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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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第38話

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「どうだった?」


 俺は剣を鞘に納め、ファルカに質問した。

 現在、俺たちの周りにはコボルトとゴブリンの死骸が山ほど転がっている。その数、実に七十以上……思った以上に数が多く、俺も少し驚いた。

 ギルドでは『三十匹ほど』って聞いたんだが……まあ、想定内。

 だが、ファルカは違った。


「お、おかしいな。オレ……なんで」


 ファルカは、多くの傷を負っていた。

 ゴブリンの短剣で切られ、腕にはコボルトの矢が刺さっている。S級冒険者にして『極星五傑』の一人であるファルカが、討伐レートEのコボルト、ゴブリンに苦戦していた。

 正直、俺がいなければ死んでいた可能性もある。

 俺はファルカの腕に刺さった矢を抜き、ジョブを『魔法士』に変えて回復魔法を当てる。ファルカにジョブを変えられることは秘密だが、今はそんなことを気にしていないようだ。


「お前は、大物ばかり狩って小物の相手全然してないからな。お前の指名依頼、全部大物討伐ばかりだしな」

「お、お師匠様……」

「はっきり言うぞ。ファルカ、お前は視野が狭い。群れで襲うタイプの魔獣に、全く対処できていない。今まで生き残ってくれたのは、運がよかっただけだ」

「…………」


 治療を終え、俺はファルカの頭をポンと撫でる。


「今はとりあえずギルドに報告だ。んで、お前の弱点克服のためにトレーニングするぞ」

「ッ!! お、押忍!!」


 俺たちはゴブリンとコボルトを一か所に集め、油を撒いて火を付けた。

 住処も全部破壊し、こいつらにやられた冒険者の遺品を回収……死骸が焼け、骨だけになったのを確認し、ギルドへ戻った。

 報告を終え、報酬を受け取り、そのままファルカの家へ向かう。

 道中、ファルカはずっと無言だった。


「お。お前の家、久しぶりだな……」

「……寝るだけの家っす。あと、肉の保存場所」


 確か、地下が冷凍庫になってて肉を保存できるんだっけ。

 ファルカの家は、住宅街から少し離れたところにある、工場とかある区画だ。周囲はけっこう閑散としており、店とかも少ないので安い立地だったとか。

 なので、庭もけっこう広い。

 俺たちは庭に移動する。


「さてファルカ。お前を指導した時、俺は最後になんて言った?」

「えと、いっぱい食って、身体をしっかり鍛えろ……」

「まあそれも言った。俺の言葉が足りなかったこと、まずは謝罪する」

「そ、そんな!! お師匠様、オレが全部馬鹿なせいで、こんな」

「というわけで、お前の弱点……多人数との戦いでどうすればいいか。そのトレーニング方法を伝授しよう!!」

「お、押忍!! お師匠様!!」


 キュレネの時もそうだったが……なんか挨拶に来ただけなのに、いつの間にか昔みたいに指導することになってるな。まあいいか。

 

 ◇◇◇◇◇


「さてファルカ。さっきのゴブリンとコボルトの戦い、覚えてるか?」

「え、ええ……大人数で、四方からいくつも攻めて来て」

「四方だけじゃない。コボルトは木の上から矢で狙っていたし、投石してくるゴブリンもいた。下級の魔獣だけど、あいつらは決して馬鹿じゃない。ゴブリンは『新人殺し』なんて異名もあるくらいの魔獣だぞ」


 新人冒険者はゴブリンと聞いてナメてかかり、そのまま殺されるパターンがよくあった。男は殺され、女は巣に連れ込まれ……みたいなのは、マジである。


「ファルカ。お前は一撃の威力はたぶん、五人の中でも特に優れている。でも、視野が狭い。広い視野を持って、いかなる状況でも対処できるようになれ」

「……つまり、どうすれば」

「見てろ」


 俺は剣を抜き、先程見せた『シャドーボクシング』を見せる。

 だが、ただのシャドーボクシングじゃない。


「……えっ」


 ファルカには見えているだろうか。

 俺が剣を振り、首を傾け、足払いをして、膝蹴り、剣を突き、石を投げる動作をする。

 全て、先程の戦いだ。

 

「み、見えます……お、お師匠様が、ゴブリンとコボルトの群れと、戦っているのを」


 俺は動きを止める。

 汗を拭い、ファルカに言う。


「そう。ゴブリンとコボルトが群れで襲って来るのをイメージしたシャドーだ。あいつらは狡猾だ。それを考慮して、脳内でイメージするんだ。俺の動きを見てお前も見えただろ? ゴブリンとコボルトが」

