第37話
ファルカと飲んだ夜、宿屋にて。
俺はベッドの上に座り、あぐらを組んでいた。
「さて、ここで整理しておくか」
まず、現在俺の『自由人』に登録されているジョブ。
俺は側頭部を指でコンコン叩くと、目の前に『ステータス画面』が開く……これは俺の『自由人』のスキルの一つ『ステータス画面』だ。いやまんまじゃん。
俺にしか見えない空中投影ディスプレイ。タッチパネル式なので操作可能。ちなみに他の人から見ると、何もない空中を指でコンコン叩いているように見えるとか……なので、ステータス画面を見る時はひとりで見る。
「えーと、剣士、刀聖、魔法士、細工師、鍛冶師、連装士、料理人、魔剣士、軽業士……合計九つか。あと三つはジョブストックできるけど……このジョブを得て二十年以上経つけど、全部埋まったことはないな」
『自由人』に新しいジョブを登録する方法はシンプル。『俺が持っていないジョブを持つ人の、心からの願いを叶えること』だ。まあ……その人の心からの願いを叶える機会なんて、そうそうあるわけじゃない。この少なさも納得できる。
ちなみに、エルレインたち五人の同期のジョブは一つも持ってない……付き合いは長いけど、心からの願いってのはわからないし、俺に叶えることはまあできなかったってことだ。
「ファルカは『自由人』のこと知らないけど、俺がタダ者じゃないことは察してるんだよな……剣士のジョブでいくか、いざとなれば固有スキルもあるし」
とりあえず、剣士にセットしておく。
剣士の項目をタッチしてスキルを確認。そこにはジョブレベルと保有スキルがズラッと表示される。
「カンストしてるし、全力出せばSSレートも狩れるな……さて、どうするか」
ファルカ。あんな無茶苦茶な生活をしているとは思わなかった。
昔から猪突猛進というか、その……馬鹿というか、考えが足りないところがあり、エルレインにからかわれよく喧嘩していたっけ。
「あいつの固有スキル『超越怒涛』は、疲れれば疲れるほど強くなるからなあ……でも、それと無茶苦茶な生活するのは意味が違う。よし……」
俺は昔を思い出す……社畜だったころ、上司に誘われて一度行った『あの店』を。
「……まあ、なんとかなるな」
俺は指導方針を決め、ベッドに潜り込むのだった。
◇◇◇◇◇
翌日。
「おはようございます。お師匠様!!」
「声デカい声デカい。おはよう」
冒険者ギルド前では、ファルカが待っていた。抱拳礼を俺も返すと、嬉しそうにする……二十二歳とは思えないほど童顔だ。まだ十三歳ですって言われても納得しちまいそうだ。
「お師匠様!! 今日のトレーニングは!!」
「まず、今のお前の実力を見せてもらおう。今日はお前の指定討伐依頼じゃなくて、俺の受ける普通の討伐依頼を一緒にやろう」
「はい!! へへっ、お師匠様と一緒に依頼やるなんてワクワクだぜ!!」
かわいいやつめ。
依頼掲示板を見ると、ちょうどコボルトとゴブリンの共同集落を壊滅させろとの依頼があった。
それを受諾し、ファルカとギルドを出て目的地へ向かう。
「そういやお師匠様。王都へは何をしに?」
「その辺、言ってなかったな」
ファルカのことばかりで、俺がなぜここに来たのか説明してなかった。
俺はバカンスのことを説明する。
「バカンスかあ……スーリヤって湖の町ですよね?」
「ああ。お前は行ったことあるか?」
「ないっす。修行ばかりでしたし、あーでも……ダッシュで通り抜けたことはあるかも」
「……お前さ、二十二歳だっけ。好きな子とか、恋愛とかしないのか? 身近に女の子とかいないのか?」
セクハラっぽい質問をしてしまった。でも気になったしいいよね!!
ファルカはポカンとして、首を傾げる。
「女の子。受付嬢とはよく話すけど……あとは、ギルマスとか……あ、そういや一昨日、キュレネと会いました。あいつ『あなた、高レートの魔獣狩りすぎ』とか文句言ってましたね。その前だと……ああ、アストライアにも会いました。無視されましたけど」
うん、出会いはなさそうだ!!
