第29話
さて、数日のんびり歩いた。
道中、いい感じの湖で釣りキャンプしたり、わざと遠回りして小さな村を経由した。偶然にもその村で小さなお祭りをやっていたので参加した。
冒険者が珍しいのか、村の子供たちが俺の話を聞きたがって集まって来たので、ちょっと誇張して若いころに倒したオーガの話をしてやると、なぜか大人たちも集まって俺の冒険譚を語るステージみたいになり、めちゃくちゃ盛り上がった。
そして、なぜか村総出で見送られた。子供たちも何人か「おれ、冒険者になる!!」なんて言い出すし……もしかしたら俺が指導することになるかもな。
それから、寄り道せずにのんびり王都へ……少し遠回りなので時間はかかったが、魔獣に遭遇することもなく、平穏に王都へ到着した。おいそこ、つまらないとか言うなよ? 平穏無事こそ大事なんだ。
まずは宿を取り、荷物を全て置く。
依頼書に書状、腰に片手剣だけを下げて王都の冒険者ギルドへ。
「にしても、相変わらずの喧噪だ」
そういや、ちゃんと脳内描写したことなかったな……この国のこと。
◇◇◇◇◇
この世界は、かなりデカい。
大小様々な規模の国が存在し、その中でも特にデカい国が五つある。さらにその中でも特に大きく、さらに力を持つ国がここ、マルセム王国だ。
人口はよくわからんが、たぶん数百か数千万。
商業、農業、製造業や軍事産業……あらゆるジャンルに特化した多種多様な種族が住まう国。この国ではどんな種族も平等に扱われる。それが国の指針だ。
なので、獣人やエルフの貴族も普通にいる。今のマルセム王国の王様も、祖先を辿れば獣人とかドワーフなんかもいるからな。
んで、俺がいるのは王都マルシェ。
もう大都会よ大都会。でかいビルみたいな建物が並び、道行くのは多種多様な種族。エルフの子供が獣人の子供とサッカーしてたり、獣人のおばちゃんが人間の奥さんと井戸端会議してるのも普通の光景だ。
王都マルシェはとにかくデカい。三百以上の区画があり、それぞれ獣人とかエルフしか住んでない区画とか、デカい倉庫だけの区画とか、その……エッチなお店だけの区画とかもある。
んで、そのマルシェの中心区画……ここは各種ギルドが集まる、冒険者にとって憧れの地である『冒険者ギルド・総本部』がある。
冒険者の始まりのギルド。そりゃもう国会議事堂みたいなデカさ。正門とか横幅二十メートル以上あるし、掃除大変そうだ。
長々とすまん……ここまで読んでくれてありがとう。まあ、デカい国ってことだけ覚えておいてくれ。あ、ちなみに俺が住んでる町の名前は『ポータム』だ。
◇◇◇◇◇
さて、やってきました冒険者ギルド本部。
「相変わらずデケー……」
簡単に表現するなら『異世界版・国会議事堂』だ。
ていうか、でかい美術館みたいな、荘厳な建物に見える。
入るとまず視界に入るのが、クソデカい石像……剣を掲げたオッサンの石像だ。
なんでも、マルセム王国の初代国王にして、冒険者の始まり、始祖と言われるとかなんとか……正直全然詳しくない。
石像を素通りし、俺はギルド内へ。
「うんうん、大都会……俺には合わん」
巨大すぎる依頼掲示板、横にずらーっと二十か所は並ぶ受付カウンター、二階はとんでもなく広いギルドラウンジだし、もうとにかくデカい、デカい、デカい。
俺は適当なカウンターに向かい、依頼書を出す。
「ポータムの冒険者ギルドマスター、グレースからの依頼だ。レグナフィリアはいるか?」
「なっ……は、はい。ギルドマスターは部屋にいますが……」
俺は、冒険者カードを見せる。
受付嬢はややきつい目をしていた。そりゃそうか……三十五歳、D級の冒険者が、世界最大にして始まりの冒険者ギルド、そのギルマスを呼び捨てしたんだからな。
受付嬢は依頼書を確認する。そして、もう一度俺を見て言った。
「確認しました。では、部屋まで案内します」
「ああ、頼む」
依頼書には、届人である俺が直接ギルマスへ渡すようにと指示されていた。
受付嬢はカウンターから出て、俺をギルドの最上階である七階まで案内する。
七階は、ギルマスの邸宅でもある。階段を上ってすぐに大きなドアがあり、受付嬢はドアをノックする。