「み、見えました!!」

「まずは一対一で、ゴブリンをイメージするんだ」


 俺が剣を構えると、目の前にイメージのゴブリンが浮かび上がる。


「ゴブリンは大抵、冒険者から奪った剣やナイフを持つ。棍棒とか、弓矢を使う敵もいる。一対一では正面から向かって来る。攻撃は単調……斬りつけるか、突くだけ」


 俺は回避し、剣でゴブリンの首を両断した。


「一対二では、背後から襲って来るパターンもある。一匹が囮で、二匹目は死角から……あいつらは獲物を殺すためどうすればいいか、考える。だから……」


 俺は死角から襲って来るゴブリンの投石を回避。二投目が来る前に正面のゴブリンを殺し、二匹目に接近し斬る。


「魔獣の特性を考えろ。こいつはこういう攻撃をする、あいつはああする……みたいにな。そしてイメージし、シャドーする」

「シャドー……影、ですか」

「ああ。決して甘く見積もるな。目の前に本物がいることをイメージするんだ。極めると……こう見える」


 俺の目の前には、剣を構えたエルレインがいた。

 そして、俺とエルレインは全力で剣を振るう。鍔迫り合いの音などは聞こえないが、ファルカには目の前にエルレインがいるように見えるだろう。

 幻影が消え、俺は汗を拭う。


「ファルカ。これからお前は、毎日庭でシャドー、幻影との模擬訓練をしろ。最初はイメージするだけで、どう対処すればいいか身体で考えろ。続けていけば、群れのイメージも再現できる」

「…………」

「いいか、今のままで絶対に群れを狩る依頼を受けるなよ。大雑把じゃなくて、器用に立ち回ることを考えるんだ」

「……お師匠様」

「いいか。一年は大物を狩る依頼を受けるな。シャドーで模擬訓練を続けて、討伐依頼も近場で、一対一で戦える敵だけにしろ。そして、勝ったらそいつの動きを分析して、リアルシャドーでイメージを掴め。そうすれば、お前の戦闘経験地は無限に増える」


 ファルカは震えていた。

 目がキラキラしている。これは喜びの震えだな。


「お師匠様!! オレ、まだまだ強くなれますか?」

「なれる。だけど……必要なことはまだあるぞ」

「え……?」

「ふふふ、買い物に行くぞ」

「はい?」


 俺とファルカは町へ出て、必要なモノを買いに出た。


 ◇◇◇◇◇


 町から戻り、ファルカの家のキッチンへ。


「あの、お師匠様……何を?」

「いいか、お前の『超ドリンク』はしばらく禁止だ」

「えええええええええええええ!?」

「代わりに、こいつを作るぞ!!」


 町で大量に買ってきた野菜と果物。そして、王都の行きつけ道具屋で買った『ミキサー』だ。

 別に説明しなくてもいいけど……王都の道具屋、シモンの兄貴であるウエッジがやってる。なので、俺が発明したアイテムを、王都に来るときはウエッジの店へもっていくのだ。

 俺はミキサーに、刻んだ野菜や果物を入れて、氷を入れてスイッチを入れる。

 すると、ミキサーが高速回転……氷も砕け、いい感じのスムージーになった。

 それをコップに入れ、ファルカに渡す。


「さ、飲んでみろ」

「はい!! いただきまーす!! …………うっま!?」


 当然、スムージーはうまい。

 異世界産の野菜果物でも、スムージーは作れる。俺も家でやったからよくわかる。


「いいか。肉も大事だが、野菜や果物はもっと大事だ。これからは超ドリンクの代わりに、このスムージーを飲むように」

「スムージー……!! 野菜、果物ですね!! それをこれでガリガリ砕いて飲み物にする!! これが強さの秘訣なんですね!!」

「ま、まあ、うん」


 まあ、野菜とか果物足りてなさそうだから提案しただけってのはある。ファルカ……もうちょい栄養に気を配ろうぜ。


「あと、お前は一直線すぎる。強くなりたいなら、もっといろんな分野に手を出せ」

「……えーと」

「例えば、酒とか、娯楽だな。女の子とデートするとか、プレゼントするとか」

「……はあ」


 ピンと来ていないな。うーん……よし。


「じゃあこうしよう。お前の同期、エルレインとキュレネとアストライア、どの子が女の子として魅力的だ?」

「魅力的……?」

「例えば、えーと……胸とか、お尻とか」


 いや、俺は何ってんだ……くっそセクハラだろこれ。

 ファルカは真剣に考える。


「うーん……女の胸とか、鍛えても柔らかいままってのは不憫だなと思いましたね。同じ肉なのに、鍛えても柔らかいままってなんでだろうなとは思いました」

「…………ああ、うん」


 ダメだこりゃ。視点が全然違う。えーい、しゃあない。


「とにかく、異性ともってふれあってみろ。デートしたり、メシ食ったり、プレゼントしたり……新しい世界が広がるぞ」

「な、なるほど……」

「あ、ただし嫌がることはするなよ。相手のことを考えるんだ。そういう考える力は、戦うのにも役に立つ」

「おおおお!! それはすごいっすね!!」

「うんうん。あと最も大事なことだ」

「ッ!! はい!!」

「睡眠だ。いいか、お前は睡眠が足りていない。最低六時間は寝ろ。それと、少しでも疲れたと感じたら、マッサージとか受けたり、あとは湯舟にしっかり浸かれ」

「……そ、それが大事なことですか?」


 俺は、生きる上で最も大事なことだと思っている。

 真剣な目で俺が言ったからか、ファルカは頷いた。


「わかりました。お師匠様の教え、今度こそ……!!」

「そうだな。よし、俺の教えはここまで。ファルカ、次に会った時のお前の成長っぷりに期待しているぞ」

「押忍!!」


 こうして、ファルカの指導を終えた。

 バランスのいい食事、睡眠、ストレス解消にマッサージ……これをやることで、少しはファルカが健康的になればいいけどな。


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