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転生して35年、その日暮らしのD級冒険者やってます。  作者: さとう
第二章

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33/50

第33話

 ステージが終わり、再びマーガレットさんに案内され、今度は別の部屋に通された。

 さっきの応接室とは違い、こっちは比較的シンプルな感じ。

 対面に並ぶソファ、簡素なテーブル、飾り気のない必要最低限の物しか置いてない部屋……なーるほどね。

 俺は壁をコンコン叩いていると、ステージ衣装のままのキュレネが来た。


「お待たせしました、コーチ」

「おう。っていうか……着替えてから来ればいいのに」

「いえ。コーチを待たせるなんてできません。それに……近くて見てもらいたかったので。その、どうでしょうか……この衣装」


 赤いドレス。モチーフは薔薇で間違いないだろう。そういや、キュレネはバラが好きだったな……花束の一つでも買ってくればよかったぜ。


「似合ってるぞ。赤薔薇って言葉はお前のためにあるようなもんだな」

「……ありがとうございます。嬉しい……」


 そ、そんなに感動することなのかな。

 キュレネは「やだ、私ったら」と表情を改め、ソファへ案内する。

 俺が座るとキュレネも座った。俺はさっそく話を切り出す。


「相談ってのは、身内に聞かれるわけにはいかない話なんだな。だからこんな部屋でするのか」

「……コーチにはお見通しですか」


 この部屋、軽く叩いただけでわかる。壁の厚さがとんでもない。たぶん、何枚か鉄板が挟んである。防音室でもあり、シェルターみたいな部屋でもあるのかな。

 キュレネは言う。


「その……実は、劇場の経営が上手くいってなくて」

「ふーむ……でも俺、経営に関してはその、全くの素人だ。相談って言われても」

「わかっています。でも、コーチなら……なんとかできるんじゃないかと」


 キュレネは、テーブルに何枚もの羊皮紙を置く。

 見ていいとのことだったので確認……ってこれ、劇場の収支関連報告書じゃねぇか!! 部外者の俺が見ていいもんじゃないぞ。

 

「おいおい、これは俺が見ていいもんじゃ」

「お願いします。コーチ……どうか、見てください。そして、コーチのアドバイスを」

「……はああ」


 しゃーないない。

 収支報告書を見る。こう見えて地球では会社員やってたし、経理関係の仕事もやっていたから、自分で言うのはアレだが数字には強い。

 収支を確認すると、いきなり眉をひそめる。


「いや……収入が劇場の入場料と、養成所の月謝だけ。しかも、入場料……や、安くないか?」


 この世界の通貨は、貨幣スタイルだ。

 一番安い鉄貨が百円、銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円、そして白金貨が百万円で取引されている。だいたいコッペパンが鉄貨二枚くらいで買える。俺がメインで使ってる鉄の剣は銀貨五枚くらいで買える。


「入場料、銅貨五枚……って、いや、さすがに」

「や、安いのですか?」


 ここでやってるのは舞踊だけじゃない。ミュージカルもあるし、楽団の演奏もある。

 養成所も、世界各国のダンスだけじゃなく、楽器の演奏指導とかもあるし……間違いなく、ここは王都で一番の『歌と踊りを学べる場所』だ。


「それなのに、入場料銅貨五枚、養成所の月謝も銅貨五枚……」


 劇場の席が全て埋まって三千席。キュレネ曰く、毎日席は埋まっているから……五千円かける三千は……千五百万円の収入。

 んで、個人へ支払う給料と、劇場の維持管理費と、月一で入って来る訓練生の月謝……えーと、えーと。

 いつの間にか、俺はメモを取っていた。

 その様子を、キュレネがニコニコしながら見ている。


「あれ? この月に何度か、外部収入があるけど」

「あ、それは私が魔獣を狩って得た素材の代金です。その……冒険者の収入で、なんとか支えている状況です」

「だな」


 俺は計算した数字を見る。

 

「うん、ギリギリ赤字だな……というか、こういうアドバイスするやつはいないのか?」

「その……事務員を雇おうと思ったのですけど、やはり冒険者であり、踊り子でもある私が目当てで近付いてくる方が多くて……私もマーガレットでやっています」


 清掃とか、指導の講師は別のようだが……金が絡むとなると、キュレネは慎重になりすぎているところがあるな。

 話によると、値段や給料などを決めたのはキュレネのような。


「相場がよくわからないので……冒険者ギルド職員のお給料の値段と、私の感謝の気持ちを加えた値段にしました」

「そ、そうなのか」


 言っちゃわるいがキュレネ……経営者に向いてないな。

 こういうのは専門家がいないとダメだ。


「いろいろ金額の見直しが必要になるな。冒険者としての収入もアテるのは悪くないけど……劇場だけの収入でやれないとなると、このままだとマズイぞ」

「……コーチ」


 さて、どうするか。

 ていうか、傾きかけた劇場経営を助けるって、ただ挨拶に来ただけなのにいろいろ厄介なことになってるなあ。


「……ふむ。まあ、やるか」


 キュレネは、ようやく自分の居場所を手に入れたのだ。そこを失うなんてことは、絶対にしてほしくない。

 俺はしばらく考え、キュレネを見た。


「キュレネ。いろいろ手を加えるアイデア出すけど……それを実行するかどうかはお前に任せる」

「……はい!!」

「よし。まずは……さすがに入場料は少し上げないと。あと、講師たちの給料は……下手にいじると講師辞めるかもしれないからこのままだ。それと、新しい収入源を手に入れるべきだ。それと、事務員、金に強いやつを雇うべきだ」

「……え、えっと」

「まあ、俺に任せろ。王都にはあんまり来ないけど、伝手はある」


 どっかの冒険者ギルドマスターとかな!! 

 それに、面白いアイデアも振ってきた。


「さあて、まずは計画書を作るか。キュレネ、書くもん貸してくれ」

「はい!! ふふ……やっぱり、コーチは頼りになります!!」


 俺は、思いついたことを整理した書きだすのだった。


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