は家を継ぐ、次男は街で働く。俺は……まあ、家の都合上、割と自由にしてろって感じだったんだと思う。だからのんびり、淡々と毎日を過ごしてたわけだ。


「おはよう、アルノー」


 朝の台所から、母さんの声が聞こえる。

 まだ薄暗い。俺は布団をバサッと畳み、ちょっと伸びをする。

 外はひんやりしており、鳥がチュンチュン鳴いてる。


「おはよう、母さん。今日も牛とヒツジの世話でいいの?」

「そうよ。ついでに畑もお願いね。長男と次男はそれぞれ用事あるし」

「了解、行ってくるぜ」


 母さんはにっこり笑って鍋をかき混ぜながら「頑張ってね」と言う。

 外に出ると父さんが畑作業中で、俺に目をやって頷いた。


「おいーす、牛たちヒツジたち、楽しいブラッシングの時間だぜ~」


 牛舎に行くと、牛たちが「おはよー」と低く唸る。まあモーモー鳴いてるだけだが。

 餌をやりながら体を撫でる。山羊の乳も搾り、ひと通り世話を終えると朝食だ。

 うちでは、家族全員で食べるわけじゃなく、朝の作業を終えた順に食事をとる。


 朝食後は畑へ。トマト、キャベツ、ジャガイモ……雑草を抜き、土を掘り返し、水をやる。

 葉の色や茎の硬さを見ながら肥料を足す。地味だけど、体を動かすのは気持ちいい。

 前世の運動不足の反動もあるかもな。この世界に生まれて十五年経つけど、未だに日本人としての記憶とか、ブラック企業で働いた記憶は残っている。


「アルノー、今日も手際いいわね」


 母さんが畑の隅から声をかけてくる。俺は手を止めて笑う。


「慣れたもんさ。農作業は嫌いじゃねえし」

「でも無理しすぎないでね。若いからって、無理して身体を壊したら困るんだから」

「心配すんなって、母さん。父さんもそう言うだろ?」


 父さんは黙々と鍬を振っている。

 口数は少ないが、俺のことはちゃんと見ている。

 家族との距離感ってこういうもんだ。適度に自由で、適度に気にかけてくれる。

 昼になると、母さんと一緒に食事の準備。鍋から立ち上る湯気がいい匂いだ。

 昼飯は家族みんなで食う。話題は……俺のこと。


「街に行くときは気をつけろよ、アルノー。都会は何があるかわからんからな」

「わかってるって、母さん。俺、三男だから家を継ぐわけじゃないし、邪魔にならないようにやるってだけだ」


 母さんの目が少し潤む。


「本当に出ていくのね……」

「うん。でも大丈夫だ。俺、自分でちゃんとやれるから」


 長男夫婦が家を継ぎ、俺は自然と外に出る立場だった。

 家を出るのも、自然なことだったんだよな。悲しさはなく、どこかワクワクしている自分もいる。


 ◇◇◇◇◇◇


 故郷の村を出た。

 道端の小川を渡り、森を抜けて、ついに町へ。

 日本風に言えば大都会。足元の石畳の感触や風の匂い、鳥の声が心地いい。

 まずは格安宿屋に部屋を取る。

 そして冒険者ギルド。初めて見るギルドの建物は木造ながら立派で、入口には剣士や魔法士の装備が並ぶ。掲示板には依頼がびっしりだ。


「へぇ、ここで仕事を受けるのか」


 中に入ると、剣士、槍士、魔法士……いろんなジョブの人たちが忙しそうにしている。

 裁縫士や鑑定士など、ちょっと変わった職業もある。前世の知識が役立つな、と眺める。

 受付で初めてジョブ鑑定を受ける。水晶玉に手をかざすと淡く光り、結果が告げられた。


「『剣士』ですね。冒険者にピッタリの戦闘系ジョブですよ!!」


 なるほど……でも実際の俺のジョブは『自由人フリーマン』だ。

 村にいたとき、元『鑑定士』の爺さんから聞いて知っていた。

 複数ジョブを切り替えられるチートなジョブだが、仲間ができると面倒なので、表向きは『剣士』として通す。

 ちなみにこの「剣士」ジョブは、村にいた元剣士の老人から譲ってもらったものだ。手に入れる条件も簡単だった。

 こうして、俺は『剣士』として、F級冒険者としてデビューしたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 初めての任務は森のゴブリン討伐。

