第33話
ステージが終わり、再びマーガレットさんに案内され、今度は別の部屋に通された。
さっきの応接室とは違い、こっちは比較的シンプルな感じ。
対面に並ぶソファ、簡素なテーブル、飾り気のない必要最低限の物しか置いてない部屋……なーるほどね。
俺は壁をコンコン叩いていると、ステージ衣装のままのキュレネが来た。
「お待たせしました、コーチ」
「おう。っていうか……着替えてから来ればいいのに」
「いえ。コーチを待たせるなんてできません。それに……近くて見てもらいたかったので。その、どうでしょうか……この衣装」
赤いドレス。モチーフは薔薇で間違いないだろう。そういや、キュレネはバラが好きだったな……花束の一つでも買ってくればよかったぜ。
「似合ってるぞ。赤薔薇って言葉はお前のためにあるようなもんだな」
「……ありがとうございます。嬉しい……」
そ、そんなに感動することなのかな。
キュレネは「やだ、私ったら」と表情を改め、ソファへ案内する。
俺が座るとキュレネも座った。俺はさっそく話を切り出す。
「相談ってのは、身内に聞かれるわけにはいかない話なんだな。だからこんな部屋でするのか」
「……コーチにはお見通しですか」
この部屋、軽く叩いただけでわかる。壁の厚さがとんでもない。たぶん、何枚か鉄板が挟んである。防音室でもあり、シェルターみたいな部屋でもあるのかな。
キュレネは言う。
「その……実は、劇場の経営が上手くいってなくて」
「ふーむ……でも俺、経営に関してはその、全くの素人だ。相談って言われても」
「わかっています。でも、コーチなら……なんとかできるんじゃないかと」
キュレネは、テーブルに何枚もの羊皮紙を置く。
見ていいとのことだったので確認……ってこれ、劇場の収支関連報告書じゃねぇか!! 部外者の俺が見ていいもんじゃないぞ。
「おいおい、これは俺が見ていいもんじゃ」
「お願いします。コーチ……どうか、見てください。そして、コーチのアドバイスを」
「……はああ」
しゃーないない。
収支報告書を見る。こう見えて地球では会社員やってたし、経理関係の仕事もやっていたから、自分で言うのはアレだが数字には強い。
収支を確認すると、いきなり眉をひそめる。
「いや……収入が劇場の入場料と、養成所の月謝だけ。しかも、入場料……や、安くないか?」
この世界の通貨は、貨幣スタイルだ。
一番安い鉄貨が百円、銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円、そして白金貨が百万円で取引されている。だいたいコッペパンが鉄貨二枚くらいで買える。俺がメインで使ってる鉄の剣は銀貨五枚くらいで買える。
「入場料、銅貨五枚……って、いや、さすがに」
「や、安いのですか?」
ここでやってるのは舞踊だけじゃない。ミュージカルもあるし、楽団の演奏もある。
養成所も、世界各国のダンスだけじゃなく、楽器の演奏指導とかもあるし……間違いなく、ここは王都で一番の『歌と踊りを学べる場所』だ。
「それなのに、入場料銅貨五枚、養成所の月謝も銅貨五枚……」
劇場の席が全て埋まって三千席。キュレネ曰く、毎日席は埋まっているから……五千円かける三千は……千五百万円の収入。
んで、個人へ支払う給料と、劇場の維持管理費と、月一で入って来る訓練生の月謝……えーと、えーと。
いつの間にか、俺はメモを取っていた。
その様子を、キュレネがニコニコしながら見ている。
「あれ? この月に何度か、外部収入があるけど」
「あ、それは私が魔獣を狩って得た素材の代金です。その……冒険者の収入で、なんとか支えている状況です」
「だな」
俺は計算した数字を見る。
「うん、ギリギリ赤字だな……というか、こういうアドバイスするやつはいないのか?」
「その……事務員を雇おうと思ったのですけど、やはり冒険者であり、踊り子でもある私が目当てで近付いてくる方が多くて……私もマーガレットでやっています」
清掃とか、指導の講師は別のようだが……金が絡むとなると、キュレネは慎重になりすぎているところがあるな。
話によると、値段や給料などを決めたのはキュレネのような。
「相場がよくわからないので……冒険者ギルド職員のお給料の値段と、私の感謝の気持ちを加えた値段にしました」
「そ、そうなのか」
言っちゃわるいがキュレネ……経営者に向いてないな。
こういうのは専門家がいないとダメだ。
「いろいろ金額の見直しが必要になるな。冒険者としての収入もアテるのは悪くないけど……劇場だけの収入でやれないとなると、このままだとマズイぞ」
「……コーチ」
さて、どうするか。
ていうか、傾きかけた劇場経営を助けるって、ただ挨拶に来ただけなのにいろいろ厄介なことになってるなあ。
「……ふむ。まあ、やるか」
キュレネは、ようやく自分の居場所を手に入れたのだ。そこを失うなんてことは、絶対にしてほしくない。
俺はしばらく考え、キュレネを見た。
「キュレネ。いろいろ手を加えるアイデア出すけど……それを実行するかどうかはお前に任せる」
「……はい!!」
「よし。まずは……さすがに入場料は少し上げないと。あと、講師たちの給料は……下手にいじると講師辞めるかもしれないからこのままだ。それと、新しい収入源を手に入れるべきだ。それと、事務員、金に強いやつを雇うべきだ」
「……え、えっと」
「まあ、俺に任せろ。王都にはあんまり来ないけど、伝手はある」
どっかの冒険者ギルドマスターとかな!!
それに、面白いアイデアも振ってきた。
「さあて、まずは計画書を作るか。キュレネ、書くもん貸してくれ」
「はい!! ふふ……やっぱり、コーチは頼りになります!!」
俺は、思いついたことを整理した書きだすのだった。