すると、透き通るような声が聞こえて来た。
『はい』
「し、失礼します。ポータムのギルドマスターからの書状を届けに来ました」
緊張する受付嬢。
すると、まるで自動ドアのようにドアがスライドする。
室内は……うわ、相変わらずだな。
「ぎ、ギルドマスター、こちらの冒険者が、書状を」
「ええ……あら」
「よう、レグナフィリア。久しぶりだな」
ギョッとする受付嬢。
俺は軽く手を上げ、窓際にいるギルドマスターを見る。
「アルノー、久しぶりですね。ふふ、王都に来る決意が固まったのですか?」
レグナフィリア。
年齢は二十歳になったばかりみたいだが、こう見えて千年は生きているエルフ族……の、中でも特に珍しい、エルフ族の始祖エルダーエルフの女性だ。
真っ白な髪は腰まで伸びており、着ている服は薄手のヴェールみたいな、微妙にスケスケのドレス。豊満なスタイルがよくわかってしまうのがなんともエロい。
足も細いし、膝上のスカートも上質な布で作ったのか、ややキラキラしている。
そして何より、その美貌。
神様が『美』を意識して作り上げたような、老若男女問わず魅了しちまうような、とにかく美女、超美女だ。
赤いルビーみたいな目が静かに揺れ、口も小さく笑みの形に変わる。
「何年ぶりでしょうね。あなたがここに来るのは……四日ぶりかしら?」
「エルフのスパンで語るなっつの。あー……三年ぶりくらいか?」
受付嬢は唖然としている。まあ、こんな態度ならそうだよな。
レグナフィリアは、受付嬢に軽く目配せする。受付嬢は頭を下げて部屋を出た。
俺はソファに座り、周囲を見渡す。
「相変わらず、森みたいな部屋だな」
レトロというか……なんか落ち着く。
緑をイメージした部屋だ。植物が多くあり、香りも森の中にいるみたいだ。
レグナフィリアはクスっと微笑み、視線をサイドテーブルへ。
すると、ティーポットがふわりと浮かび、中にお湯が満たされ、天井に下がっていた蔓草から葉っぱが落ち、一瞬で葉っぱが乾燥してボロボロに……そしてティーポットの中に落ちる。そして、レグナフィリアもソファに座ると、ふわふわ浮かんだティーポットがカップにお茶を注ぎ、俺の前へ。
「相変わらず、精霊は何でもしてくれるんだな」
「ふふ……みんな優しくていい子よ? あなたと、グレースみたいにね」
「あ、そうだ。これグレースから」
俺は書状をテーブルへ置く。すると、手紙が浮かび封を開け、レグナフィリアの前で開かれた。
レグナフィリアは紅茶を飲みながら文字を追い、クスっと微笑む。
「ふふ。グレースは相変わらずね」
「どんな手紙だったんだ?」
「ただの交換日記。アルノー、あなた収穫祭で大活躍だったみたいじゃない?」
「……え、そういう手紙?」
「ええ。いろいろなことやったのねぇ……あなたのジョブで」
「…………」
レグナフィリア、こいつは俺が『自由人』であることを見抜いている。というか……初見で見抜かれた。
もう二十年前か……俺は一時期、レグナフィリアにいろいろ教わっていた。
まあ、俺のジョブが珍しいって理由。一緒にグレースと数名も指導を受けた。
「おい、俺のジョブについては」
「他言無用。ふふ、私は約束を守るわ」
「へいへい。それより、報酬」
「はいはい……」
レグナフィリアが指を鳴らすと、依頼書にサインがにじむ。
「……それくらい手で書けよ。ったく、『精霊術士』のジョブは何でもできていいモンだねぇ」
「あなたも欲しい?」
「さーな」
依頼書を受け取り、紅茶を一気飲みして席を立つ。
「ああそうだ、アルノー……今夜どう? 久しぶりに飲まない?」
「お、いいね。もちろん、お前の奢りだよな?」
「もちろん。お店は?」
「近場の居酒屋でいいだろ。お前、もう少し地味な格好で来いよ。じゃあ、また夜にな」
「はぁい。ふふ」
俺は適当に手を振り、ギルマス部屋を出ようとした。
「やっぱり、あなたはいいわね。私を特別視しない、普通の友人として接してくれる」
「お前が怖いだけかもよ? ていうか、へコヘコするのが好きじゃないだけさ」
俺は部屋を出て、さっきの受付嬢のところへ向かうのだった。