 村の爺さんからもらった剣を腰に差し、体をほぐす。

 村で鍛えた筋力、持久力、そして爺さんから習った剣技を武器に討伐場へ向かう。

 ゴブリンの森は薄暗く、木々の間から斑模様の光が差し込む。足元の落ち葉を踏む音が静寂の中で響く。 

 耳を澄ますと、ゴブリンの足音と低いうなり声が聞こえた。


「お、いたな……さて、仕事開始だ」


 剣を構え、体を自然に動かす。

 ゴブリンの動きを予測し、最小限の力で仕留める。

 村で余生を過ごしていた『魔法士』の婆さんから得たジョブもあるが、今日は表向き剣士として行く。


「二体だけか……まあ、これなら楽勝だな」


 足元の落ち葉を確かめつつ、距離を詰める。

 刃先の角度を微調整し、次の一撃が確実に当たるように意識する。斬撃が一体の肩をかすめ、相手はよろめくが倒れない。もう一体は背後から回り込もうとする。


「よーし、やっぱりここは……ちょいと火魔法も使っとくか」


 ジョブを『魔法士』に切り替え、掌に魔力を集中させ、炎の弾を飛ばす。

 小さな火球がゴブリンを直撃し、悲鳴を上げて後退。斬撃と魔法の組み合わせで二体を討伐する。

 戦いながら、動きの癖や攻撃タイミングを瞬時に判断する。

 最後の一撃で止めを刺し、森に静寂が戻った。


「よし、無事終了……うん、俺やれるじゃん」


 戦利品を拾い、街に戻る道すがら、胸が熱くなる。

 初めての討伐依頼を無事にこなせた達成感。

 家を出た俺でも、自分で生きていけるんだ、って実感する。


「平凡だけど、これで十分だな」


 転生者であること、秘密のジョブ、冒険者としての日常。

 全部ひっくるめて、俺はこの世界での生活に満足していた。


 ◇◇◇◇◇◇

  現在へ

 ◇◇◇◇◇◇


「……んが」


 目を覚ますと、カーテンの隙間から光が差していた。

 ベッドから起き上がり、伸びをして朝の空気を吸う。


「はぁぁ~……懐かしい夢見たな」


 家を出たこと、冒険者になったことを思い出す。

 そういや、家に帰ってないな。最後に帰ったの、五年くらい前か。


「……異世界転生かぁ」


 こんな能力を持ち、それを隠すことなく使えば……きっと俺はこの世界で大活躍できるだろう。ジョブを切り替え、スキルを使い分けて戦うことができる俺は、いろんなパーティーで重宝されるだろうし、きっと大金だって稼げる。

 それこそ……というか知らないが、俺が住んでるこの町以外で起きているかもしれない、国を揺るがす大事件だとか、危険な大魔獣の討伐だとかに巻き込まれ、いろいろな強キャラたちが仲間になり、大冒険をしたりとするだろう。

 ラノベの主人公っぽく、いろんな女性に言い寄られたり、ハーレムを作ったりと……まあ、そういう生活もあるしれない。

 

 だが、はっきり言う……俺は、目立つのが嫌いなのだ。


 別に、モテモテになりたいわけじゃない。大金持ちになってデカい屋敷で暮らしたいわけじゃない。

 お金は、生活に困らない程度あればいい。

 女性関係は……まあ、興味ないわけじゃないが、ハーレムなんて好きじゃないし、普通に娼館とかもあるし。

 だから、この世界を冒険し、いろんな出会いを……なんて考えていない。

 今いる町も大きいし、暮らすには全く困っていない。冒険者ギルドに持ち込まれる依頼も多いし、生活の糧はいくらでもある。

 ゲームで言うなら『最初の町』だけど、俺はそこに住むモブキャラでいい。

 目立たず、そこそこ稼ぎ、顔見知りや友人たちと過ごす日常……ああ、これが俺の異世界生活。うんうん、充実してるじゃん。


「うし、朝飯食って……散歩でも行くか」


 今日と明日は仕事が休み。さて、何をして過ごそうかなー。

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