第36話
夕方になり、俺はファルカとの待ち合わせである冒険者ギルドへ。
少し早かったな……と思いつつ到着、ギルドラウンジでお茶でもと思っていると、ギルド内で何やら騒ぎになっていた。
「さあさあ、挑戦はいないのか? オレはまだまだいけるぜ!!」
「駄目だ、『鬼王』に勝てるわけねぇよ」
「お前行けよ……」
「無理無理。もう十七人抜きだぜ? ガキみたいな顔してるのに、なんてパワーだよあいつ……」
人だかりを覗き込むと……なんと、ファルカが腕相撲で多くの男たちを叩きのめしていた。ていうか、何してんだこいつは。
ファルカと目が合う。
「あ、お師匠様!!」
「おま、馬鹿、声でかい……ああ、手遅れ」
夕方なので、依頼完了の報告にと多くの冒険者が集まっている。そして、騒ぎの中心であるファルカがデカい声で『お師匠様!!』なんていうモンだから、視線が一斉に俺へ向いた。
「お師匠、って」
「嘘、あの『極星五傑』の師匠?」
「噂だと、五傑の師匠ってみんな同じみたいよ」
「なんかパッとしねぇおっさんだな……強いのか?」
視線が痛い、痛すぎる。
俺は曖昧に微笑み、ファルカに手招き。ファルカは嬉しそうに俺の元へ来て抱拳礼。
「お待たせしました、お師匠様!!」
「い、行くぞ。メシ、メシに行こう。俺が奢ってやるから」
「はい!! じゃあみんな、挑戦はまた今度な!!」
どこまでも目立ちやがって。
俺はファルカと一緒に、個室のある居酒屋を探すのだった。
◇◇◇◇◇
適当な居酒屋に入る……もちろん、俺の奢りだ。
メニュー表を見ると、かなり種類が多い。おつまみにお酒がこんなにある居酒屋、ポータムにはないぞ。
悩んでいると、ファルカが挙手。
「すんませーん、焼肉大盛、空のジョッキくださーい」
「……ん?」
焼肉大盛はわかる。だが、空のジョッキ?
店員も困惑していたが「は、はあ」と納得していた。俺は無難に酒とおつまみ数種類を注文。
そして、ファルカの前に空のジョッキがドンと置かれた。
「……お前、そのジョッキどうするんだ?」
「へへ、もちろんこうするすんですよ」
ファルカは、カバンから十個以上の生卵を出し、ジョッキに割入れる。そして、蜂蜜をドローッと流し込み、さらに鉄の水筒を出して牛乳を流し込む。そしてさらに、妙な粉末をジョッキに入れて、スプーンで軽く混ぜた。
「……な、なんだそれ?」
「オレの超ドリンクっす。いやー、身体を完璧にするために飲んでるんですよ。毎日肉、特製ドリンクの組み合わせで生きてます!!」
「…………」
メチャクチャ身体に悪い気がする……っていうか、どういう組み合わせでその食材を……そもそもここ居酒屋だし食材持ち込んで、しかも自分で調理……ああもう、何からツッコミすればいいんだ。
ま、まあいい。
俺はファルカとジョッキを合わせる。ちなみに俺は普通のエールを飲んでいる。
「お師匠様。久しぶりに会えてうれしいっす。へへ……」
「ああ、お前も元気そうで何より。最近どうだ?」
「もちろん、日々限界まで自分を鍛えています。肉を食って力にして、超ドリンクを飲む生活です!!」
「お、おう……あんま無理すんなよ?」
「ええ、昨日は四時間も寝たし、回復ならばっちりです!!」
よ、四時間……ショートスリーパーなのか? ちなみに俺は七時間寝たけど。
なんか、身体中傷だらけだし、どういう生活してるのかな。
こいつ、昔から猪突猛進というか……うーん。
「ファルカ。参考までに聞きたいんだが……お前の一日ってどんな感じなんだ?」
「へ? 普通ですけど」
「その『普通』を知りたい。ちょっと教えてくれ」
