第30話
夜になり、俺は宿を出た。
これからレグナフィリアとの飲み会だ。待ち合わせ場所は冒険者ギルド前で、俺は腰に護身用のナイフだけを差し、財布を胸ポケットに入れた。
いちおう、あいつの奢りだけど……まあ、二軒目は俺が奢ってやろうかね。
ギルド前に行くと……いたいた。
「おーい、レグナフィリア」
「あ、来たわね」
レグナフィリア。
ギルマス部屋で見た時とは違い、長い髪を三つ編みにし、やや厚手のシャツやスカートを履いていた。
美貌は変わらないはずなんだが……妙に芋っぽいというか、地味に見える。
俺は軽く手を振って言う。
「精霊も頑張ってるみたいだけど、お前の美貌は隠しきれてないな」
「あら、私の『精霊偽装』をけなしているのか、私の容姿を褒めてくれているのか、どっちかしら?」
「さーな。それより行こうぜ」
レグナフィリアのジョブは『精霊術士』……エピックジョブと呼ばれる超希少なジョブ。そりゃもう珍しい、世界でも十人いるかいないかの珍しさ。
ジョブには等級があり、ノーマルから始まり、レア、レジェンド、エピックと続き、伝説であるゴッドと続く。
エピック以上のジョブは、種族が関係していると言われている。
例えば、レグナフィリアはエルダーエルフ。これまで『精霊術士』のジョブを得た者はみんなエルダーエルフだった……とか。
しまった、また長々と……ちなみに、『精霊偽装』っていうのは、精霊を身にまとうことで外見を変化させる、レグナフィリアの十八番スキルである。
「アルノー、どうしたの? ふふ、また頭の中で言葉を発してるの?」
「ああ、クセみたいなもんだ。で……どの店行く?」
「私のお気に入り。さ、こっちよ」
レグナフィリアは俺の腕を取り、なんと胸に押し付けてくる……うん、デカい。
「ね、焼き鳥好きだったよね? それともお鍋? 美味しいお魚料理のお店もあるけど……ん~、お気に入り多くて困っちゃうわ」
「そう言う時は、全部行くぞ。一軒で腹いっぱいにするんじゃなくて、二軒目、三軒目のために少量ずつ楽しむんだ」
「あ、それいいわね」
最初に向かったのは、美味しい焼き鳥の店。
店主が目の前で焼いてくれる、日本でもよく見る感じの店だ。
二人で向かい合わせに座り、エールと焼き鳥盛り上わせを注文し乾杯する。
最初の一杯は飲み干し、すぐに杯目を注文……俺は焼き鳥を食う。
「うっま。脂すげえなあ」
「でしょ?」
レグナフィリアは、焼き鳥をハフハフしながら食う。
そんな様子を見ながら、俺は言う。
「お前、相変わらず猫被ってんだな」
「何よその言い方。しょーがないでしょ? もう二百年くらいギルマスやってるけど、今更こんな素を見せられるわけないじゃない」
そう……こっちが本当のレグナフィリアだ。
二百年前、『神秘的でミステリアスなギルドマスター』という雰囲気で王都のギルマスに就任し、そのままずっとそのキャラで通してきたせいで、王都中に『ギルマスは神秘的なエルフ』というのが伝わってしまい、そのキャラでやっていくしかなくなったのだ。
「アルノーは、早々に私のこと見破ったわよね」
「まあ、なんとなくな。それを言うならお前もだろ」
「ま、長生きしてるからね。あなたのジョブ……詳細は教えてくれないけど、いくつもジョブ持ってるんでしょ?」
「……デカい声で言うな」
「はいはい。ま、別にいいけどね。それより……あなた、王都に来ないの?」
「……まーたその話か」
俺はエールを飲み干し、同じのを注文。
「俺は、ポータムでのんびりその日暮らしするのが好きなんだよ。王都は騒がしいし、面倒くさいことも多いしな。それに、もう三十五歳……冒険なんて、できないね」
「は、まだガキじゃない」
「エルフのスパンで言うなよ。ったく」
「はいはい。それより、キュレネたちには会った?」
「いんや、まだ。挨拶しに行こうとは思ってるけど」
えーつが届いたので、俺は飲む……はあ、王都のエールはポータムのとまた違う味するなあ。
「『極星五傑』は毎日多忙だしねぇ、行くならアポ取った方がいいわよ。私が紹介状を書きましょうか?」
「グラン……なに?」
「あれ、知らないの? あなたの教え子五人、マルセム王国始まって以来最強の五人、今を代表する冒険者なのよ。それで、かっこいい呼び名を私が考えたの」
「……それが?」
「『極星五傑』よ。かっこいいでしょ? 王都マルシェを照らす五つの光、五人の英傑。ふふん、自分のセンスが恐ろしいわね」
くっそ中二病みたいな名前だな……言ったらキレそうだし言わんけど。
俺は焼き鳥を齧って言う。
「最近、あいつらどうしてるんだ?」
「言ったでしょ。みんな多忙。キュレネは劇場でダンサーたちの指導、ファルカは修行、ティンフェニアは王城での魔法指導、スティンギールは古文書解読……自由に冒険者をやってるのはエルレインくらいね」
「冒険者っていうか、みんな仕事人だな……ファルカ以外」
「まあ、みんな冒険者は副業になりつつあるわね」
口直しに、野菜サラダを食べる。うん……さっぱりして美味しい。
「みんな忙しいのか。せっかく王都に来たんだし、挨拶でもって思ったんだが……まあ、あいつら全員、俺のことなんて忘れてるかもなあ」
「あ~……それはないんじゃない? ま、紹介状を書くから、明日にでもギルドに取りに来なさいよ。私の紹介なら、王様だって断れないしね」
「そういやお前、マルセム王国の建国にも関わってるんだっけ……なあ、正直な年齢、いくつなんだ?」
「知りたい?」
「…………やっぱやめとく」
こうして、この日はずっとレグナフィリアと飲み続けるのだった。




