第27話
収穫祭が終わり、再び日常が戻ってきた。
町もいつもの雰囲気に戻り、道行く冒険者たち、おばちゃんたちの井戸端会議、ボールを蹴る子供たちと、どこか安心させる光景だ。
現在、俺は欠伸をしながら歩いていた。
「くはぁぁぁあああ……だっる」
収穫祭で頑張り過ぎたせいか、イマイチやる気が出ない。
これから冒険者ギルドに向かい、適当に残った依頼を受けようかと思っていたが……今日は休んでもいいかなーと考えていた。
アレだアレ、ずっと楽しみにしていた飲み会の当日、無性に行きたくなくなるような……うーん、わかる人いるかな。
「……どうすっかな」
家に帰って二度寝しようか本気で考えていると。
「お、アルノーじゃん」
「ん? おお、ミアか」
冒険者仲間のミアだ。
ショートヘアの、どこか猫っぽい十八歳の女の子……考え方が俺とちょっと似ているせいか、話がよく合う。最初は敬語を使っていたが、最近はタメ口になっていた。
「なんだ、依頼か?」
「そうそう。なんと、ギルマスからの依頼」
「グレースの? あいつからの指名とはなあ。お前も出世したもんだ……って」
ミアは、なぜか俺の腕をがっしり掴む。
胸が密着しているが、硬い胸当て越しなのでミアも気にしていない。
「にしし。アルノーを連れて来てくれ、って依頼でーす」
「……えええ? 俺、二度寝しようと思ってたんだけど」
「ダメだめ。冒険者規約その……なんだっけ。その五くらいだっけ。冒険者は、ギルドマスターの招集には速やかに応じなければならない!!」
「……その十七だ。てか、招集は個人には当てはまらないぞ」
「はいはい。とにかく、ギルマスが呼んでるんで行きますよー」
「待て待て、なんかイヤな予感する!! 俺、帰る!!」
「ダメー」
こうして、俺はミアに引っ張られて冒険者ギルドへ向かうのだった。
◇◇◇◇◇
「来たか、アルノー」
「…………おう」
ギルマス部屋。
相変わらず広く綺麗で整頓されてる。安っぽい煙草の匂いがするけど、俺は嫌いじゃない。
同期にして隻腕の美女ギルマスであるグレースは、煙草を灰皿に押し付ける……ちなみにミア、俺を案内するなりさっさといなくなってしまった。
「まずは、収穫祭……ご苦労だった」
「おう。なんだ、特別報酬でもくれるのか?」
「馬鹿者。収穫祭の担当は持ち回りの無報酬だ。最初に説明しただろう」
まあ知ってるけどな……ちょっと期待してたけど。
グレースは「やれやれ」と苦笑し、新しい煙草を咥えながら言う。
「飲み代くらいなら、私が出してやる」
「お、いいね。じゃあ久しぶりに二人で飲むか」
「構わん。私の行きつけでいいか?」
「いいぞ。じゃあ、今夜また……」
「待て。用事を誤魔化そうとしても無駄だぞ」
くそ……このまま流れで帰ろうとしたがあっさり阻止された。さすが同期……俺の考えなんてお見通しかい。
俺は観念し、ソファにどっかり座る。
グレースは指パッチンで煙草に火を付け、俺の正面に座った。
「ふー……さて、お前を呼んだ理由だが、依頼したいことがあってな」
「拒否は?」
「無理だな。ギルドの正式な指名依頼だ」
「くっそ、ずるいな……まあ、しゃーねえか」
冒険者ギルドは、冒険者を指名して直接依頼することができる。その依頼は拒否もできず、冒険者は必ず受けなくちゃいけない……ったく、嫌な決まりだ。くっそめんどくさい。
まあ、指名依頼は普通の依頼料金に加え、ギルドからの報酬もプラスされるからかなりウマいっちゃウマいんだが……俺としては、グレースが厄介な依頼を俺にやらせようとしているようにしか思えない。
グレースは煙草を吸い、煙を吐いて言う。