「はあ、いいですけど」
ファルカは特製ドリンクを一気に飲み干し、嬉しそうに語り始めた。
◇◇◇◇◇
早朝、日が昇ると同時に、ファルカの一日は始まる。
ベッドから飛び起きストレッチ。窓を開け、陽光を浴びながら『超ドリンク』を一気飲み。
時間にして朝の三時。
「よし!! 今日も一日鍛えるぜ!!」
朝食前、ファルカはランニングと称した『王都十区画一周』のランニングをする。だが一般的には全力疾走で王都の一~十区画を走るのはランニングとはいわない。
三時間後、ファルカは帰宅。
「朝の超ドリンク、いただきます!!」
二杯目の超ドリンクを一気飲み。それから朝食が始まる。
ファルカは基本的に自炊。自宅の地下に大きな冷凍庫設備を作り、そこに自分で狩った大量の魔獣肉をストックしている。
そこから、肉塊五キロを手に取り、魔導レンジ(電子レンジみたいなモン)で解凍……そのまま高温で焼く。
味付けは、塩コショウのみ。ただの焼いた肉塊五キロを皿にのせ、ファルカは両手を合わせて一礼する。
「命に感謝、肉に感謝、お師匠様に感謝!! いただきます!!」
この『いただきます』はアルノーの教え。ファルカはもうずっと続けている。
ファルカは二十二歳。年齢の割には童顔で細身だが……肉塊五キロは十分もしないうちに消えた。
そして、三杯目の『超ドリンク』を飲み、ファルカは家を出る。
まだ、朝の七時前。間もなく冒険者ギルドが開く。
そして、冒険者ギルドが開くと同時に、ファルカは依頼掲示板ではなく受付へ。
「オレへの指名依頼、あるか!!」
「ふぁ、ファルカさん? あの、ありますけど……その、昨日SSレートの魔獣、討伐したばかりですし」
「へへ、オレなら平気さ。もっともっと自分を追い込んで、極限の強さを手に入れたいからな!! さあ、依頼見せてくれ!!」
「は、はい」
ドン引きの受付嬢。まだギルドに入って日が浅いらしく、ファルカのグイグイ来る態度に慣れていないようだ。初めてファルカを見た時は、S級冒険者であり『極星五傑』の一人であり、さらに見た目もカッコよく、笑顔がどこか可愛らしい……なんて思っていたが、ファルカを知れば知るほど、この人物に色恋はムリだと思った。
そして、ファルカの指名依頼の依頼書を見せる。全てが討伐依頼で、ファルカは一枚の依頼書を手にする。
「ここから西に二百キロに『ダイナドラゴン』の巣ができたのか。討伐レートS……昨日はSSだったけど、こっちは距離が二百キロ、往復で四百キロ……うん、今日は下半身を重点的に鍛えるか。敵も蹴り技だけで倒そう!! これ受けるぜ!!」
「……は、はい」
全く意味不明な自己ルールを課し、ファルカは依頼を受けた。
そして、ギルド前でストレッチをし、全力で走り出す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお待ってろよおおおおおおおおオレのドラゴンんんんんんん!!」
全力疾走。
ファルカは、全力でダイナドラゴンを討伐しに、片道二百キロある距離を走り出す。
そして、道中に現れる魔獣は全て、蹴り技で倒しながら進み……五時間後、巣に到着した。
人間ではあり得ない速度での走り。ファルカは大汗を流し、疲労も限界。
そして、巣の前に現れた。
『ギャオオオオオオオオオオオオオ!!』
討伐レートS、ダイナドラゴン。
全長四十メートル。四足歩行の巨大なトカゲ……という見た目。
ファルカはフラフラになりながら、足を高く上げて威嚇をする。
「いい肉だ。お前の肉、オレが喰らってやるよ!!」
