第28話
さて、俺は自宅で旅支度をしていた。
大き目のリュックに必要なモノを詰め込んでいく。
「着替え、キャンプ道具……クッカーに、テント、寝袋、釣竿。焚火台は……適当に石積んで作るか。ナイフにカトラリー……火は魔法で何とかなるな」
キャンプギア、けっこう昔に作ったんだよな。シモンの店にも俺の商品がいくつか並んでおり、たまーに売れるとか何とか。
「王都で何日か過ごしたら、湖の町スーリヤでバカンスだ。グレースの別荘どんなところかな~……旦那と住む予定だった家ってのが重たいけど、まあ普通の家だろ」
リュックに荷物を詰め、玄関に置いておく。
武器は剣が一本あればいい。いざとなれば魔法でも戦えるしな。
「おっと……せっかくのバカンスを邪魔されるのは嫌だしな。みんなに会わないようにしないと」
ラノベ的展開なら俺の知り合いがわんさと押し寄せ、みんなでバカンス……なんて展開になるんだろうけど、俺はそういうの望んでない!! なので……行くときはこっそり行くぜ。特に、エルレインとかにバレたら付いて来そうだし。
出発は明日。書状をギルドで受け取ったら、そのまま王都へ向かおう。
「うし。しばらく留守にするし……冷蔵庫のモン全部食っちまうか」
今日は、冷蔵庫掃除も兼ねて、家でメシを食うことにするのだった。
◇◇◇◇◇
翌日。
家の戸締りを確認し、ドアの鍵をしっかり掛け、庭の植木鉢の下に鍵を隠す……そこ、ベタって言うなよ。
そして、冒険者ギルドへ。
ギルマス部屋に行くと、グレースは煙草を吸いながら窓の外を見ていた。
「来たか。書状はそこにある」
「おう……よし、受け取った」
テーブルにあった書状をリュックの中に入れる。
グレースは、煙草を灰皿に押し付けながら言う。
「道中、気を付けろ……まあ、お前は心配ないだろうな」
「いやいや、普通に魔獣出たら逃げるぞ。討伐レートがB以上なら太刀打ちできないからな」
「本気で言ってるのか?」
「あったり前だ。俺はD級冒険者だぞ? さーて、知り合いにアレコレ言われる前に、さっさと出発するか」
「依頼を受けるのを忘れるなよ」
「はいはい。じゃあな、グレース」
俺は軽く手を振ってギルマス部屋を出た。
そして、そのまま一階にある受付へ。
「おうサラダ。グレースからの依頼、あるだろ。それ俺がやるから」
「はいはーい。えっと……ああこれですね。王都まで書状の運搬ですね。じゃあ、アルノーさんが受理したってことで」
依頼書を受け取る。
これで、依頼完了後にこの書状を王都のギルドに出せば、報酬が手に入る。
そのあとは……ふふふ、バカンスの開始だ。
「アルノーさん、王都のお土産期待してますね~」
「ははは、忘れなかったらな。じゃあ、行ってくるわ」
俺はリュックを背負い、冒険者ギルドを後にした。
ここから王都まで、乗り合い馬車でなら二日で行ける距離だ。徒歩だと何日か必要だが、まあ歩いて行くのも悪くない。
王都へ向かう道はしっかり整備されているので、魔獣こそ出るが見通しもよく比較的に安全だ。
俺は町を出て、王都へ続く街道をのんびり歩き出す。
「ふーふふ、ふふふ、ふーふふ~ん……っと」
青い空に白い雲、そして平原に吹く風、緑の匂い……なんて最高なんだ。
「湖の町スーリヤかあ……何度か行ったことあるけど、いつも素通りするからなあ。本格的なバカンスは初めてかも」
王都も久しぶりだし、行ったことのない居酒屋とか発掘しようかな。異国料理のお店とか、そこでしか飲めないお酒とかも。
ああそうだ。王都で酒を買って、別荘で飲むのもありだなあ。
「むふふ、むふ……」
やっべえ、楽しくなってきた。
というか、王都か。
「そういや、あいつら元気かな……」
王都には現在、アルテミウスたちがいる。
まあ、アルテミウスたちはいい。きっと冒険者として経験積んで頑張ってるだろうしな。
俺が言ってるのは、過去に俺が指導をした四人の冒険者だ。
「全員、S級冒険者だし、俺が今更心配するような連中じゃないけど……まあ、挨拶くらいはしていこうかな」
俺は、これまでけっこうな数の冒険者を指導してきたが……その中でも特に優秀な同期の五人がいる。
エルレインは王都を拠点としていないからよく顔を合わせるけど、それ以外の四人は皆、王都で活躍している。
S級冒険者は、ただでさえ少ない。全員が二つ名持ちで、さらに有名だ。俺の名前もちょっとだけ知られているのも、このS級冒険者たちが活躍しているせいもある。
「まあ、軽く挨拶して、さっさと湖の町スーリヤに行きますか」
この時点で、俺は知る由もなかった。
俺の指導した王都を拠点とする四人のS級冒険者が、厄介な問題を抱えていることに。