とりあえず、この話題はここまで。
「よし。今日の依頼の確認だ。コボルトとゴブリンの共同集落を壊滅させる」
「コボルト、ゴブリン……種族が違うのに共同で集落とか、珍しいっすね」
「そう、珍しいんだ。だからこそ、脅威にもなる。コボルトとゴブリンが交配して生まれる魔獣に『ゴブルト』っていうのがいるんだが……異常に早い成長速度を持ち、高い知能を持つ魔獣になる。過去には、討伐レートSSのゴブルトが、一つの町を崩壊させたなんて話もある」
「ま、マジですか」
ちなみに、そのゴブルトを討伐したのはグレースだ。その活躍のおかげで、グレースはS級冒険者になれたって話もある。
「いいかファルカ。ゴブリンだろうとコボルトだろうと、命を狙う敵であることに変わりはない。ゴブリンのナイフがお前の心臓を貫くことも、コボルトの矢がお前の頭を射抜くこともある。討伐レートだけで敵を測るなよ」
「はい、お師匠様」
討伐レートが高いほど強いのに違いない。でも……だからといって、そればかりを狩り続けても強くはなれない。
「お前がこれまで討伐し続けて来たのは、大物ばかりだろ? デカい魔獣との戦いよりも、集団で襲って来る魔獣の方が俺は怖いね」
「……そう、ですか?」
「ああ。例えば、お前が過去に倒したダイナドラゴン……お前は一人で倒したけど、コボルトとゴブリンだったら何匹いればダイナドラゴンを討伐できる?」
「えーと……百匹くらいとか」
「そういうこと。つまり、百匹いればダイナドラゴンは討伐できる。もし、これから向かう集落にゴブリンとコボルトが千体いたら? つまり、ダイナドラゴン十匹を相手にするようなもんだ」
「……あ!!」
「数の暴力。俺は、デカい一体よりこっちのが怖いね」
ファルカはポカンと口を開けて、衝撃を受けていた。
「さっき、ギルドの討伐依頼掲示板を見たけど、大物討伐より小物の群れを討伐する依頼がけっこうあった。まず一つ目……ファルカ、しばらくお前は遠出するより、近場の群れを討伐するように。きっと、新しいものが見えてくる」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!! さ、さすがお師匠様!! 恐れ入りました!!」
よし、これで一つの目標クリア。
近場なら、早朝に出ても夕方には戻ってこれるだろう。ファルカの強さならなおさらだ。
「あともう一つ、実戦も大事だけど、これまでの教えを反復する復習も大事だ」
「……へ?」
「そだな、ちょっと見てろ」
足を止め、街道から少し逸れて平原へ。
ジョブが『剣士』であることを確認。
「がむしゃらに戦うのも悪くないし、俺も好きだけど……大事なのはそれだけじゃない。日々の積み重ねも大事だ。さてファルカ、剣士の代表的なトレーニングといえば?」
「えと……素振り?」
「正解」
俺は剣を抜き、素振りを開始する。
そして、剣の型を繰り出し、舞うように剣技を披露する。
「すっげえ……」
「素振りは剣士にとって最高のトレーニングだ。さらにもう一つ……」
俺は、かつて戦ったことのある剣士をイメ-ジする。
仮想敵。イメージとして目の前にぼんやり見える。そして、そいつはまっすぐ剣を振り下ろしてきたので、半歩下がって回避。そのまま右胴を斬りつけようとしたが敵も回避。鍔迫り合いを繰り返し、俺のカウンターが相手を切り裂いた。
「と、こんな感じ」
「え、え……敵、あれ?」
「見えたか? 今のはシャドーボクシング……えーと、敵をイメージして、そいつを相手にして戦ってみたんだ」
「ど、どうやって」
「イメージだよ。かつての戦った相手だし、そいつにできること、できないこと、技やスキルを分析して、実際に戦うとどうなるかをイメージする……」
漫画で見たことある訓練方法だ。
「とりあえず、話の続きはあと……集落を壊滅させるぞ」
「は、はい!!」
さて、俺の予想だと……どうなるかな?