ファルカが、地面を踏みしめると地面が揺れる。
それだけではない、周囲の大地から岩が隆起し、さらに地割れが発生。
かつてアルノーは、「お前さ、地属性の魔法を、素手で実現できるんじゃないか?」と言っていた。ファルカは、地面を殴り蹴ることで、地属性魔法を再現するくらい、大地を操作することができるようになっていた。
「くぅぅぅぅ~!! 調子出て来たぁ!!」
固有スキル『超越怒涛』
ファルカは、疲労すればするほど、魔力量が増大し、スキルの威力も爆増する。
地面を揺らす『アースクエイク』も大地震に、大地から岩の槍を生やす『ロックランス』も大岩の槍へとなり、巨大なダイナドラゴンを翻弄する。
さらにさらに、それだけではない。
「ッシャアアアアアアアアア!!」
ジョブ『拳聖』。
格闘最強。ファルカは、徒手空拳において無類の強さを発揮する。
漲る魔力が可視化され肉体を覆い、地面を蹴り、殴り、砕くことで地魔法に匹敵する技を独自に操り、『拳聖』の格闘スキルによる無敵の戦いを行使する。
付いた二つ名は『鬼王』。
「スキル『マックスアップ』!! からの……『ジオ・インパクト』おオオオオオオオオオ!!」
魔力を込めた拳が、ダイナドラゴンの頭に命中。
あまりの威力に頭蓋が砕け、目が飛び出し、ダイナドラゴンは即死。
ファルカは拳を掲げた。
「オレの勝ちだああああああああああああああ!! よし帰るぞ!!」
帰る前に、水筒に入れた『超ドリンク』を一気飲み。
エネルギーを蓄え、ファルカは森の木を加工して特製の荷車を作り、乗せ、そのまま引っ張って走り出した。
そのまま走ること六時間……ギルドが閉まる前。
ファルカはダイナドラゴンをギルドへ運び込んだ。
「お、お疲れ様です。えと、査定と報酬は」
「明日でいいぜ!! あ、肉だけもらうぜ。晩飯にするからよ!!」
ダイナドラゴンの胸肉をカットしてもらい、ファルカはウキウキで家へ。
さっそく丸焼きに……味付けは塩コショウのみ。
「いただきまーす!!」
ファルカは、幸せそうに肉を頬張り、超ドリンクを一気飲み。
食事を終え、シャワーを浴び……時間はちょうど日が変わったころ。
「いやー、いい一日だった。じゃあおやすみなさーい」
就寝。
ファルカはベッドに入って十秒で爆睡。
そして、三時間後。
「ふあああああああ!! いい朝!! 今日も鍛えるぜええええええ!!」
睡眠時間は三時間。
今日もファルカの一日が始まる。
◇◇◇◇◇
「……こんな感じっすね」
「死ぬぞお前」
なんつう生活だよ……食生活とか、栄養バランスとかメチャクチャだし、睡眠時間三時間ってマジかよ。
今は若いからいいけど、これ絶対十年後くらいに内臓にくるぞ。
「……全く、キュレネもだけど、お前は別の意味で放っておけないな」
「へ?」
「ファルカ。お前、それで強くなれると思うか?」
「そりゃもちろん!! いい食事、トレーニングを続ければ強くなれるってお師匠様が言ってたじゃないですか!!」
「……まあ、そうだけど。ていうか限度というか、曲解してるというか」
さすがに、こんな極端な方法を教えていない。こいつなりに考えたのかもしれないけど……しゃーないな。
「よしファルカ。久しぶりに、俺が稽古を付けてやろう。お前の『拳聖』がどれくらい強くなったか、見せてもらおうか」
「ほ、ほほ、ホントですか!? やったあああああああ!! お師匠様のトレーニングだあああああ!!」
とりあえず……まずはその『超ドリンク』はやめようか!! こうして俺は、ファルカのトレーニングをすることになるのだった。