「そう身構えるな。依頼は簡単だ……王都の冒険者ギルドに書状を届けるだけでいい」
「……」
「なんだ、その顔は?」
「いや、裏あるんだろどうせ」
「ない。全く、お前は同期である私を疑うのか?」
「おう」
即答すると、グレースはややムスッとして煙草を吸い、灰皿に押し付ける。
「純粋に、私からの好意だ。お前は、収穫祭で活躍してくれたからな。王都の冒険者ギルドまで簡単なお使いをして、報酬を手に入れ、その報酬でバカンスでも……と思ったんだがな」
「……ほんとに?」
「ああ。それと、受けるなら、私の個人別荘も貸してやろう。王都の隣にある『湖の町スーリヤ』で、しばらく休暇でもどうだ?」
「……う、嬉しい話だが、うむ、なんでそこまで親切に? 疑うなってのが無理だぞ」
俺はなんとか普通の声を出した。
湖の町スーリヤ。王都の隣にあるリゾートの町。大きな湖を囲うように古い町があり、観光の町として栄えている。
地球で言う水の都ベネチアみたいな、歴史あり、なおかつハワイみたいなバカンスに特化した町……行ったことはあるが、滞在したことはない。
「さらに、ギルドの上乗せ報酬だが……私個人からも色を付けてやる」
グレースが依頼書を俺の前に。そこに書かれていた報酬を見て目玉が飛び出そうになった……俺の、一年分の生活費である。
「ななな、ここ、こんなに? マジで? おい……嬉しいけど、さらに疑いが濃くなった。お前、何企んでる」
さすがに冷静になった。
王都までのお使いだけで、報酬が俺の一年分の生活費ってどう考えてもおかしい。これは裏があると考えるべきだ。
すると、グレースは特に慌てるでもなく普通に言う。
「疑う気持ちは理解できる。だが、本当に純粋な感謝の気持ちだ」
「……なんのだよ」
「収穫祭だ」
「……いや、収穫祭って。さっきお前も言っただろ。持ち回りで、俺は仕事しただけだぞ」
「その仕事だ。知らないのか? お前の考案した焼きそば、カキ氷……知り合いの飲食店でも提供を始め、どの店も人気となっている。恐らく、この町の名物になるだろう。ふふ……町長も喜んでいた。この町に新たな飲食産業が生まれるかもしれないとな」
「あー……」
焼きそば、カキ氷……確かに、珍しいもんな。
あれか、この町のB級グルメみたいな感じで定着しそうな感じなのか。
「そういうわけで……これは私と、この町の町長からでもある。遠慮なく受け取ってほしい」
「……はああ、まあ、それで納得してやるよ」
俺は依頼書を受け取る。
「とりあえず、お前の別荘について聞かせてくれよ。そこ、使っていいんだろ?」
「ああ。十年ほど前に買った物件だ……正確には、旦那と住む予定だったがな」
「あ、ああうん、そっか」
こ、コメントしづれえ……なんかすまん。
グレースは煙草を吸おうとしてやめる。
「あとで、地図をやる。管理はされているはずだから、荒れたあばら家なんてオチはないはずだ」
「そこは信頼してるよ。ふふ、ふふふ……バカンス、久しぶりだな」
「ふ……ところで、誰か誘わないのか?」
「えー? 誘うわけないだろ。そもそも、こんな三十五歳のオッサンにバカンス誘われて行くやつなんていないいない」
「……ふむ」
グレースは、なぜかドアに一瞬だけ視線を向けた。
俺も視線を向けたが……当然、ドアが開くことはなかった。
「……まあいい。届け物の書状は明日までに用意する。出発のタイミングは任せるが、あまり遅くならないようにしてくれ」
「わかった。うし……あ、今夜奢れよ」
「わかっているよ。まったく」
さて、バカンスが決まった。
ふふふ……久しぶりに、発明とか全部忘れて、のんびりしますかね。




